村長の話を聞くレリアーノ
「すいませーん。どなたかー」
ルクアが扉を叩くと中から一人の老人が出てきた。突然の来訪者に訝し気な表情を浮かべていたが、ベルトルトからの依頼でやって来たと紹介状を見せると、快く中に入れてくれた。
「鉱石を採りにくる季節になったんじゃなー」
「取りに来る季節? 鉱石を採るのに季節なんてあるのか?」
村長と名乗った老人が感慨深げな表情を浮かべながら頷いているのを、レリアーノが不思議に思って問い掛ける。
「そうじゃのう。そろそろ寒くなるじゃろう? 遺跡で採れる鉱石はギルドの温度管理に使っておるのじゃ。1年に1回は交換するようにしておってな。それを取りに来る冒険者を歓待するのが儂の役目じゃ」
「そうなんだ。あの寒い時でもギルドが暖かいのは、鉱石があるお陰だったなんて」
「責任重大ね。大量に採らないとね」
村長の説明を聞きながら決意を新たに話をしていた二人だったが、村長が残念そうな顔をしながら補足をしてくれた。
「採れる鉱石は1つだけじゃ。遺跡に居るゴーレムの守護者を倒すと鉱石が手に入る。守護者はそれほど強くないから安心するがええ。ただ採りに行くための遺跡に入る方法が特殊なんじゃよ。そこのエルフのお嬢ちゃんじゃないと、門が開かないんじゃ」
村長の言葉にレリアーノがルクアを呆れた表情で見ると呟いた。
「……。なあ、ルクアがエルフってバレすぎじゃないか?」
「なんてことを言うのよ。私の隠匿魔法は完璧なのよ! ……でも、最近は自信がなくなってきているわ。あまりにも見破られすぎじゃない? 何十年も問題なかったのはなんだったのよ」
レリアーノのツッコみにルクアが最初は力強く反論していたが、村長を見ると徐々に自信がなくなってきたようでブツブツと壁に向かっているルクアに、村長が申し訳なさそうな顔になった。
「すまんのー。単にこの遺跡に入いるのにエルフが門を開けないといかんんでのー。じゃからお嬢ちゃんがエルフだと思っただけなんじゃ」
「「 は? 」」
村長の言葉にレリアーノとルクアが間の抜けた声を出す。
「じゃあ、なんで私がエルフだと分かったのよ? ひょっとしたらレリアーノがエルフかもしれないじゃない」
「ほほ。それはもっともじゃな。単に儂がエルフなら女の子の方がええと思ったじゃけだわい。そっちの坊主がエルフだったらガッカリじゃからの。ほっほっほ」
まさか隠匿魔法がバレたのではなく、村長の好みだったと聞かされたルクアは、愕然として口を開けており、レリアーノは苦笑を浮かべていた。
「まあ、儂の経験則でもあるがのー。エルフは男性よりも女性の方が里から出る者が多いのじゃよ。だからあまり正体がバレても気にせんでええ。ここが特殊な環境じゃらから、二人のうちのどちらかがエルフじゃと思っただけじゃからのー。わびと言ってはなんじゃが、今日はもう遅いから泊まっていくがええ」
村長はそう言いながら、ルクアに向かって片目をつぶる。
「ところで部屋割りじゃが坊主と一緒の部屋でいいかの?」
「いいわけないじゃん! 別の部屋にしてくれよな」
茶目っ気たっぷりな村長に、レリアーノが真っ赤な顔で拒絶する。
「ほっほっほ。若い者は元気があっていいのう。それにしてもエルフのお嬢ちゃんと坊主は実に面白いのう。来年もぜひとも来て欲しいもんじゃ」
「「 絶対に来ない(わ)(よ)! 」」
村長の誘いにレリアーノとルクアは声を合わせて拒絶するのだった。
◇□◇□◇□
「なんなの! あの人を食ったような性格の村長は」
「まあまあ。きっと年に一度の楽しみなんだろう。食事も豪華だったしさ。来年は絶対に来ないけどな」
「当然よ!」
食事も終わり二人で藩士をしていたが、怒り心頭のルクアにレリアーノが珍しく宥めていた。
いつもとは違う宥め役のレリアーノがルクアに話かけていたが、ルクアは隠匿魔法が破られていたと思い込んだ自分と、人を食った態度の村長に対して怒りの持っていきようがない感じだった。
今日は早めに寝た方がいいと判断したレリアーノが提案する。
「とりあえず今日は寝てしまおう。そしてさっさと依頼を終わらせて帰ろう。ベルトルトさんが指名依頼を出したのは、ルクアがエルフだったからだと分かって俺はすっきりしたけどね」
「私はすっきりしないわよ! それにしてもあの爺さんの態度は許せないわ。私がどれだけ苦労して隠匿魔法を使い続けていると思っているのよ。私が自分でエルフだと暴露するのはいいけど、見破られるのは本当に嫌なのよ! ……。ふう。でもそうね。ここで怒ってもしかたないものね。さっさと依頼を終わらせて帰りましょう」
やっと落ち着いたのか、ルクアが前髪をかき上げなら呟くと、あてがわれた自分の部屋へと向かって行った。
「明日になったら落ち着いてくれるといいけどな」
そう呟きながら見送ったレリアーノは自分も部屋に入ると、杖を片手にスキル拡張収縮魔法の練習を始めた。
そして、いつものように体の魔力を巡回させ杖に集中させていく。
「ここからが難しいんだよな。ライトニングレインをわざと弱く打つ練習なんてなんの意味があるかと思ったけど……」
大賢者であるマリウスから教えられた練習方法であり、最初は疑問に思いながら行っていたレリアーノだが、ここ最近になって練習の効果が表れ始めていた。
「よし。いい感じだ。『我が手に集まれ雷の力! ライトニングレイン』」
レリアーノの詠唱を受けて杖が輝き、小さな針がレリアーノの目の前に現れる。
ゴブリンジェネラルたちを倒した時とは違い、威力はかなり抑えられており、撃ち放たれた雷の雨は壁にぶつかって小さな火花を散らした。
「……。うん。もう少し魔力の収縮が出来れば実戦でも使えるな。後は魔力を使い切って休むとしよう」
寝る前には魔力をギリギリまで使い切るようにとも指導を受けているレリアーノは拡張収縮魔法を使い、魔力が切れるまで何度も練習をするのだった。




