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レリアーノは武器屋に向かう

「後はあなたの装備を揃えたら出発ね」


「ちょっと待った! さすがに装備までは頼めないぞ。自分で買うから大丈夫だ」


「ふふっ。男の子の矜持(きょうじ)なのかしら? そう言うのは嫌いじゃないけどね」


 店に入りながら会話をしている2人に、武器屋の店主がレリアーノを見かけると嫌悪感も露わに話しかけてきた。


「強制脱退された奴じゃないか。ギルドへ依頼を出しているときに一部始終を見ていたぞ。お前さんに売れる物なんてここには何もないから帰りな」


「あんたはギルドの話を鵜呑みにして上顧客を見逃すつもりかい? この子は英雄になる器を持っている逸材よ」


「いいんだルクア。事実だから。でも、強制脱退されたのは冤罪なんだ。それを証明する為、追放した奴らを見返すため、俺はルクアと旅立つことを決めた。そのためには装備が必要なんです。お願いですから売ってください」


 武器屋の店主に憤慨して食って掛かるルクアをレリアーノが止めると、武器屋の店主に対して頭を下げる。


 しばらく無言でレリアーノを睨みつけていた武器屋の店主だったが、レリアーノに近付くと胸ぐらをつかんだ。


 そしてレリアーノの目を覗き込む。


「なにも言い返さないのか?」


 自分にやましい事は無いと無言で見返すレリアーノの瞳を見て、武器屋の店主は胸ぐらから手を離すと、今度はレリアーノの両手の平を確認して小さく頷いた。


「いいだろう。兄ちゃんの話を信じようじゃないか。目と手は裏切らねえ。お前さんの手は苦労を知っている者の手だ。悪人には作れない努力の跡がある。悪かったなレリアーノ」


 好きな物を選べばいい。適正な金額は当然ながらもらうがな。


 そう言い残してレリアーノの肩を軽く叩くとニヤリと笑った武器屋の店主にレリアーノは頭を下げ、店内にある武器を眺め始める。


 武器選びをしているレリアーノに、何も持っていない事を不振に思いレリアーノに問いかける。


「今まではどんな武器を使っていたの? なにも持っていないじゃない」


「ん? 護身用に小剣を持っていたけど、追放されたときに取り上げられたんだよ。『お前が武器を持つなんてなにを考えているだ! 少しでも荷物を持てよ。戦闘では役に立たないんだから』と言われたな」


 ルクアに答えながら、自分が再び武器を持つは思っていなかったレリアーノは、テンションが上がっているのを自覚していた。


 そして長剣や戦斧、弓などを眺めながら、どれも一級品と呼べる逸品であり、今まで貯めてきたお金で購入できるのかと悩んでいるレリアーノにルクアが再び話しかける。


「今まで剣を使っていたのよね?」


「村に居た頃は、剣を片手にゴブリンや狼退治をしていたよ。冒険者になってからは荷物持ちだけだったけど」


「うーん。護身用に小剣はありだけど、レリアーノのスキルを考えると発動体を兼ねた方がいいのよねー。資金の余裕があればミスリル素材の剣を勧めるけど。あれなら発動体にもなるから」


 ミスリルを使った武器を購入する資金などレリアーノには当然なかった。


 それにランクの低い冒険者が身の丈に合わない装備をしていると、追い剥ぎ対象や他の冒険者に絡まられることにあり、ギルドでもランクにあった武器が推奨されていた。


「そんな高価な武器は俺には合わないよ。だからそれ相応の武器を――」


「私だったら、これを勧めるわね」


 ルクアの手にあるのは魔術師が使っている杖に見えた。


 しかし杖と呼ぶには重厚な金属で作られており、長さもレリアーノの身長と同じくらいあった。


「これは先端に発動体が付いているけど、戦闘もこなせるのよ。ここの店主は変わっていて、自分で考えた武器を作るのが趣味なの。これは戦える魔術師を想定して作ったんでしょうね。そもそも魔術師が戦うなんてありえないし、それに値段も高いのよ」


「一言余計だぞルクア。まあ、そう言うこった。ルクアが持っている杖なら、お前さんでも使いこなせるだろう。剣じゃなくて杖なら他の冒険者から絡まれることもないだろう。買うなら値段は勉強してやる。偏屈のルクアが仲間にしたいと思った逸材みたいだからな」


「一言多いのはどっちよ!」


 ルクアと武器屋の店主とのやりとりに思わず笑うレリアーノだったが、勧められた杖を手に取ってみる。


 そして軽く振ってみて驚きの声を上げる。


 まるで自分の為に作られたかのように手に馴染んでおり、また魔力を通してみたが違和感なくスムーズに使えた。


「これいいかも」


「ははっ! それの良さが分かるなら金は半値でいい。代わりに感想を俺に教えろ。それが差額の代金だ。防具は値引きせずにきっちりと取るがな。がーはっはっは」


 豪快に笑っている武器屋の店主にルクアが呆れたように苦笑しながらも、事前に目星を付けていた防具をレリアーノに手渡す。


「そんな売り方をしているから繁盛しないのよ。まあ、まけてくれるなら私はいいけどね。これなんていいと思うから装備してみなさい。微調整が必要だからね」


 ルクアから手渡された防具を受け取りながら、店主に金額を聞くと金貨1枚以上はすると伝えられた。


「金貨1枚以上! 武器を半値にしてもらっても、そんな金額は持ってないから」


「私が払うから気にしないでいいわ」


「気にするわ! コンビを組んだばかりなのに借りなんて作れないよ」


 防具代を全額支払うと言い放ったルクアに、レリアーノが慌てるのを見て武器屋の店主が大笑いしていた。


「ルクアも大概じゃねえか。よく商人ができるな」


「私もあなたと一緒で先行投資するのよ。これからの冒険でレリアーノから少しずつ返してもらう見込みがあるからね。単に値引きしたのと一緒にしないでよ」


 武器屋の店主のツッコみにルクアが顔をしかめて反論する。


 顔が若干赤いように見え、照れ隠しをしているのは明白であった。


 困惑しているレリアーノに、ルクアは赤い顔のままレリアーノの背中を押しと更衣室に追いやった。

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