ギルドカードを更新するレリアーノ
「もう帰って来たのか? 依頼は1か月は掛かると思っていたんだが?」
ベルトルトが話しかけてきた冒険者に問いかえると、満面の笑みで答えが返ってきた。
「はっは。あの依頼なら2週間もあれば問題ないですよ。もう少し依頼内容を吟味した方がいいと思いますけどね」
「なるほどな。だが、お前たちだからこそ可能だったんだ。他の冒険者が同じ時間で対応が出来るとは思わん。なので依頼内容は間違っていないからな」
なにやら依頼について話をしているベルトルトと冒険者を見ていたレリアーノだったが、ルクアに手を引かれギルドの受付に向かう。
「ほら、まずはレリアーノのギルドカードを更新しないと」
「ああ、そうだった。あの人たちは高ランク冒険者なのかな? ベルトルトさんとも親し気に話していたもんな」
レリアーノの疑問にルクアは軽く肩をすくめながら興味がないと言わんばかりであり、それよりもレリアーノのギルドカードの更新を一刻でも早くしたと訴えかける目をしていた。
「分かったよ。まずはギルドカードの更新をして依頼を見ようか」
「そうよ。早く依頼を受けたいわ。すいませーん」
ルクアの声にギルドの受付嬢が気付くと、自分の元に来るように伝えた。
「いらっしゃいませ。先ほどギルドマスターと一緒に入ってこられましたが、当ギルドにどのような御用でしょうか?」
「こっちのレリアーノのギルドカードを更新して欲しいんだけど。ほら、レリアーノは早くギルドカードを受付のお姉さんに渡す」
ぱっと見は兄妹でやってきた経験の浅い冒険者のようだが、ギルドマスターであるベルトルトと親し気にしていたので、受付の女性はいつもより丁寧な対応を心掛けていた。
「レリアーノ様でよろしかったですよね? ではギルドカードをお預かりしますね。……。え? あなたがあの?」
ギルドカードを受け取った女性が内容を確認すると驚いた顔になる。
ギルドマスターであるベルトルトから冒険者を預かると聞かされており、その少年は不遇にもパーティーを追放された上に、冤罪で強制脱退扱いをされてギルドランクが最底辺になったと聞かされていた。
実際はゴブリンジェネラルを討伐出来るレベルの腕前があり、英雄と呼ばれる大賢者マリウスと、王国の盾ベルトルトから期待されている逸材であるとも聞かされていた。
「どうかしましたか?」
「いえ。失礼しました。すぐに更新をしますので、席に座ってお待ちください。妹さんも一緒に待っていてくださいね」
不思議そうな顔をしているレリアーノに、慌ててなんでもないと伝えた女性は、レリアーノとルクアに待つように伝えると、事務所の奥に入っていった。
「い、妹?」
「ぷっ。仕方ないだろう。ルクアの姿は子供サイズなんだから」
「それにしてもよ! 私から溢れ出す強者感が分からないのかしら? ギルドの受付嬢にしてはなってないわね!」
ぷりぷりと怒っているルクアを見ながらレリアーノは笑う。
30分ほど待たされた二人だが、その間にどんな依頼を受けるか話をしており、また今後の活動方針などを決めていたために、それほど待たされているとは感じていなかった。
「お待たせしました」
かなり急いで対応したようであり、軽い駆け足で戻ってきた女性は申し訳なさそうにしながらレリアーノにギルドカードを手渡す。
「おお。鉄のギルドカードになってる」
「Cランク冒険者になった証拠よ。Dランクまでは木で作るの。なんでか分かるわよね?」
感動した様子で女性からギルドカードを受け取ったレリアーノに、ルクアがいたずらっ子のような表情を浮かべて質問してくる。
「当然だ。Cランクは一人前だと認められた証拠だからだろ。Bランクなら銀、Aランクなら金だよな。俺も早くルクアのように金のギルドカードを持てるように頑張るよ」
「え!? 妹さんがAランクですって!」
「妹じゃないわよ! 私がパーティーリーダーのルクアなの。ほら、冒険者カードよ」
完全にルクアを妹だと思い込んでいた女性に、ルクアが憤慨しながらギルドカードを提示する。
金色に輝くギルドカードを見た女性は、驚いた顔をしながら何度も表裏を確認し、間違いないことが分かると慌てて立ち上がって謝罪した。
「申し訳ありません! Aランク冒険者の方にとんだ失礼をしてしまいました」
「いいわよ。見た目で判断されるのは慣れているもの。でも、気分がいいものじゃないから、次からは気を付けなさいね」
自分のミスにしゅんとしている女性に、ルクアがさすがに言い過ぎたと反省して、軽くフォローする。
「はい。本当に申し訳ありませんでした」
「手続きは済んだのか? ん? どうした。なにかあったのか?」
少し暗い感じになっている空気を感じたのか、先ほどの冒険者との話を切り上げたベルトルトが、三人の元にやって来た。
「ちょっとした行き違いがあっただけだよ。もう終わっているから気にしなくていいよ。なあ、ルクアもそうだろ」
「ええ。反省しているようだし、それにもう気にしていないわ。ところでギルドマスターに質問があるんだけど」
レリアーノがフォローするように、なにもないと伝え、ルクアも問題ないと頷き、それよりも今後の活動についての話を聞きたいとベルトルトに質問を投げかけた。
「今後の活動についてだが、レリアーノにはCランク冒険者として働いてもらう。まあ、私からの指名依頼を受けてもらう事になるな。合間に自分たちで依頼を受けることも可能だ。週に1回は特別訓練も受けてもらうが、これはレリアーノ次第だな。私が合格を出せば終わりになる」
「ベルトルトさんの特別訓練って、物凄く恐ろしいと聞いたけど?」
特別訓練と聞いたレリアーノの顔が若干青ざめているのをみて、ベルトルトが苦笑しながら補足をしてくれた。
「ああ。先日の騒動で私が特別訓練と言ったからか。誰かに懲罰的な内容だと聞いたのだろう。レリアーノにそんな内容の特別訓練なんてしないから安心しろ。レリアーノへは基礎訓練が中心になる」
あからさまにホッとしているレリアーノにルクアが面白そうにしていたが、何かを思い出したのか一連の流れを眺めていた女性に声を掛ける。
「ねえ、あなた。名前は?」
「私ですか? クレメンティアですが」
「クレメンティアは今日から私たちの受付担当ね。いいでしょ? ベルトルト」
「ああ、構わない。ではクレメンティア。今日から君はレリアーノとルクアの専属受付嬢だ」
「「 ええぇぇぇ! 」」
突然のルクアの提案とベルトルトの了承に、クレメンティアとレリアーノが驚きの声を上げるのだった。




