新たな場所に移動するレリアーノ
第2章となるお話の開始です。
「それにしても遠いなー」
「そうねー。馬車に乗って1週間よ? ゲールハルトの領地からも出てるもんね。ベルトルト。まだ着かないの?」
「もう少しかかるなな。後2日ほどだ」
馬車に揺られながら進んでいる平和な1週間であった。
街道を通っているので盗賊や魔物の出現は少なく、現れたとしても護衛の冒険者たちが一瞬で蹴散らしていた。
レリアーノやルクアの出番はもちろんなく、野営をするときに手伝うぐらいだったが一同からは大絶賛を受けていた。
あまりにも快適なルクアの野営設置方法を知りたがる冒険者たち。
またレリアーノが作る料理は絶賛の嵐であり、あまりにもハイスペックな2人を引き抜きこうとするパーティーまで現れる始末。
ベルトルトがレリアーノとルクアを引き抜かないようにと注意していたにも関わらず勧誘するパーティーが現れた事で混乱が起こっていた。
あわや殴り合いの喧嘩に発展しそうになったが、ベルトルトが強権を発動して騒動を鎮圧する。
最初に声を掛けたパーティーと喧嘩をしそうだった数人は、ベルトルトから厳重注意を受け、そして特別訓練が命じられていた。
「ベルトルトさんの特別訓練って、そんなに恐ろしいのか?」
特別訓練と告げられたパーティーメンバーと一部の冒険者は一様に青い顔をしており、レリアーノが首を傾げていた。
そんなレリアーノの様子に、近くに居た冒険者が小声で教えてくれた。
普段は温厚で頼りになる兄貴分のベルトルトだが、約束を守らない者などには容赦がなく、性根を叩き直すと言っては過酷な訓練を施すとの事であった。
「俺は見た事しかないが、あれは本当にキツイと思う」
「そ、そんなに? これからベルトルトさんに鍛えてもらう予定なんだけど?」
「ああ。そうだったな。まあ、レリアーノなら大丈夫だろう。俺が見たのはベルトルトさんに一撃を入れるまでの戦闘訓練とか、立てなくなるまで素振りや魔法を使い続けるや、1週間は薬草採取依頼以外は受けさせないとか、街の慈善活動を1か月させるとかだ。お前さんは悪さをしていないから心配するな」
青ざめているレリアーノを見て、あまり脅かし過ぎたと反省した冒険者が慌てて取り繕うように特別訓練の内容を教えてくれた。
だが、薬草採取依頼や慈善活動以外はレリアーノでもやりたくない内容であった。
「そもそも、ベルトルトさんに一撃なんて入れられるのか? あの人、元王国騎士団長だろう。引退してるらしいけど、とても勝てる気がしないんだけど?」
「こら。レリアーノをあまりビビらせない。引き抜き禁止と言ってたのに、勧誘する奴が悪いのよ。それとレリアーノ。ベルトルトが呼んでいるわよ」
「分かった」
2人が話しているところにルクアがやって来た。
彼女はこれから野営の基本を冒険者たちに講習するらしく、レリアーノと喋っている冒険者を呼びに来たようであった。
そしてレリアーノにはベルトルトの元に向かうように伝える。
「じゃあ、またな。なにか知りたいことがあればなんでも聞いてくれ。これでも俺は高ランク冒険者だからな。色々と教えられることがあるぞ」
「レリアーノも早くベルトルトのところに行きなさいね」
レリアーノと喋っていた冒険者は軽い感じで手を上げると、ルクアと共に講習準備をしている場所に向かう。
その姿を眺めていたレリアーノだったが、ベルトルトに呼ばれているとの事で彼の元に向かった。
「ベルトルトさん。なにかありましたか?」
「ああ。ちょっと待っててくれ。この資料は読んでおきたい。そこで座って待っていてくれ」
ベルトルトのテントはすでに建てられており、その中で仕事をしているようであった。
ベルトルトはレリアーノに座るように指示をすると、先ほどまで読んでいた資料に目を落とす。
待っているだけでは手持ち無沙汰なレリアーノは、許可をもらって紅茶を淹れ始めた。
「どうぞ」
「ああ。すまないな。……。うまい。今回の旅は本当に気楽だ。レリアーノが料理を担当してくれるからうまい物が食べれる。まさか、旅の途中で食事を心待ちするとは思わなかったぞ」
「雑用係ならずっとやってたから。役に立ったようで嬉しいよ」
ベルトルトが書類から目を離して紅茶を飲むと、一流の喫茶店で出されてもおかしくない味に目を細める。
満足げに紅茶を飲んでいたベルトルトだったが、レリアーノを呼んだことを思い出すと、先ほどまで読んでいた資料を手渡した。
「レリアーノのランクを元のDランクに戻す書類だ。内容を読んで問題なければ署名をしてくれ」
「え? これからベルトルトさんと一緒に仕事をしてから、冒険者ランクを復帰させると聞いていたけど?」
突然の報告にレリアーノが目を見開きながら書類を確認したが、確かに自分のランクが元に戻ると書かれており、またゴブリンジェネラルの討伐に貢献したとの内容も記載されていた。
「これって」
「ああ、そうだ。ゴブリンジェネラルの討伐に貢献したことによりランクアップする事が決まっている。街に着いてレリアーノが最初にするのはCランク冒険者への登録作業だ」
なにが起こっているか理解が追い付いていないレリアーノを見て、ベルトルトは笑いながら説明をしてくれた。
レリアーノが冤罪で追放されたことは間違いだと証明されたこと。虚偽の申告でランクが落とされたのも取り消されたこと。そして追放したパーティーはすでに壊滅していること。
「え? あいつらが壊滅したって?」
「ああ。彼らはレリアーノと別れた後、ダンジョンへの素材依頼を受けた。依頼を完了した後に、帰り道で魔物に襲われ一人を残して壊滅したそうだ」
「誰が残ったんです?」
一人だけ生還者がいたとの話にレリアーノが生存者を確認をしたが、それが自分を追放した原因であるウードだと聞かされた。
「……。そうですか」
追放されたときは見返すと誓っていたレリアーノだったが、きっかけを作った相手がほとんど居なくなったとなると、なぜかやるせない気分になっていた。
「見返してやろうと思っていたのに」
「もう過去の話だ。その生き残った奴も別のパーティーに入ったと聞いている。お前を追放した奴らを見返すことはできなかったが、これからレリアーノが活躍することで、お前を追放したのは間違いだったと周囲には証明できるだろう。気持ちを切り替えて頑張ってくれ」
ベルトルトの言葉にレリアーノは大きく頷くと、これから活躍するためにはどうすればいいのかと考えを切り替える。
目に力が宿ったレリアーノを見て、ベルトルトは小さく微笑むのだった。




