レリアーノは振り回されれる
「そんなに引っ張るなって」
ルクアに引っ張られながら連行されているレリアーノがさすがに抗議をすると、唐突に腕を離される。レリアーノがたたらを踏みながら文句を言おうとしたが、腰に手を当てて怒りの表情を浮かべているルクアに思わず後ずさった。
「みんな待っているのよ。シャルちゃんなんて『レリアーノ兄ちゃんが来てくれない……』と泣きそうになっているし、ルイーゼも『私達の事なんて、どうでもいいのですわ』と言いながら怒っていたわよ。特に二人に会ったら謝りなさいよ。忘れているのでしょうけど、ゆっくりと喋れるのは今日だけなのよ」
ルクアの言葉にレリアーノがハッとした顔になる。明日には当面の別れが待っており、身内でお別れパーティーをする事を忘れていたのだ。
「ごめん……。そうだよな。皆にちゃんと謝るよ」
「そうしなさい」
反省しているレリアーノを見てルクアは表情を緩めると、再び腕を組んで歩きだした。今度は引っ張るのではなく一緒に歩いており、他人から見れば恋人同士に見しか見えなかった。
「ちょ、ルクア。もう大丈夫だって」
「あら。私と腕を組んで歩くのは嫌なの?」
「そうじゃないけどさ」
落ち着かない感じで顔を赤らめているレリアーノを見て、クスクスとルクアは笑う。からかわれているのは分かっているのだが、なぜか抵抗できないレリアーノは大人しく腕を組まれるまま会場に向かった。
「遅いよー。あー! ルクアと腕組んで歩いてる。ずるいー!」
「ふふ。シャルも女性なのね。仕方ないわね。反対側はシャルにあげるわ」
腕を組みながらやって来たレリアーノとルクアに、シャルが頬を膨らませていた。可愛らしいしぐさをしているシャルに、ルクアは微笑みながら反対側を譲る。
「わーい。レリアーノ兄ちゃんの右は私のものー」
「おい、ルクア。『あげるわ』じゃないだろう。俺の身体は物じゃねえぞ」
ルクアの言い方にレリアーノが思わずきつめに文句を言ったが、それを聞いたシャルが涙目になり、抱き着こうとしていた状態で立ち止まるとフルフルと震えだした。
「お兄ちゃん。嫌だった?」
「い、いや。嫌とかじゃないぞ。だから泣かないでくれ。頼むよ。な?」
「本当に? シャルの事を嫌いじゃない? 好き? 大好き?」
「ああ! 大好きだぞ! シャルは俺の妹みた――」「じゃあ、シャルはお兄ちゃんのお嫁さんになる!」
下を向いてしまったシャルを泣き止まそうと必死で宥めているレリアーノに、シャルが目を潤ませながら自分を好きかと聞いてくる。嫌いな訳もなく、妹のようにかわいがっているレリアーノは、何度も頷きシャルの頭を撫でながら慰める。そしてレリアーノを言葉を聞いシャルは。レリアーノの左腕に思いっきり抱き着つくと、満面の笑みを浮かべ弾むように高らかに宣言した。
「まあ、レリアーノも隅に置けませんわね。こんな小さな子を娶るなんて」
「え? ちょっと待って? ルイーゼも勘弁してくれよ」
「そうね。第二夫人だったらいいわよ。私が正妻でいいならね。シャルは2番目ね。ルイーゼは第三夫人かしら?」
「あら。私が正妻になる方がレリアーノは喜ぶんじゃないの?」
「おいルクア! 何を言ってるんだよ!? ルイーゼも一緒になってなに言ってるんだよ」
「第二夫人ってなーに?」
ルイーゼとルクアが微笑みながら、連携しながらレリアーノをからかう。第二夫人との意味が分からず、首を傾げているシャルに母親のレーナが苦笑を浮かべながら説明をする。
大きく目を開けてルクアとルイーゼを見上げるシャルだったが、大きく頷くと何かを理解したようだった。
「分かった! 第二夫人でいいよ。ルクアとルイーゼお姉ちゃんと一緒に暮らせるんだよね?」
「ええ。そうですわ」「良かったわね。レリアーノの活躍を期待している3人の奥さん候補が出来たわよ」
「ちょ、ちょっと何を言っているんだよ。……。ああ、もう! 分かったよ。シャルは楽しみに待っていてくれ。俺は絶対に英雄になって戻ってくるからな!」
ルクアとルイーゼのからかいと、期待で目を輝かせているシャルに囲まれたレリアーノがやけっぱちのように宣言する。美女2人と可愛らしい少女1人に言い寄られているのに、なぜこんなにも心が躍らないのだろうとレリアーノは思うのだった。
◇□◇□◇□
「それにしても娘に婚約者が現れるなんてね。子供の成長は早いものだよ。そうは思わないかい? ところでユリアーヌはいい人はいないのかい。妹に先を越されてしまうよ」
「それってレリアーノがすぐにでも英雄になると言っているみたいだな。まあ、レリアーノならすぐに頭角を現すだろうな。今まで野で埋もれていたのが信じられない」
父親であるゲールハルトに話しかけられたユリアーヌがレリアーノ達を眺める。物凄く楽しそうにしており、特にレリアーノは困った顔をしながらも満更ではない表情を浮かべていた。
「俺はここが限界だったんだな」
祖父である大賢者マリウスに憧れ魔法使いを目指したが、魔術に関する才能がないと言われ諦めた。ならば剣を極めて勇者と呼ばれようと鍛錬を続けていたが、高ランク冒険者と呼ばれるようにはなったが勇者にも英雄にもなれなかった。
「お前はお前で出来ることをすればいい。父親としては息子が怪我をしながらも、無事に帰って来てくれたことが一番嬉しいがね。ところで、さっきからユリアーヌの事を見ているお嬢さんがいるが、彼女が想い人かい?」
ユリアーヌは父親であるゲールハルトが軽く肩を叩きながら安堵した表情を浮かべているのを見て、心が温かくなるのを感じていた。しばらく話していたがゲールハルトの喋り方が、からかっている口調に変わり、口元には笑みを浮かべていた。
「モニカ?」
そこには表情が暗いユリアーヌを心配をしている、恋人であり仲間のモニカの姿があった。近付くことをためらっているモニカを見て、ユリアーヌはこっちに来るように手招きをすると、やってきたモニカを抱き寄せた。
「きゃ!」
「俺の冒険者生活で手に入れた最高の宝を親父に紹介するぞ。モニカだ。彼女は優秀な仲間であり、俺の大事な人だ」
「ちょっ! ユリアーヌ!」
「ほう。それはそれは。素晴らしい宝を手に入れたのか。なら我が息子の冒険者稼業は無駄ではなかったらしい。よろしくお嬢さん。まずは2人の出会いから聞こうかな?」
レリアーノの紹介に真っ赤になっているモニカを見ながら、ゲールハルトはユリアーヌに家督を譲る事と、二人が結婚するために必要な手続きを進めていこうと決めるのだった。




