レリアーノはルクアの提案に驚く
「どう? なにが表示されたの?」
「拡散収縮魔法って書いてある。なにこれ? すごいの?」
「すごいわよ! あなたの能力は支援魔法なんかじゃなかったのよ。レアスキルよ。伝説級と言っても過言じゃないわ」
「拡散収縮魔法と言われても……」
自分のスキルが支援魔法でなく、レアスキルであると言われてもレリアーノは首を傾げるしかなかった。
レアスキルと呼ばれるスキルを持っている冒険者は少なく所持者している者は高ランク冒険者まで短期間で上り詰め、二つ名を持つ者や英雄と呼ばれる者が多かった。
「聖剣召還や全属性適正とかは聞いたことあるけど」
「勇者や英雄が持っているスキルね。その他にも無限収納や魔物使役などがあるわ。それは置いといて、あなたのスキルは魔法に魔力を注ぎ込むことができるし、それに範囲を自由に設定できるのよ! 私も長く生きてきたけど初めて見るスキルだわ」
「さっきから何度も『長く生きて』って言ってるけど、年齢を教える気はないんだよな?」
「当然よ!」
レリアーノのスキルを聞いて、自分の勘に間違いはなかったとルクアが何度も頷いていた。
そしてルクアの年寄りじみた発言にレリアーノが苦笑を浮かべながら年齢を確認するが笑顔で拒絶された。
妹と同じくらいに見える外見であり、自分より小さく、見た目はやっと少女に届きそうな感じであり、成長すれば街を歩るだけで男性が振り返るであろう可愛らしい顔立ちをしており、なにより全身から発せられる躍動感がある。
「なにを見ているのよ? お姉さんに惚れちゃだめよ?」
「いや、スキルを鑑定できるルクアは凄いなと」
しなを作ってウインクまでしてくるルクアに、レリアーノは呆れた表情で誤魔化すように答える。
「どうせ、小さいのに年寄りじみた発言をするとか思っているんでしょ? あなたも見た目に騙される口なの? お姉さんは悲しいよ」
「どう見ても俺の方が年上に見えるからな!」
泣き真似をしながら顔を覆うルクアにレリアーノがツッコミをいれるも、からかう様に泣きまねを続けるルクア。
だが、急にルクアがまじめな顔になるとマジな声でレリアーノに語りかける。
「レリアーノ」
「な、なんだよ?」
さきほどまでの笑顔ではなく叡智を感じる目で見つめられ、思わず背筋を伸ばすレリアーノに、ルクアから告げられた言葉は思ってもいない内容であった。
「私とコンビを組んで旅をしない?」
「急にどうしたんだよ? 俺とコンビを組むだって? でも俺はギルドの出入りを禁止され……」
ルクアからの誘いにレリアーノが驚いた顔になる。
そして追放された自分とコンビを組んでも意味がないと言いたげなレリアーノに、ルクアが腰に手を当ててため息吐いた。
「はっ! ランクを落とされても、やり直せばいいじゃない。再び這い上がればいいのよ。このままでいいと思ってないでしょ? 悔し涙を浮かべていたレリアーノだから誘ったのよ。あなたを追放した、あいつらを見返したくはないの? 今まであなたが、どれだけパーティーに貢献をしたか分かっていないわ。そんな追放したパーティーに『お前達の目は節穴だったんだよ!』と言ってやりましょうよ。あなたにはそれが実現できるレアスキルがあるのよ!」
ルクアの激励と提案に、地の底まで気持ちが落ちていたレリアーノの心に、やる気に満ち溢れてくるのを感じていた。
◇□◇□◇□
「コンビを組んでくれるなら俺は嬉しいよ。仲間が居ると心強いからな。でも、ルクアさんは……」
「ルクアでいいわ。これからコンビになるのよ。さあ出発よ!」
レリアーノの目に強い光が宿ったと感じたルクアは、これ以上の反論は許さないと言わんばかりに闊達に笑うと旅立ちの準備を始める。
思い立ったら即行動と言わんばかりのルクアに、レリアーノが慌てて声を掛けた。
「おいおい。店はどうするのさ?」
「もちろん今日で店じまいよ。店舗は賃貸だし、当面の貯蓄はある。レリアーノを養ってあげられるわよ」
「いや、養ってもらう気はないけどさ。大量の荷物は――へ?」
店にある商品や荷物をどうするのかと問いかけようとしたレリアーノだったが、次々と陳列されていた商品が消えていくのを見て絶句する。
「ふっふっふ。実は私もレアスキル持ちだったのよ。無限収納は本当に便利よねー。どこでも1からやり直せるし、気楽に旅に出られる。荷物の量は心配しなくていいわよ」
全ての収納が終わり、後は不動産屋に鍵を返しに行くだけだと笑顔で告げるルクア。
「私の心配より、レリアーノは旅に出る準備は出来ているの?」
「ああ。すでに宿屋は引き払っているから、ここにある分で全てだよ」
「じゃあ出発できるわね。鍵を返したらすぐに旅立ちましょう。レリアーノを追放する街なんて居るのも嫌でしょう? こんなろくでもない街からは脱出よ!」
善は急げとばかりにレリアーノの手を引きながら不動産屋に向かう。
突然の店仕舞いを残念そうにしている不動産屋に鍵を返したルクアは、再びレリアーノの手を引っ張ると商店街に向かった。
「なんだいルクア。今日は彼氏さん連れかい?」
「そんなものよ。これからこの子と旅に出ようと思ってるの。この街で世話になった、あんたのところで食料を買い込んでいこうと思ってさ。本当に今まで世話になったわね」
「あらあら。あの身持ちの固いルクアがねえー。お眼鏡にかなった彼氏の為にも、頑張って勉強してあげようかね」
値踏みするように自分を見てくる食料品店の女将にレリアーノは苦笑していたが、次々と用意される荷物の量に驚きの声を上げる。
「こんなにいっぱい!?」
「ああ、女将は信頼できる人だからね。私のスキルを知っているのよ。支払いは銀貨の方がいいわよね?」
「そうしてくれるかい? 金貨でもらっても使い道がないからね」
大量の荷物を次々と無限収納スキルでしまい込み始め、そして全て収納を終えたルクアは女将に挨拶をして別れた。
他店でも旅に必要な物を次々と購入し、最後に武器屋へと向っていく。
引っ張られるままに連れられているレリアーノは、それぞれの店主から好奇の目で見られながら、レアスキルと言われた収縮拡散魔法についてルクアに聞くのを忘れていた。




