レリアーノは決断する
「ルクア」
「そうよ。あなたの見慣れたルクアよ。こっちの方がいいんでしょ?」
いつもの調子で話すルクアの姿はエルフではなく、いつもの小さい女の子姿であった。見慣れている姿に安堵する一方で、エルフであった際の美貌を思い出し残念だと思う気持ち。そんな複雑な感情が入り混じった表情のレリアーノの様子に、なにを考えているのか手に取るように分かる一同が微笑ましそうな顔になる。
「まあ、エルフ姿のルクアは絶世の美女じゃたからのう。がっかりするのも分かるわい
「ぜひ私も見たかったですな。レリアーノがここまで残念そうな表情を浮かべるルクア殿の美貌は興味がわきますな。初めまして、ルクア殿。ベルトルトと申します」
「初めまして。ベルトルトさん。よろしくね。それで、レリアーノに確認だけど、もう一度エルフの姿になって欲しいの?」
「その姿でいいから! やっぱりそっちの方が落ち着くから!」
一斉にからかわれ、耳まで真っ赤になっているレリアーノだったが、ベルトルトから提案された話を思い出し、真面目な表情を浮かべるとルクアに話しかける。
「実は相談があるんだ。俺は……」
「分かっているわよ。さっきまで話をこっそりと聞いていたのよ。いいわ。レリアーノのスキルアップにつながるのでしょ? だったらベルトルトさんの下で働きましょうよ。1年間との話だけど、短くなってもいいんでしょ?」
「ああ。構わない。今のレリアーノはいびつすぎる。そこを修正するのが私の仕事だと思っている。出来る事の把握と、出来ない事の底上げ。それを主にするつもりだ。こういった事は決めてすぐに動いた方がいい。騒動も私が来た時点で収まりつつあったので、マリウス殿から許可をもらって戻ろうと思っていた。それで明日には出発できそうかな?」
「明日? 本当に急だな。ゴブリンジェネラルの件は大丈夫なのか?」
「そこは心配せんでええ。王から許可をもらって、儂が当面は滞在する事が決まったんじゃ。レリアーノとルクアは安心してベルトルトの元で働いたらええ。大賢者である儂が調査責任者になるんじゃ。ここは世界で一番安全じゃと思っておればええ」
「まあ、爺さんが残るなら大丈夫だよな。頼りない俺よりも何万倍も役に立つよな」
「相手は大賢者よ。まだひよっこのレリアーノが心配する必要ないわよ!」
「なんだよ! 別に心配するくらいはいいだろ!」
レリアーノがゴブリンジェネラルの後始末を心配していると、マリウスが闊達に笑いながら問題ないと言ってくる。そしてルクアも笑いながらツッコみを入れる。そんなマリウスとレリアーノやルクア3人のやり取りを微笑ましそうに眺めていたベルトルトが声を掛けてきた。
「では明日の出発でよいな? 2人は世話になった者達に挨拶をしておきなさい。しばらくは会えなくなる」
「そうだった! ルクア、皆に挨拶に行かないと」
「分かっているわよ。みんなには色々と世話になったものね。レリアーノは特にルイーゼやシャルに挨拶しておきなさいよ。二人とも物凄く心配していたんだからね」
ユリアーヌの妹であるルイーゼと、馬車で知り合った幼女のシャルはゴブリンジェネラルとの戦いで、昏睡状態となって戻って来たレリアーノを見て大号泣しており、寝込んでいた2日間をほとんど寝ずに看病をしていたのである。
レリアーノが目を覚ます少し前に、これ以上は体調を崩すと周囲に心配された2人は強制的に休むように言われ部屋に戻っていた。そんな話をルクアから聞いたレリアーノが申し訳なさそうな顔になっていたが、感謝を伝える必要があると思いなおし急いで屋敷に戻ろうとルクアに言いだした。
「そんな話は早く言ってくれよ!」
「私が言ったら、レリアーノは2人の部屋に行くでしょ? 寝たばかりだったのよ。起こしてどうするのよ。今なら起きてるかもしれないから、戻ったらいいわ。私はマリウスとベルトルトに話があるから、レリアーノは先に戻ってなさい。ああ、それとレリアーノの取り分を忘れないうちに渡しておくわ」
「俺の取り分?」
なんの取り分か分かっていないレリアーノが首を傾げていると、ルクアが取り分の説明を始める。ゴブリンジェネラルとの戦いで活躍した一同に、領主であるゲールハルトから報奨金が支給されたこと。一番活躍をしたレリアーノには追加で金貨5枚が支給されており、またギルドにも活躍したことを領主名で報告済みであるとのことだった。
「き、金貨5枚。そんなにもらっていいのか?」
「あら? 金貨5枚は貴方への追加報酬よ。それ以外にも金貨が100枚が一人あたりに支給されているわ」
金貨と銀貨が詰まった革袋をルクアから手渡されたレリアーノが戸惑っていると、マリウスがさも当然とばかりに頷く。
「しっかりと働いた者には報酬を支払うのは当然じゃ。それほどゴブリンジェネラルは危険な魔物じゃったんじゃ。だから遠慮せずに受け取ればいい。欲しい物があるじゃろう。それに必要だと思う物を購入する資金にするといいじゃろう」
「……。分かった。有難くいただくよ。俺は先に戻っているよ」
ルクアから革袋を受け取ったレリアーノは鞄にしまいながら、街に戻って行く。そんな後姿を見ながら、ルクアは微笑みつつマリウスとベルトルトに向き直った。
「さあ、私達を働かせるなら、それなりの給金をくれるのでしょうね?」
「ふふ。必要最低限の給金は払いますよ。だが彼を鍛えるのが主目的だから、それほど多くは支払いは出来ないぞ」
「なにを言っているのよ。未来の英雄を鍛えられる栄誉が手に入るのよ? そこは奮発しなさいよ。それに絶世の美女である私も一緒についていくのよ」
「はっはっは。そんなちみっこがですか?」
ルクアとベルトルトが笑顔を浮かべながら、目は笑わずに舌戦を繰り広げる。銀貨1枚でも多くもらおうとするルクアと、銅貨1枚でも値切ろうとするベルトルトにマリウスは苦笑を浮かべるのだった。




