レリアーノは会心の一撃を放つ
ルクアが絶望した様子でしゃがみこんでいるのを楽しそうに眺めていたゴブリンジェネラルだったが、いくら経っても立ち上がらない様子に、徐々にイライラとしだす。
「ナニヲシテイル。ハヤクタッテコッチニコイ」
いくら呼びかけても反応をしないルクアに、我慢の限界となったゴブリンジェネラルが声を掛けたが、ルクアは首を振るだけで立ち上がろうとすらしない。業を煮やしたゴブリンジェネラルは配下のゴブリン達に命令を下した。
「ぎゃぎゃぎゃう!」
エルフの仲間を攻撃しろ。2匹までなら殺しても構わない。殺した人間は食ってもいい。その命令にゴブリン達は歓喜の声を上げ、得物を振り回りながらレリアーノ達の元へ殺到しようとした。
「ルクア! 待たせた」
「遅いのよ。エルフの乙女を裸に近い恰好にまでさせたのよ。これが終わったらレリアーノにはしっかりと責任を取ってもらうからね。『精霊よ。我が身に羽を頂戴。そして私の仲間にも羽を与えて』」
レリアーノの鋭い声にルクアが笑みを浮かべながら立ち上がる。そして精霊魔法を発動させた。先ほどまで絶望していたのが嘘のように、微笑みまで浮かべてゴブリンジェネラルを見下したように見ると勢いよくレリアーノの元に戻った。
「いけるわよね。ここが正念場よ」
「もちろん! 今から大きな魔法を放つ。……魔力は収縮させている。後は放つだけだ。いくぞ。『我が手に集まれ雷の力! ライトニングレイン』」
ルクアの問い掛けにレリアーノが閉じていた目を開き、発動体の杖をゴブリンジェネラル達に向けた。体内魔力と発動体に埋め込まれた魔石の魔力をありったけ収縮拡張スキルで収縮させる。
詠唱が終わるとレリアーノの前に、ライトニングアローの半分程度の光の矢が大量に表れた。それはマリウスの助言を元に、スキルによって威力と数を拡張させたレリアーノが生みだした魔法であった。
「きれい」
魔法を扱うモニカが思わず呟くほどレリアーノの魔法は華麗であり、大賢者マリウスでさえ扱えない魔法であった。一同が目の前に展開された非現実的な光景に目を奪われている中、撃ち放たれた雷の雨はレリアーノ達に殺到していたゴブリン達に次々と突き刺さっていく。
絶叫を上げる事も出来ずに絶命していく先頭を走るゴブリン。その後に続いていたゴブリン達も雷属性の攻撃を受け、追加効果の麻痺で動けない者や、致命傷となる場所に攻撃を受けてのたうち回るゴブリンもいた。ゴブリンジェネラルとゴブリンリーダも後方にいたのだがダメージを受けており、今まで優勢だった状況が一瞬で覆った。
「ユリアーヌ! 後は頼んだわよ」
「おうよ。任せておけ! さっきはよくもやってくれたな。ささやかな返礼だ。『火炎剣』」
レリアーノのライトニングレインによって壊滅した配下のゴブリンを呆然と眺めていたゴブリンジェネラルだった。そして自らも少なくないダメージを受けており、なにが起こったのか分からずに混乱をしていた。
そこにユリアーヌが動かない右腕を捨て、左手で握った剣に火属性を乗せた一撃を捨て身で放つ。通常なら受け止められる一撃であり、ゴブリンジェネラルは先ほど受けた攻撃だとせせら笑いながら弾き返そうとした。
「ぎぃ?」
ゴブリンジェネラルは斧を持っている右腕の動きが悪いことに気付き首を傾げ、自身の右腕に視線を向ける。そこにはレリアーノが放ったライトニングレインが刺さっており、その影響で腕が動かせないようであった。
腕を振っても外れないライトニングレインに焦ったゴブリンジェネラルだったが、目の前に迫っているユリアーヌの攻撃を防ごうと慌てて左手に持ち替えて斧を構えようとする。
「そんな悠長なことでいいのかよ!」
「ぎゃぅぅぅぅ!」
捨て身の攻撃をしているユリアーヌの連撃に耐えることが出来ず、ゴブリンジェネラルは下がりながら自分を守るように伝えたが、すでにゴブリンリーダーたちは斥候役のクリストフの弓と、モニカのファイアーアローによって止めを刺されていた。その他のゴブリン達も支離滅裂な行動をしており、誰もゴブリンジェネラルを助けられる者はいなかった。
「うらぁぁぁぁ!」
ユリアーヌの気合のこもった一撃がゴブリンジェネラルを襲う。思うように動かない手に焦りながら、渾身の一撃をなんとか受け止め、そのまま後退しようとしたゴブリンジェネラルだったが、足元に倒れていた仲間のゴブリンにつまずいて転んでしまう。
「悪いな。俺たちの方が強かったようだ。レリアーノに感謝だな」
なんとか身体を起こそうとしたゴブリンジェネラルだったが、身体の上に足が乗っている事に気付く。そして最後に聞こえてきたのは、ユリアーヌの勝利宣言であったが、その言葉を理解する事はできなかった。
◇□◇□◇□
「ゴブリンは全滅したようだぞー」「とりあえず耳と魔石を取ったやつから穴に入れてくれ」「せっかく、いい拠点になるかと思ったが廃棄だな」「まあ、ルクアに効率的な拠点の作り方を聞いたから、別の場所に作ればいいだろう。他の冒険者にも貸し出せるだろうしな」
ゴブリンの解体や焼却など激戦の後始末を疲れた顔でしているユリアーヌ達だったが、スタンピードを少人数で防げたことでホッとした表情になっていた。
「レリアーノの具合はどうだ?」
右腕を添え木で固定しているユリアーヌがやって来た。ゴブリンジェネラルとの死闘で利き腕になる右腕は使い物にならなくなっており、また最後の攻撃で無理をしたため、身体を動かすのも一苦労だった。
「おい。もっとゆっくりしろよ。モニカもなにしてんだよ」
「止めたけど駄目だった。レリアーノの具合が気になるって」
「まあ、分かるけどもよ」
モニカの肩を借りながら、なんとか歩けるユリアーヌにアーレイが呆れた表情を浮かべていた。ユリアーヌが無理をするのは昔からであり、幼馴染でもある一同は彼の行動を知っているため苦笑しかできなかった。




