レリアーノは活路を見出すために集中する
公私ともにバタバタとしており、更新が滞ってすいません。
ユリアーヌの炎をまとった剣がゴブリンジェネラルに襲い掛かる。特別製の武器に炎属性を付与するユリアーヌの必殺技であった。並の魔物であれば一刀両断できる鋭利さがあり、斧ごとゴブリンジェネラルを斬り捨てるつもりで放った一撃のはずだった。勝利を確信していたユリアーヌだが、思いもよらない音に驚愕の表情を浮かべる。
「な!? そ、そんな馬鹿な! 渾身の一撃が……」
鈍い音を立てつつユリアーヌの必殺の一撃が受け止められていたのである。思わずゴブリンジェネラルの顔に視線を向けたユリアーヌは、悪意に満ちた笑顔を見る事になる。まるで、お前の考えは分かっている。そして次にどうなるかも理解しているのだろう。そうとしか思えないほど、ゴブリンジェネラルの表情は歓喜に満ち溢れていた。
「ぎゅるうぁぁぁぁ!」
「がぁぁぁぁ!」
ゴブリンジェネラルが斧を全力で跳ね上げる。力の差にあがらうことが出来ず、ユリアーヌは剣を手放すと全力で後退して距離を取ろうとした。だが、それを許すゴブリンジェネラルではなく、距離を詰めるとユリアーヌの右腕を掴んで捻り上げた。
「ユリアーヌさん!」
「ぐあぁぁぁぁ。く、来るな!」
右手を潰されたユリアーヌを助けるため、レリアーノが小剣を構えて救出に向かおうと飛び出そうとしたが鋭い声で止められてしまう。ルクアもユリアーヌとゴブリンジェネラルが密接しているために攻撃魔法を放つ事が出来ず、悔しそうに歯を食いしばっていた。
そんな一瞬の硬直状態をあざ笑うように、ゴブリンジェネラルがルクアに向かって話しかけてきた。
「エルフ。オマエガ、オレト、イッショニクレバ、ホカハタスケテヤッテモイイ」
「なっ! 喋れるの!?」
「ワレハ、エラバレシゴブリン。ヒトノコトバナド、ツカエテアタリマエ」
突然話しかけてきたゴブリンジェネラルに、ルクアが驚愕の表情を浮かべて叫ぶと、当然とばかりにゴブリンジェネラルが答えた。このゴブリンジェネラルは特殊な環境で育っており、幼き頃に群れの主が襲った冒険者を、殺さずにゴブリンジェネラルの玩具として与えており、その際に言葉を覚えたのであった。
そんな事を知る由もない一同が驚愕している中、ゴブリンジェネラルが取引を持ち掛けてくる。ルクアの命は保証してもいい。レリアーノ達への攻撃を中止し、追撃はしないから逃げていい。この場に居るのが揉め事になるなら森の奥に戻り、金輪際は街に近付かない。そういった事を笑いながら伝えるゴブリンジェネラルにレリアーノが叫ぶ。
「ゴブリンジェネラルが約束を守るなんて誰が信じられる!」
「ナラミナゴロシダ。マズハオマエカラ、クッテヤロウ」
レリアーノの声にゴブリンジェネラルが獰猛な笑みを浮かべて威嚇をする。周囲も異常に気付き、戦闘は一時的に止まっており、それぞれが集まりだした。倒したゴブリンは30体を超えていたが、それでもまだまだゴブリンが居るようであり、剣を振り回しながらゴブリンジェネラルの背後で鳴き声を上げる。
「おい! ユリアーヌが捕まったのか!?」「助けないと!」「おい、モニカの魔法でどうにかならないか?」「いやぁぁぁぁ! ユリアーヌ!」「落ち着けモニカ! まだ死んでいない。今の魔力で撃てる魔法はないのか!」「無理よ! ゴブリンジェネラルを一撃で倒せる魔法なんて覚えていないわ! それにユリアーヌも巻き込んじゃう!」「今は恋人であることは意識から外して、いつものように冷静になりなさい」
ユリアーヌの仲間達も、レリアーノとルクアの元に集まっていた。荒い呼吸をなんとか整えようとしながらも、ユリアーヌが捕まっていることに動揺しており、今まで無口であった魔法使いの少女も涙を浮かべて叫んでいた。
「あれなら何とかできるのか? マリウスの爺さんに教えてもらった魔法なら……」
ユリアーヌの恋人であるモニカが叫んでいるのを聞きながら、逆にレリアーノは冷静になっていく。そしてマリウスと練習していた魔法を一つ思い出していた。そして気付かれないようにゆっくりとルクアに近付くと小声で話し掛ける。
「なあ、ルクア」
「なに? ユリアーヌを助ける方法を見つけたの?」
「よく分かったな。爺さんに聞いた魔法を、スキルを使って威力を上げたらいけるかも。でも時間が掛かるんだ」
レリアーノの言葉にルクアが軽く頷くと、精霊に何かを命じたようであった。そしてレリアーノを軽く抱きしめると、決意を秘めた顔でゴブリンジェネラルに話し掛ける。
「分かったわ。あなたの提案を受けましょう。付いていけばいいの?」
「アア。ソウダナ。マズハブキトボウグヲステロ。ソレデイイ。コッチニコイ」
ゴブリンジェネラルの命令に従って防具を外し、武器を捨てるルクア。防具の下に来ているのは薄い下着のような服であり、ゴブリンの一撃でも致命傷になるほどの心細さをルクアは感じていた。そんな薄着の姿を見たゴブリンたちが卑猥な声を上げる。
ゴブリンジェネラルもニヤニヤと笑っており、また勝利を確信したのかユリアーヌをレリアーノの元に放り投げた。投げられた衝撃と折れている右腕に脂汗を流しているユリアーヌをちらりと見ながらも、レリアーノは一言も発しない。
「ユリアーヌ!」
「モ、モニカ。ルクアの声は聞こえたのか? なら、その悲壮そうな演技のまま対応を続け――痛ってえ!」
駆け寄って来たモニカの表情を見て、無理やり笑顔になって冗談めかして話をするユリアーヌ。そして、モニカに折れている右腕を全力で掴まれ、痛みに声を上げる。
「バカ! どれだけ心配したと思っているのよ。ルクアさんの声は聞こえたから大丈夫よ。剣の回収も終わっているわ。後は……」
モニカがユリアーヌを横に寝かせながら小声で話をする。その間にもルクアはゴブリンジェネラルにゆっくりと近付いており、その顔は絶望しているように見えた。そしてレリアーノも歯を食いしばって何かに耐えているようであった。
「ハヤクコイ。オマエノゼツボウシタヒョウジョウガ、オレヲコウフンサセル」
「本当にレリアーノたちを見逃してくれるのよね?」
ニヤニヤと笑いながら斧を肩にかけているゴブリンジェネラルにルクアが確認する。その目を見れば約束を守る気はないのは一目瞭然であり、ルクアは涙を浮かべてその場にへたり込んだ。
「ソレガミタカッタ! エルフガゼツボウシテイルゾ! ぎゃぎゃぎゃぅぅぅ」
「ぎゃぅぅぅぅ!」
ゴブリンジェネラルがゴブリン語で配下たちに叫ぶ。それを受けてゴブリンたちも大声で剣を振り回しながら応えた。ゴブリンとエルフは天敵であり、見た目麗しいルクアが絶望した表情でへたり込む様子は、ゴブリンにとって最高の光景であった。




