レリアーノは特殊個体の恐ろしさを知る
「ギャオォォォ!」
威嚇するように吠えたゴブリンジェネラルは、手に持っている斧をレリアーノに叩きつける。死のイメージしか浮かばない攻撃を受け、レリアーノの動きが一瞬止まった。それは致命的な動作となるはずであった。
「『風よ! 彼を守って!』動きなさいレリアーノ!」
恐怖で身動きが取れないレリアーノにルクアの叱咤が届く。風の精霊が守ってくれているようで、ゴブリンジェネラルの攻撃スピードが遅くなり、またルクアの声で身動きが出来るようになったレリアーノは斧の攻撃範囲から命からがら逃れる事が出来た。
全身から冷や汗を流し、心臓の鼓動が耳元まで聞こえるほどに生命の危機を感じたレリアーノは、全身で大きく息を吸い込むとゴブリンジェネラルから視線を外さないようにしつつルクアに感謝の言葉を述べる。
「助かった!」
「しっかりしなさい。強敵だろうと恐怖に負けちゃダメよ!」
何とか自分を奮い立たせ、剣を握り気合を入れ直すレリアーノ。そして改めてゴブリンジェネラルと向き合うが、その威圧感に再び足がすくみそうになる。何度も気合を入れ直しながら剣を構えているレリアーノに、ゴブリンジェネラルは弱者へ向けた侮蔑の表情を投げかけており、種族が違えどゴブリンジェネラルの思いは伝わっていた。
「くそっ! 舐めるな!」
レリアーノは力強く握りしめた剣でゴブリンジェネラルに斬りかかる。成長したとはいえ、まだまだ強敵と対等に戦える剣技にはなっておらず、実戦経験も少ないレリアーノの実力をゴブリンジェネラルは正確に見抜いており、あざけるようにレリアーノの剣を受けながら相手をしていた。
「レリアーノ! 冷静になれ。お前が戦って勝てる相手じゃないだろ」
ゴブリンジェネラルが手加減しているために奇跡的に戦闘を継続できているレリアーノに、ゴブリンを倒したユリアーヌがやってきた。かなり無理をしてこちらに向かって来たらしく、身体のあちらこちらから出血をしており、これ以上の戦闘は無理があるように見えた。
「ユリアーヌも何をしているのよ! そんな状態でゴブリンジェネラルを倒せると思っているの!?」
「そんな事を言うなよ。これでもレリアーノを助けようと頑張って来たんだぞ」
ルクアの悲鳴にも近い言葉にユリアーヌが苦笑で返す。本来ならポーションで傷を癒すのだが、そんな悠長な時間はなかった。ゴブリンジェネラルから少し離れた場所では2体のゴブリンリーダーが暴れており、前衛2人であるアーレイとアルネが一対一で戦っていた。他のゴブリンはクリストフ達後衛が牽制しており、ゴブリンジェネラルと戦えるのはユリアーヌかレリアーノ達しかいない状態であった。
「悪いがゴブリンジェネラルと戦えるのは俺くらいだ。どうだルクア? 本気は出してくれるのか?」
「見ての通りよ。この姿だから全力は出せるわよ。現れたのがゴブリンジェネラルなのよ。高ランク魔物相手に制限かけて戦えないわよ」
ルクアは外したイヤリングを見せながらユリアーヌに答える。隠匿魔法が解けたルクアはハイエルフの姿に戻っており、見る者を強く引き付ける美貌を惜しげもなく披露していた。周囲にいたゴブリン達もルクアの姿にくぎ付けになっており、ルクアの背後にいるレリアーノと姿を見た事があるユリアーヌ以外の冒険者たちも思わず剣を止めるほどであった。
「ギャオォォォ!」
そんなルクアの姿を確認したゴブリンジェネラルが興奮したように咆哮を上げる。最上の宝を見つけたと言わんばかりに笑っており、他のゴブリン達も喜びの雄たけびを上げ始めた。そんな周囲の反応を見たルクアが嫌悪むき出しにして叫ぶ。
「ゴブリンごときにハイエルフの姿を見せたのよ。その粗末な命を対価にしてあげるわ。私と会ったことを後悔しながら死になさい」
そう叫んでいるルクアだが、実際のところは逃げ出したくなる自分を必死に鼓舞していた。ハイエルフと呼ばれる種族は高度の魔法を使えるのだが、だからといって強いと同義にはならない。あくまでも基礎値が高いだけであり、それが戦闘力には繋がらず、それを分かっていない若いハイエルフが無謀な戦いで死んだりもしていた。
ゴブリンジェネラルもルクアが虚勢を張っているのは分かっているようであり、彼女からの魔法は警戒しているようだが、それほど脅威には感じていないようであった。
「ルクアはサポートを頼む。俺が攻撃を入れるチャンスを作ってくれ。それまではタイミングを見ながら防御中心に戦う」
「分かったわ。レリアーノもユリアーヌの動きを見ておきなさい。もし可能なら、拡張収縮魔法スキルを使って攻撃や補助魔法を撃ちなさい。決して剣で戦ってはだめよ」
指示を出したユリアーヌが剣を中段に構えて間合いを詰めていく。受け立つゴブリンジェネラルもユリアーヌの実力は認めたようで、少し腰を落とすといつでも飛び出せるように斧を構えた。しばらくにらみ合いが続いていたが、ユリアーヌが一気に間合いを詰めて突きを放つ。
「はっ!」
普通のゴブリンならなにが起こったのか分からないまま絶命するであろう攻撃をゴブリンジェネラルは斧で受け止めると、その体勢のままショルダータックルをしてきた。思いもよらない攻撃にユリアーヌは吹っ飛ばされてしまう。ゴブリンジェネラルの肩が顔面に当たったようで、ユリアーヌは鼻血と折れた前歯を吐き出しながら剣を構え直した。
「ちくしょう。高ランクと呼ばれていてもこの程度か。防御すら出来ねえ」
ユリアーヌはレリアーノとルクアを逃がすためには自分が犠牲になって時間を稼ぐしかないと思い始めていた。そう思いながら数度の剣戟を繰り返し、どのタイミングで自分の持てる最大の技を放とうかと考えていたユリアーヌの耳にルクアの声が届いた。
『風よ! 私の敵を薙ぎ払いなさい』
「よくやったルクア! 『火炎剣』」
負けるイメージがユリアーヌを塗り潰そうとしていた。それを吹き飛ばすようにルクアの精霊魔法が炸裂する。ゴブリンジェネラルを大きな風の刃が襲うと、血をまき散らしぐらついて倒れそうになる。最大のチャンスだと判断したユリアーヌは、最大の必殺技である火炎剣スキルを使ってゴブリンジェネラルに斬りかかるのであった。




