レリアーノはルクアと出会う
「1週間の依頼受付が停止……。しかもギルドで悪評が流れているから、この町のギルドには顔も出せない。なんで強制脱退なんてされないといけないんだ……」
とぼとぼと宿に向かって歩きながらレリアーノが呟いていた。
ウードは追放するだけでなく、強制脱退届なんて普通は出さないものを提出したのか? 俺になにか思うところがあったのか?
なにもできないつらさと、冤罪を掛けられたのに証明できない悔しさ。
これからどうすればいいのか分からない先行き不透明さが重なり、レリアーノの心に急激に不安が押し寄せてきた。
涙が滲んでくるのを感じながら歩いていたレリアーノに、驚いたような声が掛かる。
「レリアーノ? もう、街を出たんじゃなかったの?」
「ルクアさん?」
話し仕掛けてきた女性にレリアーノが慌てて涙を拭いながら答える。
この町に来てから世話になっている道具屋の店主であるルクアが、大量の荷物を持って立っていた。
彼女との付き合いは、レリアーノ達が街に着いたときからで、半年に渡っており、道具調達や不要品買取などで世話になっていた。
一方のルクアも困惑の表情を浮かべる。
なぜレリアーノがこの場に居るのか分からなかった。
彼女はレリアーノのパーティーが旅立ったと聞いており、あれほど親密なやりとりをしていたレリアーノが、挨拶もせずに旅立った事を不思議に思っていたのである。
「どうしたのよ? なにか忘れ物でもあったの?」
「いや。実は……」
レリアーノはパーティーを首になった事や、ギルドでの出来事を伝える。
さらには1週間は依頼が受けられない状態なので、どうしようかと悩んでいる事も伝えた。
諦めの表情を浮かべ、乾いた笑いを出しながら淡々と語るレリアーノの話にルクアが激高する。
「なんて奴らなの! あなたがどれだけパーティーに貢献していたかを知らなかったの? あいつらが買い物に来た時に事情を知っていたら、3倍の値段で売り付けてやったのに!」
「いいよ。冒険者として役に立っていないのは事実だから。せっかく授かったスキルも役に立たないしね」
「あなたがそう言うなら……。それにしても役に立たないスキルなんてあるのかしら。前にあなたのスキルを聞いて気になった事があったの。旅に出るなら、もう少し話を聞かせてくれない? わたしの店に来なさいよ。どうせ暇でしょ?」
今までの話を聞いて憤慨していたルクアだったが、なにかを思い出したのか、レリアーノから話を聞きたいと言ってきた。
「スキルの話? 大した内容にならないと思うけど、なにかあるのか? 暇だからいいけどさ」
今までとは違う真剣な表情に、レリアーノは不思議そうな顔をしながら頷く。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。茶飲み話だと思ってくれていいから。さあ行くわよ」
ルクアは軽く笑いながらレリアーノに大量の荷物を押し付ける。
普段と変わらないルクアの態度に、荷物を持ち直しながらレリアーノは苦笑して後を付いていった。
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「荷物はそっちのテーブルに置くといいわ。とりあえずお茶を用意するから座ってなさい」
「じゃあ失礼して」
「小難しい言葉を知っているじゃない。普段の言葉でいいのよ」
荷物を置いたレリアーノが座って物珍しそうに見渡す。
道具屋のバックヤードであり、普段はここで食事や帳簿を付けているとの話を聞きながら、なぜ急に店に呼ばれたのか確認する。
「俺のスキルで気になる所があると言ったよな? 教会で何度も確認したし、自分で色々と調べたりしたけど何も分からなかったし、変わらなかったよ」
鍛えようとしたが駄目だったと、ため息混じりに話しているレリアーノに、ルクアは奥から持ってきた水晶に魔力を流し始める。
突然、水晶を用意したルクアにレリアーノが何事かと眺めていると、普段とは違う表情を浮かべたルクアが静かに話し始める。
「いい? レリアーノ。この水晶はスキルの詳細が分かるアーティファクトなの。『なぜ、そんな物を持っているのか?』と顔に書いてあるわよ?」
「それもあるけど、なぜそこまで俺に?」
レリアーノの疑問はもっともであった。
この世界は弱肉強食が基本であり、仲間や家族には一定の愛情や親切心を出すが、赤の他人にここまで親切にされる覚えはなかった。
「ふふ。そうね。まず単純にあなたが良い奴で気に入っていたこと。レリアーノは私の希望を極力聞いてくれたよね? 『当たり前だ』と思っているかもしれないけど、長年生きた私からすれば珍しいことなのよ」
そう言って、水晶を眺めながら呟くルクア。そして水晶からレリアーノに視線を向けると、ユックリと微笑んで話を続ける。
「それに、あなたのスキルに興味があるの。長らく様々なスキルを見てきたけど、私の勘が未知のスキルと告げていたの。そしてそれは間違ってなかったわ」
「長年生きたと言っているけど、ルクアって若いよね? それに俺のスキルが未知のスキルだって?」
ルクアの言葉は分かるが意味が分からないとレリアーノの顔が百面相のようになっていた。
それを見て、ルクアは大きな声を出して笑う。
「なんて顔をしているのよ。いい? あなたの人柄が気に入って、親切にしていたら珍しいスキルを持っている気がした。これから説明するスキルは私が物凄く気になるスキルなのよ。それと女性に年齢は聞くものじゃないわよ。ふう。これでいいかしら? じゃあ、早速スキルの詳細を調べてみましょうね」
自分の言いたいことは全て伝えたと真剣な表情にり、ルクアはさらなる魔力を水晶に注ぎ始める。
そしてレリアーノに水晶に触るように伝えた。
恐る恐る水晶に触るレリアーノの脳内に突然スキル名が現れ、詳細な情報も表示されるのであった。