レリアーノは翌日を迎える
「レリアーノ。見張りの交代だ。起きてくれ」
「……ああ。もうそんな時間か。分かった。何か変わったことはあった?」
斥候役のクリストフに起こされたレリアーノは素早く身支度を整えると、樽に用意されていた水を使って顔を洗いコップに水を入れて一気に飲み干す。スッキリとした表情になったレリアーノは、クリストフから引き継ぎ事項を確認して頷くと、休憩所中央に設置されている火に近付いた。
「おお。次の当番はレリアーノか」
「爺さん? ずっと起きているのか?」
「ほっほっほ。そんな訳あるまい。ただ、年寄りになると寝なくても大丈夫なんじゃよ」
そんなものなのか? マリウスの言葉にレリアーノは首を傾げながら、用意されている椅子にマリウスと向き合って座る。体面に座る事でお互いの背後も警戒ができ奇襲されるリスクを減らすのだが、マリウスからすれば懐かしい対応であった。
「それにしても懐かしいのー。新人の冒険者として活躍していたころは、こんな感じで警戒してたわい。あの時は対面に座っている奴がうたた寝をしてして死にそうになったのー。もちろん、後でフルボッコにしたが」
「昔はって事は、今はどうしているんだ?」
レリアーノの言葉にマリウスが軽い感じで答えてくれた。拠点は魔道具によって設置する。そして結界を張る事で見張り役は置かない。料理や飲み物もマジックバックに入れて持ち運んでおり、出来上がりを食べて、食器は燃やして洗い物はしないと伝えられた。
「はー。食器は燃やすのか。高ランクの冒険者は違うもんだな」
「儂らクラスになれば、それくらいは準備するのー。ユリアーヌ達は魔道具を揃えられるレベルじゃないじゃろうから、レリアーノ達と同じように人力で頑張っておるじゃろうな。まあ、魔道具で拠点を作れるようになれれば一流じゃな。それまではルクアが作った休憩所を参考に今後どうするかを考えていけばええ」
周囲を警戒しながらコップのお湯を飲んで身体が冷えないようにしているレリアーノ。マリウスの話を聞きながら、何かを思い出したのか慌てて拡張収縮魔法で保温魔法を自分とマリウスに掛ける。
「ふぉふぉふぉ。まだまだ遅いのー。そんなもんでは合格をやれんのー。常に判断をして、常に周囲を意識し、常に警戒を怠らないといかんぞ?」
「い、今のは油断しただけだからな!」
マリウスが笑いながら注意してきたが、レリアーノは慌てて言い訳をしつつ、弱くなった火に薪を焚べて火力を上げる。パチパチと音を立てながら火の粉が上がっているのを見ながら、マリウスは焦っているレリアーノと視線を合わせる。
「まあ、今はいいじゃろう。じゃが今この瞬間から気を引き締めんといかんぞ」
「わ、分かったよ。油断は禁物だよな。今は皆がいるからいいけど、これからは爺さんもユリアーヌ達も居ないもんな。俺ができる事はきっちりとしないと周りに迷惑を掛けるよな」
マリウスの言葉にレリアーノは頷くと、自分が出来そうな事を始める。周囲を警戒しながら武器や防具の手入れ、荷物の確認。それとマリウスから与えられた魔物の魔石の位置が分かる腕輪を身に着けると使い方を確認する。
「爺さん。この腕輪だけど、魔物を倒さないと使えないのか?」
「ん? そうじゃな。腕輪に埋め込んだ魔石と、魔物の魔石が反応するように作っておる。微弱な魔力が引き寄せられる性質を利用しているからのー。なにか活用方法でも思いついたのか?」
マリウスの言葉にレリアーノは魔石確認腕輪に拡張収縮魔法を付与する。レリアーノのスキルに反応した腕輪は鈍く輝きを保つ。そしてマリウスの手持ちの魔石を出してもらうように伝える。
「ほりゃ。これでいいかの? ワイバーンの魔石じゃ」
「ワイバーンって……高ランク魔物じゃん。俺が相手に出来るのはいつの事だよ。まあ、いいけどさ」
相変わらず非常識な魔石を出してくるマリウスに呆れながら、レリアーノは手に持っている魔石を動かすようにマリウスに頼む。
「動かすのか? こんな感じでいいかのう?」
マリウスが首を傾げながらも手に持っている魔石を動かし始める。レリアーノは目を閉じてしばらく動かなかったが、何かを納得したのか何度も頷きながら静かに目を開けた。
「爺さん。この腕輪に拡張収縮魔法で魔力を収縮させて入れると魔石の位置が動いてても分かる」
「ほう! それは素晴らしいのー。魔物の弱点と言ってもいい魔石じゃ。魔物は本能的に魔石を守っておる。そこを攻撃することで相手の動きを自分の思うままに操れるようになるじゃろう」
レリアーノは魔石の位置が動いていても分かったと単純に喜んでいたが、マリウスは表面上は笑顔で感心した表情を浮かべながらも、内心は興奮状態になっていた。マリウスが作ったのは、あくまでも魔物を討伐した後に魔石を取りやすくする道具であった。
それがレリアーノは拡張収縮魔法スキルを使い、自分が想定しない使い方を見つけだしたのである。戦闘で役に立つ使い方を弟子に欲しいと思っているレリアーノが発見したことにマリウスは嬉しそうにする。
「レリアーノのスキル頼みじゃが、いい着眼点じゃ。今日の戦いで活用してみたらよい」
「せっかく大賢者と呼ばれている爺さんにもらった腕輪だからな。爺さんに恥をかかせないように頑張るよ」
レリアーノはマリウスに笑顔で伝えると、腕輪に拡張収縮魔法スキルで長期間維持するための魔力量を確認するのだった。
◇□◇□◇□
「おお。今日は昨日が嘘のように調子がいいな」
朝になり、一時的な休憩所を拠点にすると宣言したユリアーヌが、いつもよりも深い場所への魔物討伐に向かう。そしてレリアーノの戦闘を見て感心した表情になっていた。レリアーノの戦闘時における動きが格段と良くなっており、昨日のゴブリンとの戦闘に比べれば雲泥の差であった。
「へへっ。爺さんからもらった腕輪を使ってみたんだよ。大賢者からもらった腕輪だからな。やっぱり最高だよ」
「へー。どんな風に使うんだ?」
興味にかられたユリアーヌが確認する。レリアーノは拡張収縮魔法スキル以外は、特に隠すこともないので全てを説明する。それを聞いたユリアーヌ達は感心したように驚いた表情を浮かべ、マリウスに自分にも作って欲しいと頼み込む。
マリウスからレリアーノのスキルがないと使いこなせないと言われ一瞬残念そうな表情になった一同だったが、戦闘後に魔石の取り出しがしやすくなるため、全員が腕輪をマリウスに依頼するのだった。




