レリアーノは評価される
「よし。みんな休憩は終わったか? それにしても……休憩所として欲しい物が全て揃っているな。俺達の人数も計算されて、全員がくつろげるように作られているのが分かる。レリアーノだけじゃなくてルクアも仲間に欲しいくらいだ」
ユリアーヌは作られた休憩所を見渡しながら感心していた。自分達では簡易的で、くつろぎたいとは思えないレベルのものしか作れなかった。それが地面は綺麗にならされており、死角が出来ないようにテントも張られ、休憩所の中心には調理するための火と、少し離れた場所にかがり火も焚かれ周囲を警戒できるようになっていた。
また、水も樽で用意されており、普段なら考えられないトイレや身体を拭く場所も設置され、ユリアーヌが簡易ではなく1か月程度ならここを拠点に活動してもいいと思えるほどの場所になっていた。自分達が普段作っている休憩所を思い出し、その落差にがっかりとする一同だったが、これから自分たちが話す内容を思い出し気を引き締める。
「休憩所の素晴らしさは後でルクアに確認して、俺たちで出来る事は真似させてもらおう。じゃあ、今日の振り返りだ。まあ初日だから、甘めにしてもいいだろう」
ユリアーヌの言葉に一同は頷きながら、今日一緒にいたレリアーノについて報告をする。斥候役のクリストフは周囲を警戒しているのは技術はともかく心構えとしては合格であると伝え、前衛の一人であるアルネは補助魔法の素晴らしさを力説する。
「戦闘が終わった後も、解体をしている時も周囲を警戒しているのはいいな。解体時にわざと殺気を出してみたが、それがなにか分からないまでも、手を止めて周囲を警戒をしていたな」
「あの補助魔法は本当に素晴らしい。まだゴブリンの相手しかしていないが、接敵する前から身体が軽くなるのは助かったな。戦闘後もしばらくは効果があったから、あの補助魔法はかなりの貴重スキルだと思うぞ。それで疑問なんだが……」
「ああ、俺も疑問がある」
「「 なんで追放されたんだ? 」」
クリストフとアルネから同時に疑問が上がる。レリアーノと行動を共にしたのは短時間だけだが、どの点を取ってみても追放されるようなレリアーノではなく、むしろ今後を期待させるルーキーだと感じていた。まだ半日だが、2人はレリアーノの事を気に入っており、色々と冒険者にとって必要な知識を惜しみなく伝えていた。
2人から疑問をぶつけられたユリアーヌだったが、彼も同じ事を考えており、一度レリアーノとそれに関する話をしたが、追放されるような失敗をしておらず、誰かに嵌められたとしか思えなかった。
「その点は俺も疑問に思っているし、爺ちゃんもギルドに手紙を出すそうだ。追放自体は大賢者マリウスの名で取り消しされるそうだから、レリアーノがこの先で苦労する事はないだろう」
マリウスが権力を使って処分を取り消すと言っているとユリアーヌは仲間達に伝える。それを聞いた一同はホッとした表情になっていた。普段なら強権を発動して、事態を動かす権力者を嫌うのが冒険者なのだが、レリアーノの処分については話を聞いても納得が出来ておらず、マリウスの一言で取り消されるのなら一安心だとの表情を浮かべていた。
「レリアーノを一人前の冒険者にしないとな」
「ああ、そうだな」「ギルドの連中が間違っていると教えてやろうぜ」「話だけを鵜呑みにするなんてギルドの質も落ちたんじゃねえか?」「あっちの街にあるギルドは質が低いからな」「違いない」
ユリアーヌの言葉に一同は笑って答え、本題であるレリアーノの行動に話を戻す。レリアーノの動きはぎこちない所はあるが、それは新人であるからであり、今後経験を積むことで解消されるとの認識で一同は一致した。そして明日以降にチェックする際に注意する点を確認する。
「今、ルクアと反省会をしているようだから、後で情報共有をしておこう。それを踏まえて明日も何度か戦闘させて、注意点と改善点を教えてやろう。まあ、不合格にする気なんてないんだけどな」
ユリアーヌが笑いながらレリアーノとルクアが居る方を見ていた。一同も素振りをしているレリアーノを微笑ましそうに見ており、自分達が期待を寄せているルーキーがどこまで上り詰めるのかを話し合うのだった。
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「ほっほっほ。レリアーノの試験はユリアーヌ達にもいい影響を与えておるようじゃな。突撃しかせん馬鹿どもがいっちょ前に兄貴分気取りじゃな。良きかな。良きかな」
マリウスは預かった4つのゴブリンの魔石を使って何かを作っていた。そして作業にひと段落が付いたので、魔力を駆使し離れた場所にいるユリアーヌ達の会話を盗聴していたのである。
近くで聞いても良かったのだが、孫のユリアーヌはともかく、その仲間たちは親しくしようとしながらも、大賢者である自分に遠慮をしているのが感じられる。会話に参加しようものなら自由活発な内容にならないことが分かっていいた。
「まあ、若い者は色々と経験すべきじゃからのー。年寄りは長年の経験と知恵でサポートするのみじゃ。ふむ。こんな感じにすればいいかのう。ゴブリンの魔石じゃからこそ出来たとも言えるの。ある意味大発見じゃわい。これでユリアーヌも少し楽して解体が出来るじゃろうな」
マリウスは手の中にある加工されたゴブリンの魔石を眺めながら満足げな表情を浮かべる。彼の手にあるのは4つの魔石が埋め込まれた腕輪であり、魔物が体内に持っている魔石位置を特定できるように作られていた。
マリウスによって作られた魔石の位置を特定する腕輪は、レリアーノが最初に使い、その後ユリアーヌのパーティーにも配付され、さらに改良されていく。そして、その便利さがギルドの耳に届くと生産が始まった。
腕輪部分の金属が高額で大量生産は出来ないが、それまではクズ魔石として扱われていたゴブリンの魔石の価値が見直され、新人冒険者にとっても買取価格が上がり、生活も安定するようになるのだった。




