レリアーノは反省会をする
討伐した4体のゴブリンを解体する事を立候補したレリアーノ。1体はマリウスが非常識なやり方で魔石を抜き出していたが、残りの3体から魔石を次々と取り出していく。ユリアーヌや仲間の冒険者たちは周囲を警戒しており、ルクアは少し離れた場所で休憩所を作っていた。
「おお。手際が良いな」
「前のパーティーに居た時は、これが本職と言ってもいいくらいだったからな。少しでも遅れると罵倒されるから必死だったよ」
感心した様子で話し掛けてきたユリアーヌに、レリアーノが苦笑を浮かべながら答える。追放された当初は前パーティーの事を思い出すと暗い気分になっていたが、今はそこで得た経験も苦労も全てが糧になっていると感じるほど、心の余裕が生まれていた。
ゴブリンの魔石は心臓近くにあり、胸から開いて心臓を取り出す。レリアーノは今まで倒した魔物の魔石位置を把握しており、返り血を浴びる事なくゴブリンの出血量も最小限にして解体を続けていた。数分で解体は完了し、残った死体は穴を掘って埋める。それが普通の冒険者のやり方であった。
「昔から思っておったが、まだるっこしいのー。まあ、今回は儂がいるから特別対応といこうかの。皆、少し離れておきなさい」
穴を掘るために道具を取り出したレリアーノに、マリウスが待ったをかけた。そしてゴブリンの死体を重ねるように指示を出すと右手をかざして一言呟いた。
「燃えよ」
そう呟くだけでマリウスの右手から小さな火の玉が生まれ、そしてゴブリンの死体に向かっていく。火の玉が死体に触れた瞬間。大きな火柱が上がり、数十秒程度で跡形もなく消え去った。残っているのはむせ返るような熱気と、ゴブリンの死体が置かれていた場所の焦げ目だけであった。
「相変わらず非常識よね。高ランク冒険者が魔物を処分するとこうなのかしら?」
ルクアが休憩場所の準備が終わってやって来て呆れた表情を浮かべていた。そんな発言にユリアーヌと仲間たちが苦笑を浮かべながら反論する。
「いやいや。大賢者マリウスだから出来る芸当だから。同じと思われたら心外だぞ」「俺たちも普通に穴を掘って埋めるぞ。この森なら、放置しておいても他の魔物が処分してくれそうだけどな」
「ほっほっほ。そんなに褒めてもなにも出やせんぞ」
いや、褒めてねえ。そんな一同の視線を気にすることなくマリウスは楽しそうに笑うと、レリアーノに解体の仕方を確認する。レリアーノの手際の良さを称賛しながらも、収縮拡張魔法のスキルを使えばもっと効率よく解体が出来ると伝える。
「よいか。拡張収縮魔法は汎用性の高いスキルじゃ。そこを理解して、これから活用するようにせんといかんぞ。手札は多い方がいい。今回の魔石を集めるのも儂なら卓越した技術と、円熟した魔力で取り出すことが出来た。じゃが、お主のスキルを使うと、そこまでの道のりを大幅に短縮できる。まあ、なんでもできるわけではなく、内容にもよっては難しいものもあるじゃろがな」
軽く笑いながらやり方を伝えつつ、魔力操作の授業を始めるマリウス。そんな場所を弁えずに修業を始めた2人を呆れたように見て休憩所に移動したユリアーヌ達。そしてルクアから叱られるまで2人は魔力操作をするのだった。
◇□◇□◇□
「爺さんとの授業は終わったでしょ?」
ルクアに叱られて休憩所に移動したレリアーノは、セッティングされている椅子に座ると、まずは軽い食事をとって武器の手入れも行う。そしてお湯を飲みながら、先ほどの戦闘で疲れ切った身体をほぐしていると、ルクアが隣に座ってきた。
「じゃあ、さっきの戦闘の反省会をしましょうか」
ユリアーヌ達はパーティー内での話があるのか、少し離れた場所で会議をしており、マリウスは久しぶりに見たゴブリンの魔石を使ってなにやら作業をしているようであった。
「そうだな。今回の戦闘は色々と反省点があるからな」
「でも無事に戦闘に勝利できたのはいいことよ。そこは誇りなさい。冒険者にとって生き残るのは最低限の義務だけど最高の行動なのよ。久しぶりの戦闘だったんでしょ。レリアーノあなたは優秀よ!」
反省会と言いながら最初はルクアの賛辞であった。前のパーティーでは賛辞を受ける事はなく、先ほどのように解体をしていても「遅い」「時間の無駄遣いをするな」「役に立たないのに時間だけは一人前に使う」などと罵倒されていた。
そんな辛い生活が染み込んでいるレリアーノにとって、ルクアの賛辞は最高の言葉であり、先ほどまでの疲れが完全に吹き飛ぶほどであった。その後も良かった個所から説明があり、そして本題である改善点の話になる。
「いい。魔物が現れたらまずは周囲を見渡すの。そして自分が対応できる範囲を確認。それから戦闘に入るのよ。レリアーノはまだ未熟だから、絶対に一対一になるように位置取りをすること」
「ああ。それはそうだな。でも、対処できない場合や2体以上の魔物が出てきたときはどうしたらいいんだよ」
ルクアの説明を至極もっともであり、反論をはさむ余地はなかった。ただ、それは1体との戦闘をする場合の話であり、2体以上の場合はどうするのかとの観点はなかった。そんなレリアーノの質問にルクアは満面の笑みを浮かべて答える。
「当然ながら逃げるのよ」
「逃げるのかよ!」
「当然じゃない。勝てない戦いをしても仕方ないでしょ。その場合は一旦全力で逃げるのよ。そして頃合いを見て反撃をする。何なら逃げながら魔法を放って不意打ちもいいわね」
冒険者ならどんな手段を使ってでも勝つことを考えるべきであるとのルクアの持論に、レリアーノは感心したように聞きながら、次の戦闘ではその辺りを注意することを伝えた。
「そう。それでいいの。後はレリアーノの拡張収縮魔法だけど、もう少し速く発動が出来るようになった方がいいわね。マリウスの爺さんから攻撃魔法の許可が出たら、少しでも速く発動が出来るようにしてみなさい。まずは明日の戦闘で今日の反省点を意識しなさいよ」
「ああ、そうだな。ちょっと明日の為に素振りをしておくよ」
今後の方針について決まったのかレリアーノは明日に備えて素振りを始める。そんな勤勉なレリアーノをルクアは嬉しそうに眺めていた。




