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追放されたが、それでも収縮拡張スキルで英雄へと駆け上がる  作者: うっちー(羽智 遊紀)


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レリアーノは知らないところで話を進められる

 2人の激闘で幕を閉じた模擬戦闘。シャルは激しい戦いを繰り広げたレリアーノとユリアーヌの真似をして、マリウスに用意してもらった木剣を振り回していた。楽しそうにルイーゼが対戦相手になっており、周囲には穏やかな空気が流れる。


「私も剣の練習するー」


「おう! じゃあ、俺が教えてやるぞ」


「ちょっとお兄様! シャルの相手は私がしますわ。お兄様は魔物相手に剣を振るってくださいな」


「なんでだよ! いいだろう。俺もシャルに剣を教えたいぞ」


 ぶんぶんと音を鳴らしながら楽しそうに木剣を振り回しているシャルを見て、ユリアーヌが嬉しそうに話しかける。そんな兄の言葉にルイーゼは頬を膨らませながら抗議をしていた。出会ってから時間は経っていないが、シャルの元気さや可愛さは2人の心を鷲掴みしたようで、争奪戦が始まっていた。


「じゃあ、爺ちゃんが魔法を教えてやろうかの」


「本当!? リア兄ちゃんみたいに格好よくなれる?」


「ほっほっほ。もちろんじゃ。レリアーノに負けないくらいに魔法を教えてやろう」


 目を輝かせているシャルにマリウスが目を細める。軽い感じで答えているマリウスを見ながら、レリアーノとルクアは頬を引きつらせながら顔を見合わせる。


「なあ、シャルにスキルがなくても、爺さんなら大魔法使いにしそうだよな」


「そうね。なんせ大賢者マリウスだものね。シャルちゃんがスキルを持っていなくても、スキルを使いこなせなくても強力な魔法使いを産みだしそう」


 この世界はスキルの恩恵が絶大であり、スキルのあるなしで人生が変わると言われていた。だが例外もある。それが魔法であり、レリアーノが持つ収縮拡張魔法はスキルであるが、それ以外にも詠唱と魔力があれば使える魔法も存在していた。しかし、一般市民や冒険者を目指す者が習得できる魔法は、せいぜい生活魔法であり、攻撃魔法を習得できる者は資金を持っており、また師匠と呼べる魔法使いとのつながりも必要であった。


 シャルは奇跡的と呼べる幸運に恵まれていた。もし、レリアーノやマリウスと出会わなければ母親と2人で路頭に迷っていたであろう。そんな幸運に気付かず、シャルは魔法が使えると、おとぎ話のような状況に満面の笑みを浮かべていた。


「じゃあ、食事の準備を始めようかな。ユリアーヌとルイーゼは夕食を買ってきてくれ。父さんはワインを探しに行ってくるよ。まだセラーに何本か残っていたはずだ」


 シャルを中心となっている状況を見て、ゲールハルトは微笑ましそうにしていた。彼としてはレリアーノやシャルが屋敷に来てくれたおかげで、息子のユリアーヌは冒険家業を1週間とはいえ休んでくれた上に、久しぶりに娘のルイーゼが楽しそうに笑っているのを見た気がした。


◇□◇□◇□


「今日は歓迎会をする」


「旦那様。歓迎会をされるとの事ですが、外食になさるのですか?」


 玄関周りの掃除が終わったシャルの母親であるレーナが、訓練場から一人で出てきたゲートハルトに問い掛ける。屋敷は各人の居室以外は掃除が出来ていない状態であって、次は台所の掃除をこれから始めようとしていた。


「ああ。この屋敷には食材が無いからな。お前に料理を作ってもらうのも試用期間には入っているのだが、今日のところは外食とする」


「かしこまりました。では、食後の洗い物を出来るようにはしておきます。……。どうかされましたか? 旦那様?」


 玄関周りが見違えるように綺麗になっており、ゲートハルトが呆然とした表情で周囲を眺めていた。そんな主人の様子にレーナは首を傾げていたが、その後の反応がないので台所の掃除に向かおうとする。


「レーナ」


「は、はい! なんでございますか? 旦那様」


 突然、名前を呼ばれたレーナが驚いた表情になる。先ほどの面談では名前すら聞かれず、試用期間を過ぎれば首になる可能性も高いと感じていたレーナは、そうならないようにと必死に掃除をしていた。いつの間に名前を知ったのだろうかと思っているレーナに、ゲートハルトは頭を掻きながら話しだす。


「レーナの試用期間の話だが……」


「は、はい」


 まだ初日であり、ゲートハルトからなにを言われるかと身構えているレーナに、想像もしていなかった言葉が聞こえてくる。


「採用だ」


「え?」


 何を言われたのか理解が追い付いていない表情になったレーナに、ゲートハルトが話を続ける。玄関周りの掃除を見ても、問題ないどころか素晴らしいと称賛するレベルである事。立ち振る舞いは貴族の屋敷で雇うには少し足りないだろうが、自分たちならば問題ない事。


「その他にも色々とあるが、我が家で雇うには問題はない。それにシャルちゃんを子供たちが気に入っている。給金については後で決めよう。衣食住の提供はする。それと2人にはこれから教育を受けてもらおう。シャルちゃんへの教育はユリアーヌとルイーゼ、それと父さんが担当する。レーナには家庭教師を探そう。なにか不満はあるか?」


「い、いえ! 採用頂きありがとうございます。娘にまでご厚意を頂き感謝の言葉しか出てまいりません。本日より、旦那さまたちのために精一杯働かせて頂きます」


「ああ、頼む。さっそくだがユリアーヌとルイーゼが、シャルちゃんと一緒に買い物に出かける。一緒に付いて行ってくれ。これから住む私の街をしっかりと見てくるように」


 娘のシャルにちゃん付けをしながら、貴族然とした表情で話そうとしているゲートハルトに、思わず笑みがこぼれそうになるレーナだったが、何とか耐えると深くお辞儀をして一礼すると3人の元に向かった。


「やるじゃない」


「ん? ルクアか。仕事が出来るメイドは元々欲しかったからな。彼女なら試用期間など設けなくても問題ないな」


 にやにやと笑いながらやってきたルクアに、ゲートハルトは表情を崩さないまま答える。まさかシャルの可愛さに自分もメロメロになっており、母親のレーナも仕事が出来るから手のひら返しをしたとはいえなかった。

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