レリアーノはこれからのことを悩む
「どうすんだよ。これから……」
今までの宿は使えないため、少し離れた場所に宿を確保したレリアーノは、食事もしないまま、ベッドに寝ころんで昔を思い出していた。
「村を出るまでは神童だと、皆から呼ばれていたんだけどな。支援スキルがあると分かって、冒険者に登録したまでは良かったんだ。でも街でスキルの詳細内容を調べたら、使いみちがないスキルだと言われるし、なんとか潜り込んだパーティーも首になるし……。強化! やっぱり変わらないか」
大きくため息を吐きながらレリアーノは自分の手を見ながらスキル補助魔法を発動させてみる。
スキルを調べた教会で聞いた通りに身体強化を発動させても微弱にしか強化されず、それも1分も持たずに消え去ってしまう。
彼が教会で聞いたスキルは補助魔法であり、先ほど自分と入れ違いにパーティーに入ったメンバーと変わらない支援系のスキルであった。
残念ながらレリアーノの補助魔法は微弱にしか発揮せず、戦闘では役に立たないレベルであった。
また、仲間を強化しても同じように効果は薄く、最近では荷物を運ぶ際に自分に身体強化を付与して使うくらいであった。
「スキルを得たときは伝説の勇者になれると信じていたんだけどなー」
そう言いながら、レリアーノは今後どうすればいいのかを考える。
大見得を切って飛び出した村には今さら戻れない。
かといって、別のパーティーで雇われたとしても、いつ解雇されるか分からない。
「しばらくは薬草採取で頑張って生活費を稼ぐか。武器や防具も取り上げられたからな」
早急に当座の資金を稼がないと、生活すらままならないとの結論に至ったレリアーノは、採取依頼を受けるために冒険者ギルドへとやってきた。
レリアーノは掲示板を眺めつつ、常時依頼である薬草採取と、今の自分でも受けられそうな依頼を探す。
「スライムの討伐ならなんとかなるかな。ナイフがあれば狩れるし、少しでも生活の糧を稼がないと」
レリアーノは掲示板にぶら下がっている木札を取ると受付に移動する。
周囲から侮蔑の視線が向けられているのを感じつつも理由が分からないレリアーノは首を傾げながら受付にやってきた。
木札を提出するレリアーノに、受付嬢がギルドカードの提出を求め、レリアーノのカードを確認すると奥に引っ込み別のカードを持ってきた。
「レリアーノさん。あなたのギルドカードを更新します。今まではDランクとして登録されていましたが、パーティーメンバーのウードさんより強制脱退届が出されております。強制脱退は懲罰対象になりますので、ペナルティーとしてFランクとなりました。それと1週間の依頼受付停止処分も出ております」
「え? 俺が強制脱退? な、なんで?」
事務的な表情と口調で受付嬢から告げられた内容に、頭が一瞬で真っ白になるレリアーノ。
あまりの事に呆然としていると、周囲にいた冒険者達が口々に罵詈雑言を投げかけてきた。
「クエストを途中で投げ出したそうじゃないか」「荷物持ちしかできないくせに一番に逃げたと聞いたぞ」「ポーターに転職しろよ」「卑怯者が強制脱退程度で済んだのだから、前のパーティーに感謝しろよ!」「普通ならギルドカード剥奪だぞ!」「俺なら二度と立ち上がれないくらいに殴るな」
「え? 逃げ出した? そ、そんな事をするわけない! なにかの間違いだ!」
意味も分からず中傷される事に戸惑っているレリアーノに、白々しいと言わんばかりの視線を投げつける冒険者達。
さすがに見かねた受付嬢がレリアーノに事情を説明してくれた。
「ウードさんより、あなたの行動が報告されています。そして強制脱退届けが提出されたので、ギルドとしては申請を受理しました。あなたは寄生をしていた上に仲間を見捨てた卑怯者として、ギルドに居る皆さんに思われているのですよ」
「ちょっと待ってください! 寄生なんて事をするわけない。役に立っていなかったと言われたら反論は難しいけど、寄生をするほど落ちぶれていないし、雑用係として頑張っていた!」
必死になって弁明するレリアーノに、受付嬢はため息を吐く。
依頼を受けても荷物運びしかしていなかったこと、戦闘では役に立たないにもかかわらずポーター以上の報酬は得ていたこと。
さらには直前の依頼では逃げ出したことも報告されており、ギルドは報告内容を吟味した上で懲罰したと告げられた。
「僕なりに行動し、リーダーであるエドガーもその点は認めていました。それに依頼の途中で逃げ出すなんてことはしない!」
「それを証明できますか? ギルドとしてはリーダーから委任を受けたウードさんから報告を受け、内容を吟味した上での判断です。それを覆すならレリアーノさんが無実だと証明をしてください」
「パーティーのメンバーに聞いてもらったら分かります!」
レリアーノが必死な表情で伝えるが、すでにレリアーノが所属していたパーティーは別の依頼を受け街から旅立っており確認のしようがないとのことであった。
依頼が受けられないとなると、死活問題になるために、なんとか食い下がろうとしたレリアーノだったが、冒険者の1人に襟首を捕まれ殴られるとギルドの外に投げ捨てられた。
「強制脱退されるような三流以下が、ギルドに居続けるんじゃねえ! 次に見かけたら、この程度で済むと思うな!」
冒険者の彼からすれば強制脱退をされるような者が居るのはギルドの信用問題に関わる重大案件であり、追い出すことは当然であった。
それが例え冤罪であったとしても、彼にそれを知るよしは無かった。