レリアーノはスキルを限定条件で開花させる
予想以上のスピードで迫ってくるレリアーノに、ユリアーヌは驚愕の表情を浮かべるも、冷静に剣筋を予測してかわす。そして軽く剣を振って間合いを取ると楽しそうに笑った。
「さっきとは別人の動きだな。はっはっは! やる気が出てくるじゃないか。ここからは本気を出させてもらうぞ」
「もちろん!」
ユリアーヌの称賛に、レリアーノは短く答えながら油断せずに視線をユリアーヌの剣に集中させる。先ほどと同じように上段から振り下ろされてくる剣筋に、レリアーノは素早く剣を掲げて防ぐと全力で押し返した。
まさか力負けするとは思っていなかったユリアーヌの姿勢がわずかに崩れる。先に態勢を整えたレリアーノが手首の返しを利用しながら横なぎの一撃を放った。見た目は素人に毛が生えた程度の太刀筋なのだが、身体強化が掛かっているレリアーノが振るった木剣は、ユリアーヌの想像を再び裏切るほどの勢いがあり、反射的に木剣で受けたが、あまりの衝撃に歯を食いしばると踏ん張って態勢が崩れないようにする。
「なめるな!」
レリアーノが連撃に繋げようと木剣を引いたタイミングを見て、ユリアーヌは吠えながら全身を回転させて木剣を振るう。魔物相手に大打撃を与えるユリアーヌの必殺技であり、今まで対峙した魔物を防御させずに命を刈り取っている一撃であった。
「リアお兄ちゃん頑張れ!」
「うぉぉぉぉ!」
シャルの声援に応えるようにレリアーノは木剣で防御をするが、勢いを殺しきれずに吹っ飛ばされる。地面を転がりながら起き上がったレリアーノの息は上がっており、擦り傷だらけになっていた。頬にも大きく裂傷が出来ているが、レリアーノは気にすることなく再び剣を構える。
「いいぞ! 冒険者はそうでないとな」
「まだやれる!」
「その意気やよし! 限界まで戦いを楽しもうぜ」
荒い息をしながらも目が死んでいないレリアーノにユリアーヌのは嬉しそうにする。レリアーノも高ランク冒険者であるユリアーヌと互角の戦いが出来る事を嬉しく思っており、自分が持っている技術を全て注ぎ込んで剣を振るう。
全力を出しあっていた戦いの決着はあっけなくついた。互角の戦いをしていた2人だったが、レリアーノの身体強化魔法が切れたのである。一気に動きが悪くなるレリアーノだが、歯を食いしばって剣を振り続ける。
その気合を受け、ユリアーヌは嬉しそうに笑うと防御姿勢を続けてレリアーノの攻勢を防ぎ続ける。身体強化が切れてから数分。息が切れ、剣どころか身体も動かせないほどに疲弊したレリアーノは崩れるように倒れた。
「レリアーノの根性を見せてもらったぞ。やるじゃないか。さすがは爺ちゃんが弟子に欲しいと言っているだけはある。それにしても、いいスキルをもっているよな。身体強化を重ね掛けできるなんて初めて見たぜ」
「レリアーノ。ちょっと頬を見せなさい。身体中が傷だらけじゃない。模擬戦をするのは認めたけど、ここまでしなくても良かったのよ。ほら飲みなさい」
倒れたまま起き上がれないレリアーノに、ルクアが近付いてくると無限収納からポーションを取り出して飲ませる。体力が回復したのを確認し、裂傷になっている場所にポーションを掛けるルクア。
「もう大丈夫だよ。俺でも戦えるって分かって――うわぁ!」
「リア兄ちゃん! すごかったよ。格好良かったよ」
何とか身体を起こしたレリアーノがルクアに模擬戦の感想を伝えようとしたが、途中で猛烈なタックルを受ける。目をキラキラさせたシャルが馬乗り状態で、先ほどの戦いを称賛してくれた。
お腹の上で飛び跳ねられ苦しかったが、純粋な称賛にレリアーノは嬉しそうな顔でシャルの頭を撫でる。そしてシャルを抱えて立ち上がると、苦笑しているルクアの隣にやってきたマリウスが、さわやかな笑みを浮かべて近付いてきた。
「いい戦いぶりじゃったぞ。収縮拡張魔法のスキルは素晴らしいじゃろう。後は戦闘で使えるように、魔力の流れを素早くできるように練習あるのみじゃ!」
「ああ。頑張るよ爺さん。今までの努力が報われた気がするよ」
「いや。まだまだだぞ。基礎の部分を鍛えなおした方がいいな」
マリウスの言葉を聞いて嬉しそうに答えたレリアーノに、ユリアーヌが話しかけてきた。剣技は及第点ギリギリであり、身体強化を活用するにしても、もっと技術を磨かないと宝の持ち腐れになると言われる。
「レリアーノのスキルはよく分からないが、複合職業を名乗るのなら一定の剣技は身に付けないとな。出発まで1週間ほどあるんだろう? その間は俺が鍛えてやるよ」
ユリアーヌの言葉に喜んだのはゲールハルトであった。跡継ぎであるユリアーヌが冒険者として遠征を繰り返し魔物と対峙しているのである。妻を亡くし、後妻を迎える気がないゲールハルトにとって、ユリアーヌは大事な一人息子であった。
「じゃあ、ユリアーヌは冒険者としての活動を休止してくれるんだね。レリアーノには感謝しないとな。父さんも来てくれているし、これで母さんも居れば……」
「ひょっとしたらすぐに来るかもよ」
父親であるゲールハルトの台詞にルイーゼが笑いながらツッコみを入れる。その言葉にマリウスの顔が若干、青くなった気がした。夫婦仲はいいが、今回は黙って出てきており、次に会った時はなにをされるか見当もつかなかった。
「ま、まあ。婆さんは忙しいからのー。そうそう来んじゃろう。そうじゃ、レリアーノ。今の戦いから色々と学ぶべきことがあるぞ。これから修行と言いたいが、今日は歓迎会をしようかの」
マリウスが何かに怯えるように話を逸らす。ゲールハルトはあからさまな話の逸らすのを久しぶりに見て、自分は父親の血を継いでいると感じていた。そしてレリアーノに抱っこされているシャルは、マリウスから歓迎会の意味を聞かされると、ごちそうがたくさん出ると理解して大喜びをしていた。