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レリアーノは新たな事を知る

 爺さんと気軽に読んでいた老人が伝説の人物である大賢者だと知ったレリアーノは、口をパクパクをさせながらマリウスを見た後にルクアに視線を移す。


「え? 言ってなかったっけ?」


「ない! 言ってないよ! 教えてくれよ。そんな大事な情報は伝えるべきだろ。ルクアはいつも言ってるじゃん。報告連絡相談は冒険を進めていくうえで大事だって」


「もちろん、報連相はとても大事よ。でも聞いて欲しいの。いい? 人は忘れていく生き物なのよ。そうやって様々な成長をしていくの」


 とぼけた口調のルクアに、さすがのレリアーノも怒りの表情を浮かべてたが、そっぽを向いて口笛を吹ている姿を見て、ため息を吐いて追及を諦める。そしてマリウスに向き直ると、直立不動の姿勢から全力で頭を下げた。


「大賢者マリウス様とは知らずに、失礼をしました。どうか今までの――」


「よいよい。むしろ今まで通りに話してくれんかの。儂はレリアーノの喋り方で不愉快になったことはないぞ? それに弟子入りするのに、ずっと敬語で話を続ける気か?」


「いえ、だから弟子入りは断ると話をしておりまして……。本当にいいの? じゃあ、今さら爺さん相手に敬語を使えないから普通に話させてもらうな。本当に今までの口調でいいのか? 突然、敬語で話せと言われても直せないぞ」


 レリアーノの言葉にマリウスは豪快に笑いながら、自分も昔は平民であり、大賢者と呼ばれた時点で貴族になった新参者なので気にする必要はないと伝える。


「そうそう。私も領主をしているが、父さんが貴族になって3日で家督を譲られただけで、それまでは平民だったんだ。だから君が気にする必要はない。子供たちにも必要最低限の礼儀だけ覚えればいいと言っているからね。他の貴族からは『新参者の礼儀知らずの成り上がり者の平民』と陰口を叩かれているよ」


 ゲールハルトが父親であるマリウスの言葉をフォローするように伝えてきたが、それは貴族としてどうなんだろうと平民であるレリアーノですら思うほど適当な感じであった。


「そんなのでいいの?」


「ふふっ。まあ、見るべきところはしっかりと見ているよ。シャルちゃんのお母さんの名前を聞くのを忘れているのは、我ながら駄目だと思っているけどね」


「そうね。雇う側が名前を憶えていないのは駄目でしょうね。シャルちゃんは覚えているようだから、レーナさんの名前も覚えてあげてね」


 ルクアのつぶやきを聞いたゲールハルトが笑いながら伝えてくる。一瞬だけ浮かべた視線は鋭く、油断させて近付いてくる底の見えなさがあった。ルクアも商人の目でゲールハルトを見る。


「まだ雇うとは決めてないけどね」


「そう言いながらも、雇う気はあるようだけど? なんてったって爺さんの紹介だからね。無下にはできないわよね」


「言うねー。さすがは商人かな?」


「欲しいものがあれば用立てできるわよ? お金は取るけどね」


「はっはっは」


「うふふふ」


 なぜか火花を散らしながら笑いあっている2人に、レリアーノは不思議そうな顔をしていた。


◇□◇□◇□


 そんな2人がやり取りをしていると髪の毛をふきながらユリアーヌが戻ってきた。最初のインパクトが強すぎて顔を覚えていなかったが、改めてみると精悍(せいかん)な顔つきで、鍛え上げられた筋肉をしておりレベルの高い冒険者と言われても納得できる立ち振る舞いであった。


「まあ、親父も爺ちゃんも適当だから、俺も助かっているけどね。それにしても爺ちゃんがこっちに来たのは、また逃げてきたの?」


「ほっほっほ。逃げてきたのではない。新たな出会いを求めて旅立ったのじゃ。お陰で新しいメイド候補と、可愛い孫娘に弟子とまで出会えたんじゃ」


 品定めをするようにレリアーノを眺めているユリアーヌに、マリウスが笑いながら答える。いや、どう見ても逃げてきたでしょと言いたげな息子のゲールハルトの視線を見ないようにしながら、マリウスは今までの話をする。


 レリアーノのスキルについては、本人とルクアから話していいとの承諾をもらっていないので、ぼかして話していたが貴重なスキルであるとの内容は伝わった。


「爺ちゃんが弟子にしたいと言っている冒険者か。まだ、ランクも低いのに、大賢者に見初められるなんて将来が楽しみだな。レリアーノだっけ?」


「は、はい!」


 突然、話しかけられたレリアーノが思わず詰まりながら返事をする。そんな緊張している姿に、ユリアーヌは笑いながら近付くと品定めを始めた。


「うーん。基本的な鍛え方はしているようだけど、そんなに凄そうには見えないな。ちょっと腕試しをさせてくれ」


「ちょっと! パーティーリーダーの私に相談なく、勝手に決めないで頂戴」


「ん? この子がリーダーなのか? 商人だとさっき言っていた気がするけど?」


 レリアーノとユリアーヌの間に入ってきたルクアに、ユリアーヌが面白そうな顔をする。この世界で冒険者がパーティーを組み依頼を受けるのは普通だが、戦闘が多いため戦士か魔法使いがリーダーをすることが多かった。


「そうよ。商人がリーダーをした方が周りの状況を見れるの。戦闘中によそ見をしている戦士や魔法使いなんて怖いわよ」


「おおー。言うねー。じゃあリーダーのルクアに確認だ。レリアーノの実力を見たい。大賢者マリウスが認めた奴の実力をな」


 ルクアの啖呵(たんか)にユリアーヌが面白そうな表情を浮かべて確認してくる。レリアーノを無視した形でやり取りは行われているが、最終的には実力を見ることは了承された。


「よし、レリアーノ。練習場に移動しようぜ。そう言えばレリアーノの職業はなんだ? 俺は騎士だ」


「え? 俺の職業? なんだろう……。ギルドでは戦士で登録していたけど」


 ユリアーヌの問い掛けにレリアーノは自分の職業を考えたが、答えが出ないようであった。少し悩んでいるように見えるレリアーノに、マリウスが笑いながら会話に参加してくる。


「レリアーノには職業は不要じゃ。戦士でも魔法使いでも僧侶にもなれる。複合職業持ちじゃ。ギルドでは魔法剣士で登録しておくがいいじゃろう」


「おお! 複合職業持ちか。それはレアだな。爺ちゃんが言うならギルドも登録するだろうな。楽しみになってきた。そんなレア職業の実力を見せてもらうかな」


 マリウスの言葉にユリアーヌは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ、レリアーノの身体を引っ張るように練習場に連れて行った。

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