レリアーノは街に到着する
「追放されて1週間か。色々とあったな」
追放された街からダンジョンに向かっているレリアーノとルクアは、乗り換える街まで到着していた。最初の野営で仲良くなったシャル母娘。スキルの師匠として様々な知識を気前よく教えてくれるマリウス。面倒見のいい、姉さん女房みたいになっているルクア。
ちょっと前までは単なるポーターのような冒険者として身を粉にしていたが、全く身に付くものはなく、ボロ雑巾の方がマシな扱いを受けていた。その時の思い出は苦いものでしかなく、思い出すたびに気分が暗くなる。
「また、なにかどうでもいいことを思い出してたでしょ? あんたはレアスキル持ちなのよ。そんなことはさっさと忘れて、これからの未来に思いを馳せなさい!」
ルクアがレリアーノの背中を叩いてきた。力自体は強くなかったが、レリアーノの暗い気持ちを吹き飛ばす勢いはあった。思わずよろめいたレリアーノだったが、苦笑しながらかぶりを振ると気分を入れ替える。
「そうだな。さっさと忘れるためにも、次の街に向かいながらスキルを磨いてダンジョンにも潜って、他にも依頼を受けてランクを上げていかないとな!」
「そうそう。その意気よ。まずは馬車を探しましょう。3日くらいは街に滞在しましょう。爺さんが息子さんの家に泊まらせてくれるって」
ちゃっかりとマリウスの息子の家に泊まれるように手配していたようで、宿代が浮いたと喜んでいるルクアを見てレリアーノは苦笑いをする。そんな2人の話を聞いていたシャルが不安そうな顔になった。
「リア兄ちゃん。どっかいくの?」
「ああ、うん。俺は冒険者だからね。ダンジョンに向かうんだよ」
「やだー!」
レリアーノの返答に、シャルはしがみついて号泣する。突然の鳴き声に、何事かと母親とマリウスがやってきたが、理由を聞くと納得した表情になった。
「レリアーノさんに懐いてますからね。一人っ子なので、お兄ちゃんが出来て嬉しかったんでしょうね。父親の面影も求めているのかも」
「まあ、仕方あるまいな。レリアーノ、1週間ほど滞在してやってくれんか? その間に儂とお嬢さんでシャルちゃんを納得させるからの」
「いいけど。なにもせずに1週間も世話になるのはちょっと……」
マリウスの提案にルクアは目を輝かせていたが、レリアーノは申し訳ないと辞退しようとする。レリアーノが一緒にいるとの話を聞いて笑顔になっていたシャルが再び涙目になるのを見て、レリアーノは1週間の滞在を了承するのだった。
◇□◇□◇□
「え? ここが爺さんの息子の家? え? 屋敷? 城?」
レリアーノは目の前にある建物を見て大きく口を開けていた。街の中央に鎮座する建物は門に入ってから見えていたが、まさかそこがマリウスの息子が住む場所だとは思っていなかった。
領主の建物であるとルクアから聞いており、しばらく眺めていたレリアーノは同じように大きな口を開けて城のような建物を見ているシャルに話しかける。
「シャル。俺たちが見ているのが爺さんの息子さんのお家らしいぞ?」
「うわぁぁぁ。お姫様がいるのかなー」
シャルの無邪気な感想にレリアーノは思わず笑いそうになったが、シャルの母親が青い顔をしていることに気付いた。
「大丈夫?」
「え、ええ。マリウス様が高名な冒険者とは聞いていましたが、まさか高貴な方だったなんて……。どうしましょう。お世話になると聞いてましたが、私達が住んでいい場所じゃない気がします」
「ほっほっほ。気にせんでええ。儂の息子は細かいことには無頓着じゃ。今回、こっちに逃げて……やってきたのも、孫娘から手紙を受け取ったからじゃしの」
顔面蒼白になりつつあるシャルの母親の肩に手を添えて、マリウスが気にする必要はないと説明をする。息子は領主をしているが生活に無頓着であり、身の回りの世話をされるのを嫌がっていること。妻とも死別しており、息子と娘の3人で暮らしていることも説明する。
「メイドも側に置きたがらん。屋敷も汚れる一方じゃ。そこで目を付けたのはお嬢さんじゃ」
「確かに、私は主人と死別するまでは商店で掃除をしていましたが、こんな大きな屋敷はどうやったらいいのか」
生活の面倒を見てもらえる話が思っていたよりも大きく、シャルの母親は仕事の内容や生活が心配そうであった。それをマリウスはなんとか宥めて落ち着かせる。
「それは人を増やして、お嬢さんが指示をだせばええ。しばらくは儂も滞在してサポートしよう。婆さんも呼んで手伝わせるから安心しなさい」
「おばあちゃんもいるの?」
マリウスがシャルの母親に説明をしていると、シャルがレリアーノに抱っこされた状態で問いかけてきた。
「ああ。じいちゃんだけじゃなくて、ばあちゃんもいるぞ。普段はおっかないが、シャルちゃんを見たら機嫌もよくなるじゃろう。あわよくば儂が出奔したのも許してほしいものじゃ」
レリアーノに抱かれた状態のシャルの頭を撫でつつ、微笑んで説明をしているマリウスにルクアがツッコんだ。
「爺さん。やっぱり逃げ出していたのね。まあ、私は1週間も宿代が浮くのは大歓迎よ。レリアーノのスキルアップをするにも爺さんの力をもう少し借りたいからね」
「それなら屋敷にある練習場を使ったらええ。宿代も取らん。飯も用意しようじゃないか。その代わり、シャルちゃんとお嬢さんの服や生活に必要な物を買いに行くのを手伝ってくれんかの?」
マリウスの提案は全く問題はなく、喜んで引き受けるルクアだった。そんな話をしている一同に、大柄な男性が話しかけてきた。
「なんで父さんがこんなところに? また王城から逃げてきたのか?」
「いや。お前さんが家の事をサボっていると、可愛い孫から手紙が来ての。メイドを探してやってきたわけじゃ。それと有望な冒険者を見つけての。儂が勝手に弟子と呼んでおる。1週間ほど世話になるぞ」
困惑した表情を浮かべている男性に、マリウスは一方的に言い放つと勝手知ったる屋敷にレリアーノ達を案内するのだった。
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