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レリアーノは朝食を作る

 朝食の準備を始めるレリアーノ。昨日の夕食とは違い、レリアーノ達は周囲の馬車にも声をかけていた。そして大人数に対応するため大き目の鍋を用意する。昨日と同じスープをもう一度作って欲しいと要望があったためだ。


「昨日はすまなかったな。周りの空気に乗せられてお前さん達から無料でスープを奪うところだったよ」「気付いた時には止めるタイミングを逃していた。本当にすまない」「そっちのお嬢ちゃんのお陰で助かったよ。本来なら俺たちが止めないといけないのにな」


「まあ、いいわ。今回は貸しにしておいてあげる。次に会った時は料金をまけなさいよね」


「俺も気にしてないよ。こっちも考えなしに行動したのを反省しているから」


 レリアーノ達がいた街へと向かう馬車の御者達が申し訳なさそうに謝罪をしてきた。本来ならトラブルが起こらないように周りを注意する役目が御者にあるのだが、気付いた時点で騒動へと発展しそうになっており、仲裁に入る前にルクアが解決していたのである。


 他にも商人の馬車もあったのだが、彼らは朝が来る前にすでに出発をしていた。


「まあ、いいじゃろう。あの男が(あお)っておったんじゃろう。誘いに乗った奴らには十分に注意しておくのじゃぞ。次はないとしっかりと伝えておくがいい」


 レリアーノ達と御者達が話していると、マリウスが会話に参加してきた。遠巻きに彼らを眺めていた者達は、申し訳なさそうにしながらレリアーノ達に向かって頭を下げる。


「もういいよ。俺は気にしていないから。……。じゃあ、さっそく料理を始めようかな」


「お兄ちゃん! 私もお手伝いする!」


 レリアーノは片手を上げて謝罪を受け入ると、生活魔法を使って鍋に水を溜め始めた。初めて魔法を見るのか、それまで眠そうにしていた少女が目を輝かせつつレリアーノの手から出る水を見ながら元気よく手伝いがしたいと言ってきた。


「そうか? じゃあ、野菜をルクアからもらってくれ。いっぱいあるけど大丈夫か?」


「大丈夫だよー。すぐに持ってくるねー」


 レリアーノの言葉に嬉しそうに手を上げ答えると、少女はルクアの元に走っていく。弾むように走っていく後姿を見ながら、レリアーノはすでに用意していた肉を鍋の隣で軽く炙り始めた。


「先に肉を炙っておくのか?」


「ああ。理由は分からないけど、こうしてからスープに入れると美味しくなるんだよね。後は香辛料があれば、もっと美味しくなるんだけど」


「それは贅沢な悩みだな。香辛料を普段から持ち歩いている者はよっぽどの金持ちか、高ランクの冒険者くらいだろう」


 感心したように調理を見ている御者にレリアーノが答える。肉の焼き加減を調整しながら話しをするレリアーノに、流通量は少なく普通は手に入り難い香辛料を使いたいとの台詞に御者が大きく笑う。


 そんな御者の一人と話しをしながら調理を続いていると、少女が両手に大量の野菜を籠にいれてやってきた。手伝いができることが嬉しそうで、手渡す時も誇らし気にしている様子に、レリアーノは微笑みながら受け取り次々と切って鍋に入れていく。


「そう言えば名前を聞いてなかったよね?」


「名前? シャルだよ!」


 料理をしながら少女と話していたレリアーノは、名前を聞いていなかったことに気付く。そして元気よく答えたシャルに、レリアーノは小皿に少しスープを入れると手渡した。


「味をみてくれ。シャルが美味しいと言ったら完成だよ」


「うん。美味しいよ! 昨日のスープよりも美味しい」


「じゃあ、これで完成だな。今度はルクアからお皿をもらってきてくれるかな? 御者さんも皆さんを呼んできてく欲しい。多くは渡せないけどね」


「ああ。分かった。量は渡せないことも含めて伝えておこう」


 味見をして美味しそうに目を細めているシャルの頭を撫でながら、レリアーノは満足げに頷いて次の手伝いを頼む。そして御者にも準備が整った事を伝える。そのタイミングで御者達と話をしていたルクアとマリウスが、レリアーノの元にやってきた。


「できたようじゃな。相変わらずいい匂いがしておるわい。野営で食べるのがもったいないわい」


「本当ね。こんな美味しいスープが飲めてたのに、レリアーノを手放すなんて信じられない。そうだ、レリアーノにこれをあげるわ」


 鍋を覗きながら相好を崩しているマリウスを見て、ルクアが苦笑しつつも手に持っている袋を軽く振ってレリアーノに渡してくる。お金が入っているのは分かったが、なぜそれをルクアが渡してくるかが分からないレリアーノは首を傾げる。


「なんで不思議そうな顔をしているのよ。スープ代に決まっているでしょ。迷惑料も込みにしてあるから、たっぷりと入っているわよ」


「そ、そうなのか? せっかくだからもらうけど。前のパーティーでは当たり前だったんだけどな」


 当然の権利と言わんばかりの表情で袋を振っているルクア。彼女は御者から迷惑料として銀貨1枚を取っており、乗客からは銅貨1枚を集めていた。人数にして20人ほどで馬車は3台であり、それなりの金額が集まっているのを見てレリアーノは感慨深い表情になる。


 前のパーティーでは、どんな場所であっても温かく腹が膨れる量を提供するのが当たり前であり、料理がまずいと言われることはあっても、感謝されることがなかったレリアーノにとって、感謝されながら食事をしている風景を見るのは新鮮であった。

街に到着したらプロローグは終わり、本格的に話が動き出す……だすよね?


思った以上に街にたどり着くまで時間が掛かっております。

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