レリアーノは成果を報告する
「どう? 少しは爺さんの教えを受けて、スキルは使えるようになったの?」
気付けば空は白くなるつつあり、朝を迎えようとしていた。声を掛けられたレリアーノはマリウスを見て大きく頷くと、発動体の杖に魔力を集中させる。一晩の内でぎこちないながらも魔力が集まっていく事にルクアが驚いた表情を浮かべる。それをみたレリアーノは嬉しそうに生活魔法を発動させた。
「どう? 暖かくなってきた?」
「保温魔法? それとも別の魔法? 爺さんなにか新しい魔法を教えたの?」
保温魔法にしては認識できるほどの暖かさであり服を1枚脱いでもいいと思えた。通常よりも効果が出ている事にルクアはマリウスに視線を向けて確認する。
「いや。間違いなく保温魔法じゃよ。スキルを使って魔力を収縮しておるから、通常の保温魔法よりも効果が出て暖かく感じるんじゃろう。ほれ、坊主。ルクアにもう一つを見せんか」
「分かっているよ。今度はどう?」
マリウスの言葉に頷いたレリアーノが四苦八苦の表情を浮かべながら魔力を操作しているようであった。なにが起こったのか分からなかったルクアだが、身体を包み込んでいた暖かさが和らいだことに気付く。
「保温魔法の効果が消えた……の?」
首を傾げながら呟いているルクアにレリアーノとマリウスは顔を見合わせて笑いあうと、なにを行ったのか説明をする。
「いや、違うよ。保温魔法に使っていた魔力を拡張させて、爺さんにも保温魔法を掛けたんだ」
「はあ。え? はぁぁぁぁぁぁ!?」
レリアーノの言葉にルクアが素っ頓狂な声を上げる。それほどインパクトのある言葉であった。すでに発動している魔法の魔力を他人へ反映させたのである。それが魔法を使う者にとって、どれだけ非常識かを知っているルクアの反応は当然であった。
「どう、凄いでしょ! 爺さんと練習をして出来るようになったんだよ。この爺さんは本当に凄いんだよ。俺のスキルをどう使ったらいいか分かっていてさ。教え方も丁寧で分かりやすくて、あっという間に基礎の部分は使えるようになったんだよ」
「ほっほ。そんなに褒めてもなにもでんぞ。それと『基礎の部分は習得している』状態である事を忘れるでないぞ。まだおぬしは初心者じゃ。それを忘れずに日々の修行をしっかりとするがよい。おぬしのスキルはこれからもっと発展する。想像力を膨らませてスキルを見事使いこなすがよい!」
「分かったよ! 今度、会った時に、俺の成長を見せつけてやるからな」
「ほっほ。他にも注意する点があるぞ――」
呆然としているルクアを放置して、レリアーノとマリウスが笑顔で話し合っていた。今後の修行方法や、スキル発動中の注意事項をレリアーノに伝えているマリウスを、再起動を果たしたルクアが引っ張るように離れた場所へと連れていくと襟首を掴んで問い詰める。
「ちょっと! なにを教えたのよ!? 本当に基礎の部分だけよね?」
「ほっほ。儂が知っている基礎部分じゃよ。それにしても坊主は筋がいいのー。思わず弟子にしたくなったわい」
ルクアの問い詰めに、嬉しそうに目を細めレリアーノを見ながらマリウスが答える。大賢者から弟子にしたいと言われるほど、レリアーノは飲み込みがよかった。基礎は学び終えており、その先の領域まで進んでいた。
「弟子にどうじゃと誘ってみたんじゃがのー。『ルクアと旅をする約束をしているから。爺さんには感謝しているけど、俺を救ってくれたルクアに恩を返さないと。旅に一区切りが付いたら考えてもいい』じゃと。まさかこの年で同性に振られるとは思わなんだ」
悲しそうな演技をしながらも、口元には笑みを浮かべているマリウス。レリアーノがそこまで恩を感じているとは思っていなかったルクアは、なぜか顔が赤くなっていくのを感じる。ニヤニヤと笑っているマリウスから視線を外すようにレリアーノへ視線を移すと、一所懸命に魔力の流れをスムーズにしようと頑張っている姿があった。
「そこまで恩に着る事はないのに。ちょっとレアスキルに興味があっただけなのよ」
「ほほー。まあ、そう言う事にしておいてやろうかの」
独り言のように呟いているルクアに、マリウスは照れている孫を見るような視線を投げかけていた。
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「おはよー」
「おはようございます。昨日は美味しいスープをありがとうございました。このご恩は忘れません」
ルクアとマリウスの話は終わり、2人でレリアーノの魔力操作を見守っていると母娘が起きてきた。眠そうに目をこすりながら挨拶する少女に、レリアーノは笑顔で返事をする。母親はマリウスに感謝の言葉を述べていた。
「とりあえず食事にしましょうか」
「そうだね。今日も俺が作るよ。一緒に食べるだろう?」
「いえ、昨日に引き続き……」
「うん! お兄ちゃんのご飯美味しいから一緒に食べる!」
ルクアの言葉にレリアーノが食事を作ると宣言する。そして少女に食事を一緒にしようと声をかけた。母親は昨日に続いて施しを受けるのは申し訳ないと断ろうとしたが、その前に少女が元気よく答えた。
「ほっほっほ。子供は元気が一番じゃ。お嬢さんも遠慮せんでいいから食べなさい」
「……。もう。仕方ないわね。ありがとうございます。マリウス様。今日もお言葉に甘えます」
困り顔の母親にマリウスが声を掛ける。しばらく迷っていた母親だったが、少女の表情を見て軽く苦笑をするとマリウスに感謝の言葉を伝えた。