レリアーノは感覚を掴む
「やった! 出来たぞ爺さん! こんな感じだろう?」
「ふぉっふぉ。そうじゃな。まだ魔力を集めるのは素人の域を出たくらいじゃが、感覚さえ掴めば後は練習あるのみじゃ。まずは寝る前に魔力を杖に集め、それを維持する練習をするとええ。宿屋で安全を確保してからじゃぞ?」
魔力が集まり喜んでいるレリアーノを孫を見る視線で眺めていたマリウスが、何度も頷きながら杖の発動体を確認する。
魔力を視える者がいたら、揺らぎながら杖に魔力が集まっているのが分かるようで、マリウスも当然ながら視えており及第点だと伝える。
「その状態を維持したままで生活魔法を使ってみなさい」
「え? この状態で?」
軽く言われたレリアーノが焦った表情になるのも当然であり、魔力の維持だけで精一杯になのに、とてもじゃないが魔法を使える状態ではなかった。
そんなレリアーノの表情を見たマリウスが笑いながらレリアーノの杖に手を添えた。
「最初の維持は儂がしてやろう。なにか知っている生活魔法で、危やうくないものは使えないかの?」
「そうだな。だったら保温がいいかも」
「それなら暴走しても特に問題はないのー。暴走してもおぬしレベルの魔法なんぞ、儂が一瞬で制御してやるわい。思いっきりしてみなさい」
魔力の維持をマリウスが担当してくれているので、レリアーノに余裕が生まれる。
そして寒い日に使用する保温魔法を選ぶ。
保温魔法は使用すると半日は体と服の間に保温層ができ、薄着が出来るために冒険者に重宝されていた。
「今までなら一瞬で効果が無くなっていた。そうじゃな?」
「ああ。使わない方が魔力が温存出来ていいと言われるレベルだったな」
「なおさら好都合じゃな。では杖に集まっている魔力を使うイメージで、長時間利用できるイメージを持って保温魔法を使ってみなさい」
マリウスの言葉に頷いたレリアーノは大きく深呼吸をすると、杖の先に集まっている魔力を凝視するようにしながら保温魔法を行使する。
「あ。物凄く暖かくなってきた。ちょ! 暑い! 顔まで火照ってきた」
「そうじゃろうな。これほど魔力が集まっている状態で保温を使ったらそうなるじゃろうな」
全身を覆いつくしているような暖かさをイメージして行使した保温魔法だったが、レリアーノは徐々に身体が耐えられないレベルの暑さになり、その熱気に意識がもうろうとし始めていた。
「これってまずくないか? あまりにも暑くて頭がぼうっとしてきてるんだけど」
「まあ、仕方ないのー。ほれ、これで問題なくなったじゃろ?」
そんな真っ赤なゆでだこ顔になっているレリアーノに、マリウスが軽く腕を振るった。
「あれ? 暑いのが一瞬で落ち着いた?」
「ほっほ。儂がお主のコントロールを奪ったんじゃよ。普通なら出来ん芸当じゃな。戦争では相手の魔法を奪って遊んだもんじゃ。あの時の相手の顔は忘れられんのー」
それまでの暑さが嘘のように消え去り、だが寒さを感じない暖かさを維持している事にレリアーノが驚いていると、マリウスが笑いながら理由を説明してくれた。
「相手にとったら悪夢だったろうな……」
レリアーノは感心したように自分に掛かっている保温を眺めていたが、魔法を知っている者からすればとんでもない事であった。
すでに発動している魔法のコントロールを奪うなどの芸当は世界広しと言えどもマリウスしか出来ず、ルクアが起きていれば、さすがは大賢者と感心しながらも呆れていたであろう。
「ほっほっほ。そんなに褒めるでない。照れるじゃろうが」
この場にはレリアーノしかおらず、またマリウスも当然のようにコントロールしており、人外レベルの事だとツッコみを入れる者は存在せず、レリアーノは凄いことであると感心しかしおらず、マリウスも満更ではない表情を浮かべていた。
「後はお主が魔力量を調整しながら、丁度よい状態を見極めればよい。今のが魔力の収縮じゃな。勘違いするでないぞ。こうやって魔力を集める事が出来るのはお主のスキルがあるおかげじゃ。普通は一定量しか魔力は利用できん。スキルを持っていない者が同じことをすると暴発するでな」
「ぼ、暴発? 俺もこれから気を付けないと暴発とかするの?」
「暴発すると言ったが、おぬしの場合はスキルの影響で暴発するというよりも過剰反応じゃな。さっきの保温も過剰反応しておったじゃろうが」
暴発との単語を聞いて青い顔になったレリアーノに、マリウスが笑いながら訂正したが、すぐに真剣な顔で説明を続ける。
「よいか。暴発や暴走はせんが過剰反応はする。これは覚えておきなさい。なにが違うかと疑問に思っておるじゃろう? 魔法は暴発や暴走すると制御は不可能になる。じゃがお主の場合は緊急の際は強制的に魔力を霧散させることでなかったことにできるじゃろう。これは拡張の応用になるからゆっくりと覚えたらええ。まずは少ない魔力で収縮と拡張を試しながら自分ならではの適正値を見極める事じゃ」
「練習すればスキルを自由に扱えて、魔法も自由自在に使えるようになるんだな!」
「そうじゃ。日々の練習が大事じゃ。仲間を守るためにも、敵を倒すにも、自分が高みに登るにもな」
マリウスの真剣な言葉にレリアーノは大きく頷きながら、今後もスキルと魔法の練習をしっかりとすると伝えた。