プロローグ
新作を始めました。
息子である子うっちー2号の「お父さん。魔法が収縮するやつを書いて」とのリクエストに応えた物語になっております。
轟音と共に衝撃が2人を襲う。砂煙が巻き上がる中、2人の男女が勢いよく飛び出し走り始めた。
「うそだろぉぉぉぉぉ! 危険な魔物は出ないと言ったじゃないかー」
「こういった事があるのが人生。これもまた運命なのね」
「おまっ! さも人生を悟ったような言い方だけど、『この階層に危険な魔物はいないわ。私を信じなさい』と豪語していたじゃん。おい! なによそ見して口笛吹いているんだよ!」
「最初に会ったときに比べたら口が悪くなったわねー。お姉さんは悲しいよ」
「お前のせいだろうがー!」
叫びながら走り続けるの男女。1人は少年であり、皮鎧を着た新人冒険者に見えるレリアーノ。
息を切らせながら悪態を吐いているレリアーノの横で、軽やかに羽が生えたように走る少女ルクア。
2人が必死に走っているのは、背後から迫ってくるゴーレムから逃げるためである。
スピードが遅いため、なんとか逃げ続けられている状況だが、たまに飛んでくる岩石と疲れを知らないゴーレムに追いかけられており、徐々に距離を詰められつつあった。
「さあ、あなたの真の力を披露するときが来たわ! むしろ見せて! そろそろ体力が厳しいの」
「簡単に言うなよ! 覚えたばっかりで物凄く集中力がいるんだからな!」
親指を立てながら爽やかに言ってくるルクアに、思わず叫び返すレリアーノ。
背後から近付いてくる音に深刻な状態だと否応なしに理解させられたレリアーノは、ルクアを睨みながらやけくそになって叫ぶ。
「やってやるぅぅぅぅ。魔力を収縮させる! 『我が手に集まれ雷の力! ライトニングレイン』いっけぇぇぇぇ」
振り向きながら叫んだレリアーノに反応するように、右手に握られていた杖に魔力が集まり、そこから金色の雨が放たれゴーレムに向かって降り注ぎ始める。
2人を追いかけていたゴーレムは3体であったが、その全てに等しく雷の雨が降り注ぎ、まばゆい光が消えると動いているゴーレムは1体もいなかった。
「ふう。やっと休憩ができそうね。出し惜しみせずに使ってくれたらいいのにー」
「おまっ! わざと言っているだろう! この収縮魔法は覚えたてで燃費も物凄く悪いのを知っているだろう。今の一撃で魔力が無くなったから休憩するぞ!」
「まあまあ。無事なら良かったじゃない。さあゴーレムの魔石を回収するとしましょう。ふっふっふ。素晴らしいわ。これは高く売れるわねー。商人である私の勘が激しく報告してくるわ!」
ゴーレムを倒したレリアーノにルクアが笑顔で話し掛けながら、ゴーレムの魔石を回収していた。
そんなルクアの態度にレリアーノは苦笑を浮かべながら、改めて自分が倒したゴーレムを眺める。
昔に比べると格段に能力は上がっており、それまで荷物持ちとしてこき使われていた頃と雲泥の差だと感じていた。
◇□◇□◇□
「お前は首だ」
突然、リーダーのエドガーからの宣告を受けレリアーノは戸惑っていた。
先ほどまで楽しく宴会をしていたのが急に空気が重くなった瞬間、自分を首にすると冷酷な目で告げられていた。
レリアーノは救いを求めるように周囲を眺めたが、ある者は目をそらし、ある者は嘲笑を、ある者は憐憫の表情を浮かべていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。突然首にするなんて言われても困るよ。それに理由もなしに……」
「理由だと? 本当に心当たりがないのか? 接近戦では役に立たない、魔法もしょぼくて使い物にならない。かといって斥候も務められない、出来るのは荷物持ちと料理や洗濯などの雑用ばかり。それなら専門のポーターを雇えばいい」
解雇される心当たりはあったが、なんとか思い直してもらおうとしたレリアーノを遮り、副リーダーであるディートが理由を並べ始めた。
「ぐっ! そ、そうだけど。 でも旅先での料理はみんな美味しいと言って……」
「確かにレリアーノの料理は美味しいけど、ただそれだけなんだよ」「町に戻れば料理屋に行けばいい。クエスト中は飯が不味くても我慢できる」「ごめんね。みんなで話し合った結果なんだよ」「ポーターに転職したら雇ってやるぞ」
「そ、そんな……」
がっくりとうなだれているレリアーノに、今まで仲間だった者達が容赦ない言葉が浴びせられる。
そしてリーダーであるエドガーが無慈悲に無表情のまま、この場から出て行くように伝える。
「まあ、そう言うことだ。ああ、それと宿屋を今日中に引き払ってくれ。荷物は置いていけよ。俺達の共有財産だからな。個人の財布と普段着は持って行っていい。今まで働いていた事にたいする温情だ」
全て伝えたと言わんばかりに、エドガーは視線をレリアーノから外すとエールに手を伸ばし、近くのテーブルで飲んでいた男性を呼び寄せると声を張り上げた。
「新たなるパーティーメンバーにウードを迎えた! 彼は支援魔法の使い手であり、なんとマジックバックの所有者でもある!」
呆然としてるレリアーノを無視する形で新らしいメンバー紹介をするエドガー。
自信満々に登場する男性に、今までパーティーメンバーだった仲間達が大歓声で出迎えた。
「私は強化、回復全般が使え、マジックバックには食料や水も収納できます。先ほどまで居た彼よりも絶対に役に立つでしょう」
レリアーノを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべていたウードは、自信満々に自己紹介を始める。
それを聞いた一同はウードの支援魔法スキルや、持っているマジックバックをどうやって手に入れたかなどを聞きつつ、エール片手に彼の肩を叩きながら、次に受ける依頼の話を笑顔でし始めた。
「もうここには君の居場所は無いよ。酷い言い方だけどね。別の仲間を早く見つけた方がいい。ここにいても辛いだけよ?」
今まで比較的仲が良かったメンバーの1人が憐憫の表情を浮かべていた。そして早くこの場から去った方がいいと話しかけてくる。
「うぇ? ええ?」
「今までありがとう。私は、あなたの作ったご飯は好きだったし、防具の手入れや洗濯をしてくれていたから助かっていたわ。あなたがポーターだったら、もっと長く一緒に居れたかもね。じゃあ私も宴会に戻るから。これからもお互いに頑張ろうね」
一方的に告げられ、去っていく仲間を呆然と眺めていたレリアーノだったが、誰も自分を見ることなく盛り上がっている状況を前に、悔しそうに歯を食いしばりながら酒場から去っていった。