33 切札の代償
「…………ここは……?」
選手控えにある、医務室でヤヨイは横になっていた。
「お、ヤヨイもう目を覚ましたのか」
医務室のベッドで横になってからまだほんの数分たっただけだ。
「ヤヨイ……無事でよかった、あんな無茶な力使ったからもう目を覚まさないかと思った……」
「無茶な力?」
ヤヨイはバーストのことはわかってないだろうが、何かしたのなら俺だと察したのか顔を見てきた。
「……勝ててよかったな……」
バーストのことは言えなかった……
一対一の戦いに水を差してしまった様な気がするし……
バーストはすごい力を発揮するものだった。
ただ、すごい力の反面、反動もかなりのものの様だ。
ヤヨイは目を覚ましたけど、まだ顔色が良くない……
このままじゃ、決勝のディスティーとなんてとてもじゃないけど戦えない。
「ロジカおにぃちゃん、外が何か変だよ……」
フランが医務室に入ってきた。
「あっ、ヤヨイおねぇちゃん、目が覚めたんだね、大丈夫?」
ヤヨイの体力はフランの回復魔法でも治らなかった。
体力とは違う、バーストは精神力だとかそういう部分を消耗させるものみたいだ。
ピンチの時の切札的なものなんだろうけど、こんな危険なものもう二度と使いたくない……
「ロジカさん! 大変です!」
今度はナイナとセリルが部屋に入ってきた。
「どうした? ヤヨイが具合悪いんだ、ちょっと静かにしてやってな」
ナイナとセリルも目を覚ましたヤヨイに気付いた。
「あっ、ヤヨイ!」
ヤヨイはフラつきながらベッドを降りた。
「もう大丈夫だ」
そうは言いつつもヤヨイは、ベットに手をつき一人で立ててない。
「ヤヨイ、まさかこんな状態で決勝に出るつもりじゃないだろうな?」
そう問いかけるとヤヨイは俺を睨んできた。
「私は大丈夫だ、戦える!」
凄んでいるが、声にも力がない……
フランとセリルがヤヨイを支えようと手を差し出した。
「大丈夫だ、一人で歩ける」
フランとセリルの手を払いのけ、医務室を出ていこうとした。
「いい加減にしろ、ヤヨイ!」
医務室の出口付近でヤヨイの足が止まった。
こちらを振り向かないヤヨイの背中に向けて続けて話しかける。
「そんな体調でやれるわけ無いだろ、みんな心配してるんだ、仲間の声も聴いてやるんだ!」
フランとセリルは涙目になっている。
「ロジカさんのいう通りです、来年もあるんだし今年は棄権しましょう」
ナイナも心配そうにヤヨイに話しかけた。
「私は行かなきゃいけないんだ……」
ヤヨイは振り返ることは無かった。
フラつきながら、練劇会の役員に話しかけ、試合場に向かって行ってしまった。
「ロジカさん、なんで無理やりにでも止めてくれないんですか!?」
ナイナが俺の手を掴んで目を赤くしながら訴えてきた。
「「ヤヨイおねぇちゃん……」」
フランとセリルは不安そうに呟いている。
みんなに目を合わすことができなかった……
わかってる、絶対に止めるべきなんだ。
このままじゃ、ヤヨイは……
大歓声が聞こえてきた。
ヤヨイが試合場に入ったか。
俺達は全員で試合場に向かう。
「な、何だこの空は……」
外に出ると昼間なのに、夜のように暗い、雨雲のような雲が出てはいるが、それにしても暗すぎる、異常な雰囲気だ……
「こんな現象いままで経験したことありません、嫌な予感がするんです、試合をしてる場合じゃないんじゃ……」
暗い空を見てナイナが不安がっている。
今度は地響きが鳴りだし、大地がその度に揺れだした。
「えっ……何これ?」
「変だよね、何かおかしいよ……」
フランとセリルもおかしな状況に違和感を感じていた。
ヤヨイの体調とは違う、この城を囲む周囲で何かが起きている……
観客も異常な状況に不安の声が漏れだしている。
そんな中で、ヤヨイと騎士団のエースディスティーは向かい合っている。
ディスティーは観客にも聞こえる大声で話し始めた。
「大剣士練劇会は伝統あるものだ、何が起きようと実施される!」
バカでかい声だ……
間近にいた俺達は思わず耳を塞いだ。
「王を見ろ! この状況に全く動じてないではないか!」
ディスティーの言う通り、王は閲覧席から微動だにせず、試合を観戦している。
ディスティーの声に反応するかのように少しだけ、口角を上げた。
観客のざわつきが次第に収まってきた。
観客を鼓舞するために敢えてこんな大声で話してるのか。
ディスティーはさらに続けた。
「俺は騎士団の代表として、この伝統ある練劇会で優勝し騎士団の歴史に名を刻む! ここにいるすべてのものがその証人だ!」
不安に包まれていた、会場から徐々にディスティーを応援する声が出始める。
空の暗さも変わらない、地響きも鳴り止んでいないのに、いつの間にか、不安の声は無くなりディスティーへの声援一色に変わっていた。
ヤヨイはフラつきは無くなり、ほんの少し回復はしてるようだが、どう見たって万全じゃない。
フランとセリルは祈るようにヤヨイを見つめている。
ナイナは見ていられずに下を向いた。
今更止められない……
頼む、無事に終わってくれ……




