第六話
今回のはちょっと、今までよりも読みづらいかも……、共感させるのってムズカシイ。
今回は、お叱り回です。
次の日、いつものように屋敷へと行くと、カエデ先生が俺を睨みつけてきた。はて?俺、何かしただろうか?
「あんた……昨日、何をした?」
「昨日…ですか?」
「ああ、昨日だ。包み隠さず話しな」
そう言われたので、包み隠さず正直に昨日自分が何をして、何があったのかを話す。
「―――って感じで、急に眠くなったのでいつもより早い時間に……って、先生?」
カエデ先生は、顔に手を当ててため息をつき、何やらあきれている様子。何故だ?
「……あんた、今朝は体に異常はなかったかい?体が痛いとか、だるいとか」
「あー、そういえばそうですねぇ。今朝はなんか、いつもより調子がわるいなとは―――」
「こぉんの、バカもん!!アホ!!ドジ!!マヌケ!!」
「へ!?えっ、ちょ、先生!?なんで怒ってんですか!?あと、アホ・ドジ・マヌケはいいすぎでは……」
「うるさい!口答えするんじゃないよ!それでも足りないくらいさね!」
えぇ…そこまで怒ることなのか?
「そこに座んな」
「え、なんで」
「座んなって聞こえなかったかい?」
「……はい」
それから、ガチのお説教タイムが始まった。何故怒っているのかわからず、困惑してしまうが、言う通りにその場で正座する。正座しろとは言われなかったが、前世で怒られたときなどは基本正座だったので、その癖で正座になった。
「あんた、自分がどんな状態だったのか……理解してんのかい?」
「と、言われましても…何が何だか……」
本当に訳が分からない。いったいなんでそこまで怒っているんだ?
「いいかい?一から説明するからよくお聞き。あんたは、とんでもなく危険な状態だったんだ。それも、命を落としかねないレベルのもんだよ」
「え……そんなに、ですか…?でも、俺は今何とも…」
命を落とす?今は何ともないので正直実感はないが……先生が言うのなら間違いないのだろう。でも、なんでそんな状態に?
「それは、あたしも疑問に思ってるけど、まずは聞きな。あんたは昨日の夜、急に眠くなったんだろう?それは魔力欠乏症と呼ばれるもんで、魔力を使い切ったりすると陥る状態だよ」
あー、そういえば昨日、夢中になりすぎて魔力の残量を考えてなかったな……。
「その状態は、たまに見習いの魔導士なんかが陥ったりするけど、大抵大人になってから経験するもんだから、大した問題はないんだよ。そのころには、ある程度の耐性なんかが身についてるし、体力もあるから気絶程度で済む。でも、子供には耐性も体力もないから、もしそんな状態になったら……」
「な、なったら……?」
ゴクリと、自分の耳に届くくらいの音で生唾を飲み込んで、次の言葉を待つ。正直、良い予感はしない……。
「……よくて、何日間かの昏睡状態、最悪の場合は死ぬ」
それを聞いて、やっぱりと思うと同時に、背中を冷や汗が伝う。
まさかそんなことで、死ぬかもしれない状態に陥っていたとは……。
まったく想像していなかった分、余計に怖くなり、寒気が俺を襲う。
「それと、魔力制御なんかは、本来は少しずつやるもんだよ。体の成長と同じで、急激に成長させると体がもたないからね。子供だと尚更さね。大人でも無理すると体を壊すのに、子供が同じ無茶しようもんなら、増えすぎた魔力を体が抑えきれなくなって、爆発してもおかしくはない」
本当に、やばかったようだ。ただでさえ、魔力欠乏症で死にかけたのに、更に増えすぎた魔力に体が耐えられなくなっていたと。運が悪ければ、今頃、ベットの中で眠っているうちに死んでいたことになる。さすがに洒落にならない。
それから、俺はしばらくの間、正座させられたまま説教されることとなった。その剣幕たるや、エーリッヒ司祭の時とは比べ物にならないものだった。エーリッヒ司祭に対してのあれは、本気ではなかった。むしろ可愛いものだったのだと、自らの肌で体験することとなった。
「―――ってことだよ。これで、あんたがどれだけ危険な状態だったか、わかったかい?」
「……はい」
ようやく、お説教が終わる。そう思っていたが、先生の様子を見た感じ……まだ終わらないらし―――
「……あんた、何を焦ってるんだい?」
「!」
そういわれ、心臓が大きく跳ねる。
確かに、俺は夢中になって訓練してしまったが。それは、ただ、楽しかったからではない。目的を果たすためには、必要なことなのではないのか?と、変に固執した考えが念頭にあって、焦った結果でもあった。
先生に、俺の正体を感づかれるのは避けたかった。転生者である自分は、この世界では異質なはずなので、目立つのは避けたかったのだ。目立たない方が、調べものが進めやすいと言う考えゆえである。
しかし、先生にそのような様子はない。俺が焦っていることに気付いただけで、何故焦っているのかには気づいていないようだ。
「一緒にいた時間はまだ短いけど、ルイン……あんたのことを知るには、あたしにとっちゃ十分な時間さね」
「先生…」
「あたしにとっては、まだ会って間もないただの教え子だけどね、あのエーリッヒの馬鹿や、あんたの周りにいる孤児たちやシスターたち、そいつらにとっては大事な家族なんだよ?そんなあんたのことを大事に思っている奴らが、あんたが死んだらどう思う?」
「あ……」
ようやく俺は、先生が異様なまでに怒っている理由がわかった。純粋に、俺を心配しているのだ。まだ、そんなに親しくもない俺の事を。それは『こどもだから心配』というのもあるのだろう。けど、それ以上に、家族や仲間をないがしろにして、自分を危険な目に遭わせている俺自身を心配し、叱っているのだ。
確かに俺は、自分の事しか考えてなかった。目的に対して邁進し、盲目的になってしまい、周りが見えなくなっていた。
「家族がケガや病気になれば心配するのは当たり前、死んだら悲しむのは当たり前…そうだろう?」
そう言って、優しく俺を抱きしめる先生。先生に抱きしめられ、俺の中に、久しぶりにある感覚が蘇る。暖かくて、やさしい感覚。それは、前世で両親を失ってから、ずっと忘れていたものだった。
「焦るなとは言わないよ。あんたが何かを本気で目指してるってのは、痛いほど伝わったからね。でも、周りの事を忘れるんじゃないよ。あんたのことを心配する人間は、周りを見ればたくさんいるんだから」
久しく忘れていたその感覚を、もし言い表す言葉があるとすれば、それは……家族愛だろうか。ただの愛情というものではない。そのなかでも、家族を愛する感覚というもの、家族を大事にするというもの。それが今、俺の中で復活していた。蓮川に抱くような……それとは別のものだ。
前世では両親が死に、転生してからの本当の親も知らず、孤児として育った俺には、そんなもの綺麗さっぱり忘れさっていた。もう手にすることなどできない。そんなもの、簡単に失うのだと、転生して最初から親がいないと知った時から、すでに諦めていたのだ。
だからだろうか、俺の視界に映る人たちは、みんな灰色に染まっていたのだ。普通に接してはいたが、無意識に一歩引いていたんだと、いまなら自覚できる。
抱きしめられ、俺は母のぬくもりを思い出した。あの時……両親と最後にあったあの日を最後に、すっかり忘れていた。もう手に入ることなどないと思っていた、やさしいぬくもり。
だから……泣いてしまっても仕方ないし……今は思いっきり泣きたい気分だった。
「う…あ」
「よしよし、よく頑張ったねぇ」
その言葉は、俺が、前世で最も聞きたかった言葉だった。昔は、両親がいつも言ってくれて、聞くたびに元気になれる、俺にとっての魔法の言葉だった。
今、それを言うのは……反則ですよ、先生……。
俺の涙腺は完全に崩壊し、まるで堰を切ったように、涙があふれ止まらなかった。
「……コホン…すみません。お見苦しい姿をみせました……」
ひたすら泣いた後、気まずくなりながら先生に謝罪する。うぅ、顔が熱い……赤くなってるのかもしれん……。
「できれば、さっきみた醜態は忘れてくれると……その……」
「それは無理さね。あんな可愛くて子供らしい反応……頼まれたとしても、忘れたりするもんかい」
「いや、本当に忘れてください!恥ずかしいんで!」
「いやだね、もうあたしの記憶に刻まれちまったからね。忘れたくても無理さね」
「あぅ~……」
一歩引く必要がなくなり、遠慮がなくなったせいか、転生してからの俺らしからぬ反応に、顔が熱くなる。
その後も、しばらくこのやり取りは続き、終わるころには、お互い疲れ切っていた。
そして心なしか、先生との距離が、前よりも近くなったような気がする。
お疲れさまでした。正直な話、今回のは、他よりも自信がありません。いや、もともと自信なんて、プロでもないのに持っているわけないのですが。
次回は短めになるかも?
次の投稿も、気長にお待ちください<(_ _)>