第四話
はい!投稿です!……ちかれた、ちょっと休憩します……。
今回は、確実な一歩を踏みだせたことを実感する回です。
エーリッヒ司祭を魔法で吹き飛ばした少女の後を追い、玄関から中に入る。中も、見慣れたもので、基本木造であり、まぎれもなく日本家屋そのものだった。
少女は玄関から入ったすぐそこに立って待っていた。
「ほら、早く入んな。少々手狭で窮屈だけど、我慢しておくれ」
そう言うが、中は言う程狭くはない。外から見ても分かるがそこそこの広さがある。一人で暮らすには少々広いくらいだろう。
少女に促され、靴を脱いで上がると、少女は「ついてきな」と言って先を歩く。近づいてみてわかったが、小柄だと思っていた少女はそこまで小柄ではない。着物の上からでもわかるほど細身な体故に、遠目から見たら背が低く見えたのだ。実際には、150cmくらいだろうか。
少女の後を追って廊下を歩いていると、気になるものが目に映った。
「!」
緑色の髪から飛び出した、ピコピコと動く、長くとがった耳。それはエルフ族特有のもので、こちらの世界に来てから初めて拝むものだった。ファンタジーらしいものは魔法ばかりでちょっと物足りなかったのだが、ここにきて、更にファンタジー色の濃いものを見つけてしまい、ちょっと興奮してきてしまった。住まいが日本家屋で、着ている物が和服であることには、少々違和感を覚えるが。
しばらく歩いていると、少女は立ち止まった。
「茶を用意するから、ここで待ってな」
そう言ってすぐ横にある襖を開ける。中を覗くと、そこは庭を一望できる居間になっていた。床は畳で真ん中には足の短い大きめのテーブルが置かれており、その他にも、何やら高そうな掛け軸や花が活けてある壺などが置かれていた。部屋に入ると、畳の匂いが鼻に入ってくる。久々の畳の匂いに、懐かしさが込み上げてくる。
「悪いけど応接用の客室なんてこの家にはないからね。ここで我慢しておくれ」
そう言い残して、廊下の奥へと姿を消す少女。さっき言ったようにお茶を用意するのだろう。
「さて、あやつの言うとおりにここで待とうかのぅ。いたた…まったく、容赦なく魔法を撃ちおって…。」
「それは、全面的に司祭様が悪いんでしょうに…」
部屋に入ってすぐ、座布団の上に腰を下ろしたエーリッヒ司祭の隣に俺も座る。
「しかしのぅ、顔を合わせるなり何も言わずにあんな威力の魔法を、普通放つものか?」
「…さっきも言いましたけど、司祭様がやったことが原因でしょう?自業自得です」
「まったく、その通りだよ」
声をした方を見ると、お茶を取りに行くと言っていた少女が、いつの間にか戻ってきていた。
「ホレ、粗茶だけど飲んできな。あと、茶菓子もあるからそれも喰いな」
そう言って湯飲みとお茶菓子の乗った皿を、俺と司祭の前に一つずつ置く少女。お茶は緑茶、お茶菓子は見た感じは羊羹だった。
「ありがとうございます。いただきます」
一緒に持ってきてくれたお絞りで手を拭いた後、手を合わせて感謝を述べ、お茶に手を伸ばす。
「…んく、これは……おいしいですね」
「おや、あんた平気なんだね。大抵の奴は渋くて飲めないっていうけど…」
「何言ってるんですか、この渋みがいいんじゃないですか」
田舎の親戚や京都に行った時などに飲み慣れてるし、何よりも個人的には好きなのだ。
羊羹にも手を伸ばし舌鼓をうつ。羊羹の方も、前世で食べたことのある味そのままだった。
隣では、エーリッヒ司祭がちょっと渋い顔をしながら緑茶を飲んでいた。苦手なのか?意外だ。
「…で、あんたらは一体何の用で来たんだい?まさか、本当にあたしに殺されに来たわけじゃないだろうね?」
そう言って睨みつけるのはエーリッヒ司祭。エーリッヒ司祭は睨まれてビクッと反応し委縮してしまう。なるほど、エーリッヒ司祭が妙に恐れていたのは彼女だったのか…まぁ、さっきのやり取りの時点でなんとなく察してはいたが…。
「…まだ根に持っておるのか?いいかげん忘れてくれてもよいと思うんじゃが」
「ほう、あれを忘れろと?随分と生意気なこと言うじゃあないか、うん?」
ヒッ!?なにこの子怖!?顔にめっちゃすごみがあるんだけど!?
「別に良いではないか、小さいんだしこれ以上減るわけでも…」
「あん?」
「なんでもありません!」
速攻で土下座するエーリッヒ司祭。その姿にどこか哀愁を感じるのは気のせいではないと思う。
「さて、この変態はあとで処すとして『いや処すって』あん?『何でもないです!はい!』あんたはこの変態と何しに来たんだい?見たとこ、ただの付き添いってわけでもないんだろう?」
俺に話しかけながらエーリッヒ司祭を黙らせる少女。司祭様…、自業自得とは言え、情けなさすぎる……。
「と、そういえば自己紹介がまだだったね。あたしはカエデ。この屋敷で魔法研究をしているもんだよ」
そういえば、まだ彼女の名前を聞いていなかったことを思い出す。最初のドタバタが衝撃的過ぎてすっかり忘れてた……エーリッヒ司祭が変態なのが悪いんだ、うん、間違いない。
「あんたの名前は、最初に聞いたからいいとして…要件を聞こうかね」
「ええ、実は…」
俺は、自分が読み書きを教わりたいことを話した。因みに隣ではエーリッヒ司祭がいまだに土下座姿勢のままだった。
「……なるほどねぇ」
そう言って腕を組んで思案しだすカエデさん。ダメか…?
「……エーリッヒ」
しばらく思案した後、カエデさんは隣でまだ土下座をしていたエーリッヒ司祭に話しかける。まだ土下座してたのか、この人。
「な、なんじゃ?」
「ちょいと面貸しな」
「わ、わかった…」
俺に「ここで待ってな」というと、カエデさんはエーリッヒ司祭を連れて廊下の方へと行ってしまった。連れて、というよりも引きずってだな。足がしびれて動けなかったエーリッヒ司祭を襟首つかんで引っ張ってたし。
そのまま待つというのも少し暇なので、久しぶりに見る和風の庭を眺めながら茶を啜ってようかな。
「待たせたね……って、あんた…何してんだい?」
「ちょっと、庭を見ていただけですよ~」
そう答えると「そ、そうかい…?」と微妙な答え方をするカエデさん。はて?何かおかしいこと言っただろうか?
「…それよりも」
「あん?なんだい?」
「どうして司祭様がそんなにぐったいしてるんですか?」
俺が指さす先には今にも死にそうなほどげっそりしたエーリッヒ司祭がいた。いや、ほんと…この短時間で一体何が……。
「これはちょっと…ね」
ちょっとって……何があったんだ?いや、何をしたんだ?
「ちょっと…?…まぁいいです。それよりも、いったい何の話をしていたんですか?」
「ああ、これからのあんたの予定について話してたんだよ」
「これからの?……!ってことは…」
「ああ、あたしが読み書き教えてやるよ」
「!…はい、よろしくお願いします!」
「ああ、頑張りな」
そう言って俺の頭を撫でてくるカエデさん。
「……」
「おや、どうしたんだい……ってあんた!?ほんとにどうしたんだい!?」
「え?」
「いや『え?』じゃないよ!なんで泣いてるんだい!?」
泣いてる…?俺が?
目元をこすってみると、生暖かい感触が指に伝わる。離して見てみれば、それは紛れもなく、涙だった。
「どこか痛いのかい!?」
別に体のどこかに痛みなどはなかった。むしろ俺は安心したのだ。覚悟していたとはいえ、断られたらどうしようと、不安で仕方なかったのだ。転生してからというもの、不安ばかりで押しつぶされそうだったから、蓮川のようにいつも支えてくれる存在がいたわけじゃないから、安心して泣いてしまったんだと思う。やっと一歩、確実な一歩を踏み出せたことによる歓喜も含まれていると思う。そんな状態で頭を撫でられたものだから…余計に……。
「う…うぐ……ひっく…」
俺の泣いている姿を見てオロオロしだすカエデさん。気難しい人だと聞いていたが、泣いている俺を見て心配してくれるのだ。優しい人なんだな……。
このまま、俺が泣き止んで大丈夫と言えば一件落着、問題なしなのだが。シリアスな空気などお構いなしの人物がいることを失念していた。
「あー!なーかしたーなーかしたー!せーんせいにいってやろーう!」
ビシッ!
あ、今、空気にひびが入る音が……。
「……エーリッヒ」
「な、なん…ヒッ!?」
カエデさんを見れば、その体からはどす黒いオーラがにじみ出していた。これは…もう助けられないな。擁護できない。本人は、仕返しのつもりだったのだろうが……さすがに空気を読むべきだったろうに……。
魔法を放とうとしているのか、胸の前で両手を構えて集中しだす。すると、風が両手の間に集まり出し、塊となっていく。
「ま、待つんじゃカエデ!話せばわかる!」
「問答無用…」
魔法が完成したのか、風の塊を右手で持つようにして構えるカエデさん。俺は、その場にいるのは危険と判断し、すぐさまその場から離れる。
「あんたは…もっと空気を読みなぁ!」
「アッーーーーーーーー!!」
本日二度目の魔法が放たれる。エーリッヒ司祭は庭へと飛ばされ、屋敷の外壁にめり込んだ。
「そ、それじゃあ、ワシらはこれで失礼するぞ」
腰が本格的にやばいのか、杖を支えに玄関から外へと出るエーリッヒ司祭。その足が震えていたのは、腰の痛みだけが原因ではないだろう。
「…お騒がせしました」
「別にあんたのせいじゃないだろう?」
そうは言うが、とりあえずこの場は謝っておかないといけない気がしたので、謝っておく。ほんと、あの人なんで司祭なんてやってるんだろう……。
「…まぁ、いいさね。それよりも明日の朝早くから教えるんだ。ちゃんと寝て、頭スッキリさせてからきな、もし途中で寝たりしたらすぐに叩き出すからね?」
無論、そんなことする気はない。折角得たチャンスなのだ。逃してたまるものか。
俺は元気よく返事をした後、エーリッヒ司祭を追うため別れをつげ、早々にその場を立ち去る。
……そういえば、ドタバタしてすっかり忘れていたが、カエデさんていくつなんだ?エーリッヒ司祭と随分親しそうだったし……もしかして同い年?…いや、下手したらもっと上の可能性もあるな。だとしたら、あの見た目で相応の年となると……。
「……合法ロ…」
「なんか言おうとしたかい?」
「!…い、いえ!なんでもありません!」
玄関の方から聞こえてくるカエデさんの声。カエデさんは地獄耳だった。小声な上に、そこそこ離れたはずなのに……エルフ族は耳がいいのだろうか?
今後、彼女の前では思ったことを不用意に言わないようにせねばと、心に誓う俺であった。下手したらエーリッヒ司祭の二の前になる……。
お疲れさまでした。今回もちょっと長いうえに、眠い頭で書いたので変な文章などもあったかもしれません。あと、時間を飛ばしたりを意識したせいかなぁ(;'∀')
なるべく早めに投稿していますが、常に長くなる可能性があるので、気長にお待ちいただけると助かります。