五話 第三階層
ギシ・・・・・ギシ・・・・・ギシ
これ怖すぎるだろ!霧で前が見えない上にこの橋、完成してからだいぶ時間が経っているのか今にも足元が落ちそうである。
想像してみよう。目隠しされたまま吊り橋を渡らされてその上不吉な音が足を一歩踏み出す際に毎回響いていたらどんなに怖いことか。
しかもまだ昼飯を食べていないからけっこうお腹減っている。なるべく早くこの橋を渡り切って休憩したい!
走って渡りたいけどいつ足場が無くなるかわからないから今めっちゃゆっくり渡っている。のろのろスピードだ。いつこの橋を渡り切れるのか見当がつかない。全般性不安障害を起こしそうだ。もしかすると・・・・・・なんてことばかり考えているから既に引き起こしている気がするけど。
「・・・・・・・今視線を感じた気がする。・・・・・・気のせいか」
はは、もうお終いかもしれない。さっきから変な視線ばかり感じる。しかも視線を感じた方を向いてもなにもいないんだよ。怖いよ。
沼にいる生き物といえばワニとか。あとは魚もいるだろう。ピラニアとかピラルクー、カンディルなんていたらお終いだよ。こいつら普通に人襲うもん。・・・・・ああ、まただ。また視線を感じた。さっきから似たような視線を受けているんだよな。もしかして追われている?
そう思うといきなり恐ろしさが倍増してつい声を出して走ってしまった。
「うおぉぉぉぉ!!!」
もう足元のことなんて考えていられない。さっきから絶えることなく視線が俺に当てられている。やっぱり追われているのか!
恐怖に囚われながら走り続けているとついに橋の終わりが見えた。やった!ついに渡り切った!
シドは力を振り絞って全力で走る。バキッて音したけど気にしない。
「うお!」
どうやら何かに躓いたらしい。足を取られた俺は顔面から頭を地面にぶつけて橋を渡り切ったのだった。
「ここは・・・・・」
橋を渡り切ったのはいいがここはどこだ?霧が深くてなにも見えない。こんなとき霧払いが使えたらなぁ。・・・え、それは魔法じゃないって・・・・・いいんだよ。たとえばの話だよ・・・たとえばの。
情報を集めるために少し辺りを調べてみる。
「地面は土か。周りには特になにも生えていない」
さらに前に進んでみると沼が見えた。足元に印をつけて岸の周りを歩いてみる。少し歩くと橋の入り口が見えてきた。橋の造りが頑丈にできているからさっきのとは別物だろう。そしてさらに歩くとさっきつけた目印の所まで来てしまった。どうやら俺が今いる所は島になっているらしい。周囲三十メーターぐらいだろうか。けっこう小さい島だ。
一回元の場所にに戻るか。
ピチョン・・・・・・・
ん、なんだ?
ビュッ
い、いて!
な、なんなんだ!頬が切れている。なにかが飛んできたみたいだ。
!!!!またか!
得体のしれないなにかがまた飛んできた。速すぎて目で追えない!黒い残像だけが視界に映る。
そして次の瞬間には皮膚が切り裂かれる。
これはまともに当ったらへたしたら体を貫通するぞ。拙い!ここでは身を隠す場所がない。
ここは島だから全方向から狙われてしまう。もしかして誘い込まれた?さっきからずっと感じていた視線の正体はこいつら?
とにかくこの状態をどうにかしないと。霧が深すぎて前がまったく見えない。
ぐぁ!!!
なにかが足に突き刺さった。ふん!
シドは足に刺さったなにかを思いっきり引き抜いた。
なんだこれは。魚か?
足に突き刺さっていたそれは魚の様な生き物だった。しかし尾びれや腹びれはなく、目も退化してなくなっている。
「鑑定」
種族 ダツダーツ
魔素量 200
称号 殺戮者
ダツダーツ 体は細長く目は退化して無い。弾丸のように目標に突撃し獲物を捕らえる。威力が非常に高くだいたいのものは貫通する。
殺戮者 多くの生き物を殺めた者。
く、どんどん来るぞ!ここはミスリルの長剣を使うか。マジック袋から剣を取出しダツダーツを両断する。
シュッ
両断されたダツダーツはそのまま沼に沈んでいく。
「よっしゃ!まずは一匹・・・・・いった!クソ次から次へと」
ダツダーツの猛攻は続く。三百六十度沼に囲まれているためどこからでも狙い撃ちするように攻撃することが可能なのだ。
ズドドドド!!!
まるでマシンガンの様に飛来してくるダツダーツは容赦なくシドを襲う。
はぁ、はぁ、まだくるのか。もう右手の感覚がない。神経がやられたかもしれない。いや、余計なことは考えるな。目の前の敵に集中しろ!音速を超えるような速度で飛来する敵をなぜ切ることができるのかいささか疑問だがそれでも心を無にして敵を次々両断していく。
・
・・
・・・
少しずつだがダツダーツの猛攻が治まってきたような気がする。あともう少しだ。終わりが見えた!
「うぉぉぉぉ!!!」
最後の力を振り絞って声を張り上げ自らを鼓舞し最後まで剣を振り続ける。
そしてついに最後の一匹を頭から縦に両断しその戦いは終わりを告げた。
「は、ははは、やっと終わった」
力を出し尽くしたシドは全身の力が抜けたように倒れこみそのまま眠りに着くのであった。なおこの時既に橋の周りを覆っていた霧はきれいさっぱり消えていたことをシドは知らない。
目を覚ましたシドは久しぶりの飯の準備をしていた。
「久しぶりの飯だ。しかもダツダーツなんていう魚まで手に入った。前世でも魚大好きだったし、今すごい期待している」
さすがに生では食べない。この前、沼の水を飲んで痛い目にあったばかりだ。普通に焼くことにする。
あとゴブリンの肉も残っているからそれも焼こうと思う。ダツダーツとゴブリンどっちが美味しいのだろう?
どの道焼くことになるからまずは火種から用意しなくちゃ。
そこら辺に転がっているダツダーツを集めてくると全部で二百匹以上になることがわかった。
俺一体どれだけ倒したんだろうか・・・・・・・
「やっぱり、魚は塩焼きがいいよな。塩が無いのが腹ただしい」
なにもつけずに焼くことに憤りを感じますよ、ええ。とは言えどもこの世界で初めての魚料理?すごく楽しみだ。やっと魚にありつける。
いただきまーす!
パリッ ・・・・・美味しい!!!
魚は全然臭みがないし、なんせ身に含まれる油の量がすごい。しかも油自体は全然しつこくない。けっこう強火で焼いたから皮がいい感じで焼けていてそれもまた良い。正直秋刀魚より美味しいと思う。
これは儲けもんだ。まだ三匹しか食べてないから魚自体はほとんど残っている。
いやー、見直したぞ、ダツダーツ。
食事を終えたシドは次の階層へ進むためまた橋を渡っていた。ダツダーツの大群に勝利したことからだいぶ油断していたのだろう。しまいには歌まで歌いだしてしまった。
「るーるる、るるーるる、るるるーるーるーる・・ドカァン!・・・・」
・・・・・・今なにかすごい音しなかったか・・・・・・・・
ゆっくり後ろを振り返ってみるとさっき渡っていたはずの橋が数メートルーに亘って跡形もなく吹き飛んでいたのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・まじで。
この後シドは新たな問題に直面することになる。