四話 第二階層守護者 そして次の階層へ
四話と五話をくっつけました。
毎回五千文字を目指します。
こいつはヤバイ。
魔素量が半端ない。ゴブ神より強いとは思っていたけどさすがにこれは・・・・・・
しかもよく見たら角が二本ほど多い。いうならコーカサスオオカブトみたいなかんじ。そういえば前世でもカブトムシは虫の世界で最強だった気がする。こちらの世界でも最強だったと・・・・どの世界でもカブトムシは最強なんですかね?
「ん?羽を広げた?」
カブトム神は羽を広げて空中へ飛ぶ。そしてそのままこちらに勢いをつけて突進してきた。
「まじかよ!」
シドは咄嗟に身を伏せる。
・・・・・・・・危なかった。あと少し遅れていたら角に串刺しにされるか、または足の爪で引き裂かれていた。カブトムシの爪は特に危険だ。爪はけっこう鋭いし刺さったらなかなか抜けないし。まぁこいつの爪は刺さるじゃなくて引き裂かれるだけどね!
カブトム神はすぐに方向転換をしてまた突進してくる。図体でかいくせにやたらと速くてしかも小回りがきく。突進してから次の突進まで五秒掛かっていない。避けるのだけで精いっぱいだ。
相手から繰り出される突進をひたすら回避し続けていると急に相手の動きが止まった。
「なにかしてくるのか」
シドはカブトム神の様子を注視しつつ次来るであろう攻撃に備える。すると周囲からカブトム神の三本の角の先に光の粒子が集まりだす。集まった粒子は徐々に収束しやがて光の玉となる。
キィィィィン
なにかが響く音がする。
そしてそれは放たれた。集まった光はレーザーのように細くそして鋭く放たれる。そしてそれは音もなく地面を切り裂いていていく。俺は紙一重出躱した。しかし意識して躱したわけではない。なんかいやな感じがして頭を傾けただけだった。そしたらそこにレーザーが通ったのであってあのままだったら今頃レーザーに脳天を打ち抜かれていただろう。レーザーはそのまま地面を切り裂いていき後ろを振り返ると視界の先まで黒い線が三本はしっていた。改めてさっきのレーザーの威力の強さを痛感する。
カブトム神はレーザーを避けられたのが予想外らしく少し驚いているようにみえた。俺への認識を変えたのかより高く飛行して警戒を強めたように感じた。
うーん・・どうしたもんかなぁ。さっきの攻撃を最後に全然攻撃してこなくなったなぁ。もしかして怖気づいたのか?ならそのまま逃げてくれると助かるんだけど。あっ、でも次に進むにはこいつを倒さなきゃいけないのか。だったら逃げてもらっちゃ困るな。たぶん逃げないと思うけど。
予想はずばり的中した。カブトム神はまた突進してくる。しかもさっきの二倍の速さで。正直目で追いつくのもつらいレベルだ。なんか残像が見える。
なんとかしなくちゃいけないな。このままだといつか対応しきれなくてあの角に串刺しになって死ぬぞ。どうする・・・・・やっぱりどっかの時点で攻勢に転じなければ。虫のほとんどは体が固い外骨格で覆われていて、中は意外と軟らかい場合が多い。つまりそこが弱点だ。確かあの固い羽の裏側に外骨格で覆われていないところがあるはず。そこを攻撃すればいい。
どうやってそこを攻撃すればいいんだ?羽を広げているということはそのときカブトム神は飛んでいるわけでそこをピンポイントで攻撃するのは難しい。極限まで近づいて攻撃するのが望ましいな。どうするか・・・・・なんか紐みたいなもので近づけないかな。あいつの足に紐を括り付けて接近し、極限まで近づいたところで攻撃をしかける。幸い羽の裏側にある軟らかい部分には気門という器官があってそこから呼吸をしているからそこを傷つければ呼吸できなくなっていずれ窒息するだろう。
ということで紐が必要になった訳だけど、これ・・・・さっき取ってきた蔓でいいかね?なんかこう命が懸かっているときに蔓で挑むとかけっこうふざけていると思うよ、我ながら。まぁこの作戦?も大概だけど。さて行動開始しますか。
「さぁ、こい!」
カブトム神は一直線に向かって来る。注意すべきなのは頭にある三本の角と六本の足についている爪だ。どうにかしてそれらをぎりぎりで避けなければならない。
シドは高速で接近してくるカブトム神の突進を紙一重で躱す。爪がかすったみたいだ。数本の髪が宙を舞った。うお!あぶね。そして俺は手に持った蔓を奴の足に向かって投げつけた。この蔓は伸縮性があって意外と巻き付き易い。足に巻き付いた蔓によって俺の体は宙に投げ出される。けっこうな衝撃が俺を襲った。痛い!
「くそ、蔓にぶら下がっているだけで体に掛かる風圧がすごい」
カブトム神までの距離は約二メートル。体に掛かる強烈な風圧に耐えながら少しずつカブトム神に近づいていく。そしてついに目的のところにたどり着いた。今俺はちょうどカブトム神・・・なんか言うの疲れたからカブトでいいや・・・だからまぁそのカブトの足にしがみ付いている状態だ。なかなかシュールな感じだな、うん。こんな状態になってもカブトは俺に気付かない。これで気付かないとかどんだけ鈍感なんなんだよ!
足をよじ登ってついに軟らかい部分にたどり着いた。ふぅ緊張するな。一歩でも間違えたら振り落とされる。ここから先は慎重にやらなければ。気門は左右にある。片方を先に傷つけると生じる痛みで俺の存在がカブトにばれて振り落とされてしまう。左右同時に攻撃する必要がある。そして今回使う武器はこの前手に入れたミスリルの短剣。これで突き刺すんじゃなくて引き裂かなくちゃいけない。理由は気門を全て破壊しなきゃいけないからだ。
しかしここで問題がある。どう考えても俺の身長じゃ左右にある気門に手がとどかないのだ。これでは左右同時に攻撃ができない。つまり片方ずつしか攻撃ができないということだ。
・・・・・さあどうする。右か左か。やっぱり左だ。今蔓はちょうど左側の足に巻き付いている。左側の気門を傷つけた場合いカブトはきっと左側に傾く。そしたら万が一振り落とされても蔓に掴むことがでこる。
シドは左側の気門に短剣を突きつける。
・・・・・よしいくぞ!
「オラァァ!!!」
そのまま一気に横に引き裂いた。よしこれで左側の気門は全て破壊した。いきなり襲った激痛に驚いたのかカブトが呻き声をあげた。・・・・カブトって声だせたんだ。少し驚きつつ右側に急いで移る。幸いにも意外と左側に傾いていなかったため右側に移ることができたのだ。ラッキー!このまま一気にきめるぞ!そして右側の気門も一気に全て破壊する。
ここで少し想定外の事態が発生した。なんとカブトはどちらにも傾かなかったのだ。痛みに強いのかカブト・・・・・なんとかして地面に降りてもらわなければ。やけくそでカブトの弱点羽の下の軟らかい部分をミスリルナイフで切って切って切りまくる。
これでどうだぁぁぁ!!
最後のダメ押しで縦に大きく一閃する。さすがに堪えたのかカブトはいきなり激しく暴れ始めた。
シドはさすがに耐えきれず宙に投げ出された。
ヤバイ!なんとかしなくちゃ死ぬ。
運のいいことに目の前に蔓が迫ってきた。俺はなんとか蔓を掴み取った。危なかった。あと数センチずれていたら掴み損ねていた。カブトは痛みに耐えかねたのか狂ったように飛び回っている。蔓で間接的に繋がっているため俺は今大変なことになっている。ついでに言うと現在俺の視界は絶賛乱回転中でどっちが空でどっちが地面なのかわからない。カオスである。
散々ぶん回された後は今度は急落下である。うん、富士急も真っ青のジェットコースターだ。このままいけば必ず死ねる。だけどまだ死にたくない。早く家に帰るんだ!
そんなことをしていると既に目の前に地面が迫っていた。俺は衝撃から身を守るために背中を丸めて顎を引いて頭を守る。こんなことで前世で習った柔道が役立つとは思わなかった。
「ぐはぁ!」
体に強い衝撃を感じた。意識が飛びそうになったがなんとか耐えた。
ドコォォォォン!
カブトもものすごい音を立てて地面に突っ込んだ。生じた衝撃によって大量の土煙が舞う。
もしかして今ので死んだ?俺はカブトが突っ込んだところを注視する。すると光の粒が土煙の中へ集まっていく。もしかしてあのレーザーか!あれを今やられたら拙い!
土煙が晴れる頃にはカブトの三本の角には前のと比べ物にならないほど巨大な光が集まっていた。だがカブトもだいぶ辛そうだ。おそらくこれがカブト最後の攻撃になるだろう。
巨大に膨れ上がった光の玉はさらに明るさが増し辺り一面を照らし出す。そしてついに最後の攻撃が放たれた。視界が光で満たされる。
ドガァァァァァン!!!
そして辺りに爆音が響きわたった。
キーーーーーーン
クソ、耳がやられたな。体も動かない。爆風をもろに受けたからか。痛い!全身が痛い!
痛すぎて意識が飛びそうだ。ああ、意識を手放してしまいたい。
いやだめだ!ここで意識を手放したら二度と戻ってこれない気がする。
早くなんとかしないと。
シドはこの前手に入れたハイパーポーションを飲んだ。
マズイ!マズイけど飲めなくはない。
そしてハイパーポーションを飲み干した。体がみるみる回復していき全身の痛みが引いていくように感じる。
耳も聞こえるようになってきた。視界も回復した。
しかし戦いによる疲れまでは回復しなかったようだ。
疲れを体に限界までためた俺はそのまま意識を闇に落としていった。
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・ん?
寝ていたのか?
目の前には既に死んでいるカブトの肉体が無残にもばらばらになって散乱していた。きっと最後の攻撃の反動に耐えきれなかったのだろう。
周りには若干焦げ臭い臭いが漂っている。一度周りを見渡してみる。
ちょうど俺から南の方向三百メーターのところに半径百メーターのクレーターができていた。
カブト最後の攻撃によってできたものだろう。
ここからこんだけ距離が離れているのにこの威力。もう少し近くに落ちていたらきっと俺は跡形もなく消滅していただろう。
それからしばらくして目の前にまたあの扉が現れた。ボスを倒すことによって現れる扉だ。
やっと次の階層へ進める。次はどんなボスなんだろうか。
シドはそんなことを考えつつ扉を通った。
いつもの空間に出た。
<ピコーン>
この前と違う電子音がながれた。空間と空間を繋ぐという役割は同じでも多少違うところがあるのかもしれない。
目の前に宝箱が現れた。この前より大きい気がする。なんか期待してしまう。
シドは期待に胸を膨らませつつ宝箱を開けた。
長剣とこれは槍か?あと液体が入った小瓶が二つ。
「よし!鑑定」
ミスリルの剣
種類 長剣
性能 ミスリルナイフと切れ味はさほど変わらない。刃渡りが長くなったためリーチの範囲が広くなりより広範囲を攻めることができる。
ミスリルナイフより出回る数が少なくより価値が高い。
ミスリルの槍
種類 小型
性能 ミスリルでできた槍非常に切れ味がよく、柄が短いためどちらかというと投射にむいている。
グレードポーション
種類 小瓶
性能 ハイパーポーションより一つ上のランクのポーション。
どんな状態でも完全回復できる。ただしそれ相応のまずさである。滅多なこと以外では飲むことをお勧めできない。
グレードポーションは飲むの控えた方がいいかな?ハイパーポーションよりまずいと逆にまずさで気を失うかもしれない。
まぁとにかく収納収納。
「今回も扉は一つか」
今回も扉は一つ。なんで最初だけ扉が三つもあったんだろう?
何かしらの理由が・・・・・
考えてもしょうがないか。
「そういえばなんか迷宮に入るときに比べて力が強くなったような・・・・・・きのせいか?」
シドは扉を潜った。
そこは巨大な沼だった。茶色く濁った水があたり一面を覆い尽くしている。
「沼かぁ・・・・・どうやって前に進めばいいんだ?」
あたり一面は沼で沼の向こう側に渡れるような橋はどこにも見つからない。
「とにかくなにか渡れるものを探さないと」
あ、あった!はるか向こう側だけど確かに橋が架かっている!
あれからだいぶ歩いた。歩いている途中やっぱり歩く方向間違えたと思って戻ろうとした時もあったけど諦めずにここまで来てよかった。
橋の目の前まで来たシドはある異変に気付く。
「あれ?なんか橋の方に霧がかかり始めていないか?」
天気は快晴で雲一つ無いのに(迷宮の中だけど)橋にだけ霧がかかっているなんて不自然すぎるだろ。
「橋を渡る前に休憩するか」
手持ちの食糧は干し肉とゴブリンの肉か・・・・ゴブリンの肉を食べますかね。
また火種から作らなきゃいけないから面倒だ。改めて魔法が使えないのが悔やまれる。
俺思ったんだけど魔法が使えないやつって外で迫害とかされていないよな。
小説だと魔法が使えるやつが優遇されるか、魔法を使えないやつが冷遇されるかのどちらかなんだよね。
なるべく後者はやめてほしい。
それはともかく今重大な問題がある。そう、飲み水がないのだ。頼りの木の実は既に尽きてしまった。残るは肉だけ。
しかし肉では喉は潤わない。これは由々しき事態だ。水が欲しい。水・・・・・・・水?
ジーーー(沼を見つめている)
沼の水は飲めるかな?このチョコレートみたいな色の水。いやもはやチョコレートとして飲めないかな?
ほら、だんだんチョコレートに見えてきた。いただきまーす!
ん?ほのかに甘いぞ。これはもしかして本当に・・・・・・・・・
さて皆さん、俺の腹ではいまある異変が起きている。ええ、そう、そうですよ、おもいっきり腹をくだしましたとも。
グルグル腹の音がなっている。痛い!痛い!痛い!
ふう、やっと治まった。さて行動開始しますか。腹くだしたせいでゴブリンの肉を焼く時間が無くなってしまった。
まぁ自業自得だししょうがない。早くこの階層から抜け出そう。
そうしてシドは橋を渡り始めたのだった。
またそのとき水面から不気味な視線がシドに当てられていたことをこのときシドは知る由もなかった。