三話 第二階層
扉を通るとまた宝箱が出現した。<テッテレー>と機械的な音が頭の中でなる。
いつ聞いても慣れないな。空間を抜けたら毎回こんなイベントがあるのか?すごいサービス精神だ。とにかく開けて中身を確認するか。
中には二つのナイフと瓶に入った液体があった。
「鑑定」
ミスリルナイフ
種類 小型
性能 軽さと切れ味に特化した特異ナイフ。重さは鉄の五分の一、切れ味は十倍にも及ぶ。
ミスリル自体が非常に貴重なため市場に出回ることは滅多にない。
ハイパーポーション
種類 小瓶
性能 ポーションでも上級の物。普通のポーションの三十倍の効力があるため瀕死状態でも回復可能。
しかしポーションの特性上効力が向上するとその分味が酷くなるため中には死んだ方がましと
いう人もいる。
よっしゃ!チートアイテム二つゲットだぜ!いやー俺ナイフ一本も持ってこなかったからすごく助かる。
ありがたや。そしてこのポーション。これがあるとすごく安心できる。味はまぁ・・・なんとかなるでしょ。
シドはナイフとポーションをマジック袋に収納する。
うんまだまだ容量に余裕があるな。この袋どのくらいの容量があるのだろう?ドラゴンとか入ったりするのかな?まぁドラゴンは入れることもないか。
アイテムを全て収納すると宝箱は溶けるように消えていった。
シドはそのまま目の前の扉にはいる。今回は一つしか扉がない。扉を抜けると今度は森が広がっていた。
青々としたまるで夏を連想させるような緑が視界いっぱいにに広がっている。見ていてとっても気持ちい。
おっ!木の根元になんかいる。蝸牛だ。小さくてかわいいなぁ。木の根元にいた蝸牛は上に上り木の中間
あたりまで来ると食事を始めた。・・・・・・・けっこう食うな。蝸牛はむしゃむしゃ木の幹を食べ始める。三十秒ほどで幹の半分ほどを喰らい上部の重さに耐えきれなくなった木はそのまま圧し折れた。
・・・・・・見た目によらず怖い性格してんのな・・・・
蝸牛は圧し折れた木を今度は中身から食っていく。見るに堪えなくなった俺は急いでその場を後にした。
それからもいろいろな生物にであった。五メーターはあるカブトムシや三メーター級のテントウムシそして巨大なフンコロガシ(けっこう臭かった)、得体のしれない物を丸めている巨大蜘蛛。全部虫だ。虫嫌いな人にとってみれば地獄だがどれも俺を襲ってくるやつはいなかった。意外と気の優しいやつが多いのかもしれない。俺はそのまま森を抜けて草原にでた。
俺はここでふと考える。そういえばここは地中だよなと。だけどここは地上のように明るい。一体どんな仕掛けになっているのだろう。模擬太陽?すごいな。
そういえばさ、俺なんで鑑定なんていうスキルを使えてんの?もしかして才能とか?でも迷宮に入るまで
鑑定なんて使えなかったしな。やっぱり迷宮に入ったことと関係があるのかな。
それはともかく飯だ!
お腹へった。迷宮に入ってからまだ何も口に入れていない。えっと・・・・干し肉と木の実が少々か。この木の実はさっきの森でとったものだ。けっこう沢山あったから食糧に困ったらまたあそこに行くのがいいな。木の実は水分補給にもなる。干し肉は今消費したくないんだよな。一番日持ちするし腐りにくい。
となると残るはゴブリンの肉か。・・・・・・これは食べたくないな。なんか臭そう。でも現状これしか
食べるものがない。木の実は後でとっておきたい。食後のデザートとして。でもさ俺思ったんだよ。意外とゴブリンの肉いけんじゃねって。見た目は確かにあまりよろしくないけどさ、でもこういうゲテモノって意外とおいしんだよね。見た目で判断するのはよくない。食わず嫌いはノーだ。見た目で判断していいのはキノコと魚だけだ。他はきっと大丈夫。ってことで今回のメインはゴブリンの肉!調理法は至って簡単。焼くだけだ。生はさすがにヤバイ。火は通さなければ。さて俺は今とっても大切なことを忘れている。そう・・・・火がない!火がなければ焼くことができない。火を起こさなければ。こんな時魔法が使えればな。きっと誰もがそう思うだろう。だが俺は魔法が使えない。ということで原始的な方法でいくとする。摩擦熱を利用するのだ。えっと必要なのは木の棒、木の板、綿みたいな燃えやすいもの、そして紐だ。ほんとは紐がなくても火は起こせるが非常に効率が悪い。だから紐を使う。棒の両端に紐を結んで真ん中に棒を挟んで紐でひとくくりにする。こうすることで運動が効率よく回転運動に変わる。
さて、材料を調達しますか。
「よし、集めたい材料はこれで全部か」
木の板と棒はすぐ見つかったけど綿と紐がなかなか見つからなかった。綿については森に生えていた綿花を使って、紐に関しては木に巻き付いていた蔓を利用した。蔓って意外と頑丈だから摩擦にも耐えられると思う。たぶん。じゃぁ火をつけますか。木の板に棒を突き立てて蔓を取り付けた棒を左右に動かす。この時板に突き立てた棒は動かしてはいけない。生じた熱が分散してしまうからだ。
やっぱこの作業はきついわ。小学生の頃に一度やったことがあるけど全然成功しなかったし。今回も成功するかわからない。まぁとにかくやってみよう。
全然つかない。さっきからずっと手を動かしているけどまったく火がつかないのだ。せめて煙さえ出せればその後は楽なのにそこまでいくのがとても難しい。手が疲れてきた。早くしないと俺の手がもたない。
クソ、ウォォォ・・・・・・・
全力で火起こしを始めるとなんだか煙臭いにおいが鼻をついた。よっしゃ!煙だ。ここまできたらこっちのもんだ。煙を出している火種を綿花で包みぶん回す。これによって火種に酸素を送り綿花に燃え移り易くするのだ。火種はすぐに綿花に燃え移り一つの炎となる。あ、熱い!。俺はすぐにその炎を近くの薪に投げ入れる。
しまった!さすがに薪に点火させるには火力が足りないか。すぐに近くから小枝を拾ってきて薪の下にさしこむ。よかった。まだ火は消えていないみたいだ。小枝に燃え移った火は薪に燃え移りより大きくそして安定した火になった。火を起こすってこんなに大変なんだな。改めてしみじみとと思った。
よし、ゴブリンを焼くぞ!塩も故障もなんもないけどしょがない。 ガブッ
・・・・・・味がしない。無味無臭だ。美味しくもなく、まずくもなくってかんじか。とはいっても貴重なタンパク源。残さず食べなければ。そうして迷宮での初めての食事が終わった。
・・・・・・・ん?寝てたのか。
ゴブリンの肉を食べて眠くなったのか?まぁいいや。今はこれからについて考えよう。まだこの空間に入って一度も戦闘が起きていない。だけどこの前のようにボスキャラがいて、それが次の空間への鍵となるのなら必ずそいつと戦うことになる。ボスなんだからさっき会った虫達より高位なやつなんだろう。そしてきっとこの前のゴブ神より強いはずだ。迷宮なら奥に行けばそれだけ魔獣のレベルは上がるはず。
・・・・・正直言ってけっこう不安だったりする。いやだって最初のボスであんな苦戦したのに次のやつとかどうなるかわからんもん。ゴブ神はゴブリンの神だったから次は虫の神かな?けっこう強そうじゃん。なんかすごい嫌な予感がする。いや、虫って最強だから。身体能力半端ないやつらばっかりだから。
でも倒さないと先進めないし。来た道戻っても迷宮から出られないし。そういえば迷宮に入ったらどうなるかとか何も考えていなかった。ここまで来て引き返すのもなんかかっこ悪いし・・・・・・・よし!このまま進んでさっさとこの迷宮から脱出しよう。まずは次のボスを撃破しなくちゃだな。
「森があった方角が俺から見て北だから南の方角に進めばいいのか?南なんもないけど・・・・・・
こうしてシドは南へ進んでいく。大きな不安を持って。
うーん、なにもいないぞ。歩いても歩いても草原しかない。進む方角間違えたかな?でもここから戻ると方向を見失ってさらに危険か。このまま進むしかないな。幸いにもここの空間は模擬太陽のおかげで一日中ずっと昼だ。一日中ずっと行動できるのは嬉しい。
そう思いつつ進んでいくと見渡す限り草原だったはずがある一線で途切れているのだ。
どう見ても不自然だろ。草原がいきなり途切れるなんて。それに遠くてよく見えないけど地面が盛り上がって丘の様になっているところに大きな円が描かれている。あの円の中に入れば何か起きるって暗に言っているようなもんだ。ボス降臨かな。それでも行くしかない!
俺は大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着かせ丘に向かって歩き始めた。だめだ、超緊張する。心臓の鼓動が丘に近ずくにつれて速くなっていくのを感じる。そしてついに丘に描かれた円の前にたどりついた。
「一歩でも踏み出したらもう戻れない気がする。でもここまで来たんだ。ここで戻れるかよ」
そしてついに円の内側に足を踏み出した。しかし特に何も起きない。
「な、なんだ。何も起きないじゃないか。はは、し、心配させやがって」
シドはそのまま通り過ぎようともう一歩足を踏み出した。すると遠くでなにかの気配を感じた。そしてその気配はどんどん大きくなる。なにかが高速でこちらに向かってきているようだ。すると視界に小さな黒い点が映りこんだ。
「なんだ?なんかこっちに来る?」
その黒い点はみるみる大きくなりやがてそれが黒い物体だと認識できるようになる。そしてついにその正体が明らかになる。
それは円の中に降り立った。
「マジかよ・・・・こいつか」
シドは鑑定を使う。
「鑑定」
種族 カブトム神
魔素量 100000
称号 第二階層を守り者
虫の神
称号を鑑定してみる。
第二階層を守り者 迷宮第二階層を守護する者。未だ嘗て誰もこれに勝った者はいない。
虫の神 ありとあらゆる虫を纏めし者
それは巨大なカブトムシであった。