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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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無貌の最後

「こいつは俺がぶった切る!」


 その言葉に反応したのはエレオノールだった。部屋中に響き渡る大笑いを口から吐き出す。


「調子に乗ってくれるわね? わたし将軍級よ? いくら勇者でもひとりで勝てるとか舐めすぎじゃない?」

「俺を舐めてるのはお前だよ。いいからかかってこい」

「じゃ、お言葉に甘えてぇ!」


 ノーマンに飛びかかるエレオノール。あらゆるものを引き裂くその右手がノーマンへと襲いかかる。


 ノーマンは――動かない。

 ノーマンとエレオノールが交錯、すり抜けた。

 すり抜けた?

 それはとても不思議な光景だった。エレオノールは右手で攻撃を行い、ノーマンは動かないまま。

 すり抜けるはずがないのだ。


 だが、それは起こった。

 タネを明かせば答えは簡単。


「え?」


 エレオノールは見た。床に転がる自分の右腕を。

 ノーマンがすれ違いざまに神速の一撃で切断したのだ。したのだ、と言い切ったが、ぶっちゃけよくわからない。わたしにも太刀筋が見えなかったのだから。

 切断された右腕がぶあっと黒い塵となって砕け散った。

 それを見たノーマンが口を開く。


「完全に魔族の身体なんだな。本当にリサさんに戻すことはできないんだな。確認できてよかったよ」


 ちらりとノーマンが背後のエレオノールに視線を送る。


「魔族が相手だったら遠慮はいらないな」

「き、貴様……!」


 怒りに震えるエレオノールが振り返る。振り返りざまに残った左手でノーマンを攻撃する。

 だが――やはりノーマンのほうが圧倒的に速い。

 同時に振り返ったノーマンはエレオノールの攻撃を紙一重でかわし、一撃でエレオノールを叩っ斬った。

 そして、激情を吐き出すように叫ぶ。


「人の身体も! 人の心も! もてあそぶもんじゃない!」

「ぐおおおおあああ……?」


 悲鳴をこぼしながらエレオノールが苦悶の表情を浮かべる。

 その身体がぴしりぴしりとひび割れ、少しずつ黒い塵へと変わっていった。

 終わったのだ。

 今まさにエレオノールの生命力が尽きようとしている。


「くっはっはっはっは……まさか、これほどとは……これほど強いとは……! このエレオノールが足下に及ばないなんて!」


 エレオノールは身体をぼろぼろと崩しながら、前に立つノーマンへと身を預ける。

 エレオノールはひび割れた顔でノーマンを見上げた。

 そして、甘えた声でこう言う。


「ごめんなさい、ノーマン。ひどいことばかり言って。でもね、あなたが好きだったってのはまるっきり嘘でもないの」


 エレオノールが苦しくあえぎながら言葉を絞り出していく。


「わたし強い人が好き。これは本当。わたしを殺してくれる人があなたでよかった」


 ぽろりぽろりとエレオノールの頬の肉が塵となって落ちていく。

 もう、時間はない。

 エレオノールはじっとノーマンの顔を見つめ、言った。


「ねえ、お願い。最後にキスしてくれない?」


 その言葉を聞き――

 ノーマンの顔に逡巡しゅんじゅんの表情が浮かぶ。

 って、おいおい!

 悩んでるのかよ!

 ノーマンくんお人好しだからなあ……。演技とはいえ一度は仲がよくなった関係ではあるからなあ……。


「俺と、キス……?」


 エレオノールが苦しげな表情でほほ笑んだ。


「……早く……わたしが……消えてしまう前に……」


 もうエレオノールの身体は半分以上が塵となって消えていた。

 続いた言葉は――


「ぐう……!?」


 エレオノールの呻き声だった。

 ノーマンがエレオノールをデュランダルで刺し貫いたのだ。


「俺のキスなんて安いものだから……別にいいかとも思ったけどさ。あんたとキスするのを思い浮かべると――」


 こんこんとノーマンが自分の頭をつついた。


「頭のなかの小サーシャが悲しい顔するんだよ」


 くくく、とエレオノールが力なく笑った。


「……いい勘してるわね……」


 それがエレオノールの最後の言葉だった。

 エレオノールの身体は塵となり、完全に消え去った。

 魔王の誇る最精鋭。人類を追い詰める悪鬼のひとり。

 将軍級の魔族が今――滅びた。


「やったのか……マジで将軍級を倒したのか……」


 ヴィーガスさんがつぶやく。その声には嬉しさと信じられなさが半分ずつ詰まっていた。


「ほっほっほっほっほ。もう人間のレベルではないのう」

「すごいです! ノーマンさん!」

「あいつなら本当に魔王を倒してしまうかもしれんな……!」


 一同の目がその偉業を成し遂げた勇者へと向けられる。

 当の本人は疲れたような顔で所在なげに立っている。

 わたしはノーマンに近づき、ぽんと腰に手を当てた。


「お疲れさん、ノーマン」

「……ん、ああ」


 ノーマンの返事は冴えない。

 負傷はさっき触れた瞬間にわたしの魔法で回復したんだけどね。晴れない気持ちまでは回復しないか。


「サーシャ、ごめんな。すぐ反応できなくて」

「いーのいーの。あんたの性格はわかってるから」


 ぽんぽんとノーマンの腰を叩く。


「ま、リサっていうかエレオノールっていうか――あいつのことは忘れなさい。それが一番いいから」

「そうだな……」


 だが、ノーマンは首を振った。


「いや、忘れないでおくよ。もう俺が会ったときはリサさんはリサさんじゃなかったけど――そういう子がいたってのは覚えておきたい」

「そっか」


 わたしはそう言ってから、こう続けた。


「その決断――あなたの頭のなかの小サーシャはなんて言ってる?」

「いいんじゃない、ってさ」

「再現率高いわね。わたしも一緒。いいんじゃない?」


 わたしとノーマンは視線を交わし、笑った。


「サーシャはえらいな。いつも迷わない、正しい」

「いやー、どうかな……」


 わたしだって迷いまくりまくりですよ。

 あなたとの恋とかね?


「でも、ノーマンよりは迷わないし正しいかもね?」

「ああ、そうに違いない」

「疲れたり迷ったりしたらわたしに頼りなさい。勇者を導くのも聖女の――」


 いや、違うな。

 わたしは首を振った。


「あんたを導くのがわたしの役目。孤児院の頃からそうだったでしょ?」

「ああ、頼りにしてるぜ、相棒」


 ノーマンが笑い、わたしの肩をぽんと叩く。

 そんな感じで――

 グレイノールでの長い冒険は幕を閉じたのだった。


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