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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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勇者の激怒

 エレオノールはとてつもなく強かった。

 剣の達人である風の騎士ヴィーガスさん、そして、風の騎士に匹敵するレベルのクリスさん。この二人が同時にかかってもエレオノールの相手には荷が重い。

 わたしが防御と回復魔法をフル回転させていなければ、いかにこの二人であっても早々にリタイアしていただろう。

 わたしのサポート込みとはいえ、二人はへこたれず充分に壁の役割を果たしてくれている。


 アタッカーはマリクとギルドマスターのダブル魔術師だ。

 エレオノールを狙い撃つように華やかな爆撃魔法が次々と空間を彩っていく。

 だが、エレオノールの動きも尋常ではない。

 ヴィーガスさんたちを相手にしながら放たれる魔法を華麗に回避していく。回避しきれない攻撃は魔法のシールドを張り、ダメージを軽減する。


 さっきは油断しまくりのところを不意打ちできたので直撃になったが、真正面から警戒されるとそう簡単には崩せない。

 わたしたちの攻撃は、マリクの魔法がなんとかエレオノールにちびちびとダメージを与えるのが精一杯。しかし、どうもこちらの消耗具合のほうが大きい。マリクも爺さんも結構大きな魔法を連発しているからなあ……。

 このままでは間違いなくじり貧。押し切られるだろう。


 この形勢をひっくり返すには――

 やはり勇者の武が必要だ。


 だが、まだノーマンは呆けた顔でじっとエレオノールを見ているだけでぴくりとも動かない。

 たまらずわたしは叫んだ。


「ノーマン! なにやってんのよ! 早く動きなさい!」

「あ、ああ……」


 ノーマンの反応は鈍い。

 わかっている。

 ノーマンはお人好しなのだ。リサが魔族エレオノールだということがわかっても、はいそうですかと斬りかかれるはずがないのだ。

 だけど、わたしは心を鬼にして叫ぶ。


「ノーマン! もうリサはいない! あれは敵なの! あなたの力が必要なの!」

「くそっ!」


 ノーマンは何かを振り切るように叫ぶと、エレオノールへと斬りかかった。

 ぎん!

 ノーマンのデュランダルをエレオノールが片手で受け止める。

 そんな――ノーマンの一撃が!?


「ははぁん? どうしたの? 動きにキレがないけど?」


 エレオノールが余裕の表情でノーマンを見る。

 ノーマンが苦しそうな顔でエレオノールに訊いた。


「なあ、あんたは何者だ? 本当にリサじゃないのか? 最初からリサはあんただったのか?」

「わたしは魔族のエレオノール。リサって子ならとっくの昔に死んじゃってるけど?」

「あの地下で俺に言っていたことは全部ウソなのか?」


 くっくっくっくっくとエレオノールが笑う。


「そんなことないけどぉ? わたしノーマンのこと好きだしぃ?」

「う……」


 ノーマンの力が弱まり、デュランダルがわずかに押し返される。

 わたしは叫んだ。


「ノーマン! そいつの言っていることに耳を貸さないで! そいつはエレオノール! リサじゃない! 敵なの!」


 わたしは喉が裂けそうな声で叫ぶ。

 届いてよ、ノーマン!

 あんただってわかってるでしょ!


「ねえ、ノーマァン? 痛いのは嫌なの。優しくしてよ、ね?」


 甘えた声を出した後、エレオノールがこう続けた。


「なぁんてね」


 同時、エレオノールがノーマンを蹴り飛ばす。


「うぐあ!?」


 ノーマンは派手に吹っ飛び、部屋の床にごろりと転がる。

 あおむけになったノーマンにエレオノールが飛びかかる。

 まずい!

 エレオノールの膝がノーマンの腹にまともにめりこんだ。


「ぐあっ!?」


 悲鳴と空気を吐き出し、ノーマンの身体がくの字に折れ曲がる。

 間髪入れず、四つん這いになったエレオノールがノーマンの顔面めがけて手刀を叩き込む。

 命中の寸前、ノーマンがデュランダルを滑り込ませ、その腹でエレオノールの攻撃を受け止めた。

 力と力が刃の表と裏で激しくせめぎ合う。


「くくくくく! あはははははは!」


 エレオノールが高笑いした。


「あなたバカじゃないの!? あんな言葉を信じていたの? ノーマン、あなたのことが好きぃ~なんて!? おまけにこの段になってもまだわたしを信じているの!? 底抜けのバカね、あなた!」


 ああ、なんてこった。

 わたしはそう思った。

 ああ、なんてこった。

 

 全部だいなしじゃないか。

 築きあげた優位性。今そのすべてが崩壊した。ご破算になった。

 その事実に気づいているのだろうか?

 エレオノールは。

 

 どうしてエレオノールは自分の優位を自ら捨て去ってしまったのだろうか。


 ノーマンがため息まじりに口を開いた。


「そうだな、俺はバカだ。ここまで言われないとわからないんだから。全部ウソっぱちだってさ」


 ノーマンが左手をぎゅっと握りしめる。


「だけど、やっと吹っ切れたよ」


 ノーマンが言い終わると同時――

 ごっ!


「きゅあ!?」


 まるで突風ではね飛ばされたかのように、エレオノールの身体がぽーんと吹っ飛んだ。

 ノーマンが殴り飛ばしたのだ。

 ……寝転んだままの姿勢でそんなことできるのか……。

 あいかわらず化け物である。

 エレオノールは空中でくるりと回転すると、静かに床に着地する。殴られた脇腹を押さえて顔をしかめていた。


「な……バカな……!?」

「べらべら話してくれてありがとう。おかげでバカな頭でもわかったよ。遠慮はいらないってな」


 立ち上がったノーマンがデュランダルをエレオノールへと向ける。


「覚悟しろよ、お前!」


 長いつきあいのわたしにはわかった。

 ノーマンはかなり怒っている。気の優しいノーマンが怒るのはとても珍しいことだ。もうノーマンの顔に迷いはない。今のノーマンは一〇〇%の勇者ノーマンだ。


 エレオノールは失敗した。

 ノーマンの優しさにつけ込んで、しおらしい発言で迷わせておけばよかったのに。

 あいつ性格悪そうだしな……罵倒して気持ちよくなりたかったんじゃないかな……。


 その瞬間――

 何かを察知したエレオノールが横に飛んだ。

 エレオノールがいた場所にマリクの放った爆発魔法が炸裂する。


「加勢します、ノーマンさん!」


 マリクの声に、ちっと舌打ちするエレオノール。


「さすがに勇者を相手にしながらだと面倒ね……」

「いや、いい」


 だが、ノーマンはこう言った。


「こいつは俺がぶった切る!」

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