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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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蘇る太古の災厄

 つかつかと歩き出すリサ。

 だがわたしは、やっぱりリサの後ろをつかず離れずの距離で歩く。

 リサがぴたりと足を止めた。


「なーんでついてくるわけ?」

「別にいいでしょ? あなた一人じゃマリクを見落とすかもしれないし」


 どうにもこいつは怪しい。サーシャさんのアンテナがびんびん反応している。

 こいつから目を離すなと直感が告げている。


「ふぅん。ま、好きにしなさいな」


 リサがまた歩き出しながら続けた。


「でも、あなた死ぬかもよ?」

「死ぬ? どういう意味ですか?」

「自分の身くらいは自分で護ってね。わたしは何が起こっても助けないからって意味よ」

「聖女のわたしに言います? リサさんのほうが危ないのでは?」

「わたしが死にそうだったら見捨てなさいな。トラブルメーカーが消えて満足でしょ?」


 どうにもこの女が考えていることがわからない。

 リサとわたしはずんずん図書館の奥へと入っていく。ずっとドアを開けて部屋をのぞくだけだったリサの行動が変わった。

 部屋の中に入ったのだ。

 わたしは後を追い、そっと部屋の中をのぞき――

 びくりと身体を固めた。


「な……!?」


 わたしは思わず息を呑む。

 そこは大きな部屋だった。だが、そこの部屋の本棚は乱雑に倒れ、中身の本を床に散らばらせている。

 わたしが驚いたのはそこではない。

 部屋の奥に一匹の巨大な生物が壁に張り付いていたからだ。

 それは大きなタコのような生き物だった。頭部だけでわたしの身長の二倍はありそうだ。その巨大な頭部から無数の太い足が放射状に伸びて壁から床までべったりと張り付いている。


「そんなに驚かなくてもいいわよ」


 リサがタコを見たまま、そう言う。そして、床にへばりついた足を手で触った。


「びっしりと結晶化しているでしょ?」


 リサの言うとおりだった。タコの全身は青白く光る鉱石でびっしりと覆われていた。


「こいつはもう燃料切れ。動けないわけ」

「な、なんなんですか、これ?」

「先史文明の話はご存じ?」

「詳しくはないですけど、昔は今よりもすごい魔法文化があったって話ですよね」

「そう、そして滅びた」


 リサが奥へと進みながら、タコの足をぺしぺしと叩く。


「原因はこれ。魔精霊よ」

「魔精霊……?」

「精霊って知ってる?」

「火とか水とかに宿っている妖精みたいなのですよね?」

「そ。先史文明というのはね、その精霊を魔法のエネルギーに変換する技術を研究していたの」

「精霊を――魔法のエネルギーに!? え、精霊って生きてるんですよね? それをエネルギーに!?」

「しちゃったのよね。彼らの超魔法に使うエネルギーはあまりにも膨大。だから、精霊をぎゅっとひねって効率よくエネルギーを集めたの。もちろん、精霊は死ぬわよ?」


 くっくっくっくとリサが笑いながら、ぞうきんを絞るようなポーズをしてみせた。


「そ、そんな……」

「彼らにしてみれば精霊なんてただの燃料、実験道具。精霊を利用していろいろな試みが行われたわ。この魔精霊もそのひとつ」


 奥までたどり着いたリサがタコの頭に手を当てた。側面についた目だけでも子供の頭くらいはありそうな大きさだ。


「複数の精霊を合成して造り出されたのが、この魔精霊。とても強力な力を持ち、それゆえに大きなエネルギーを絞り出すことができる――そう彼らは考えた。だけど、現実はそうはいかなかった」


 ぴしり。

 わたしの耳に何かがひび割れるような音が聞こえた。

 なんだろうか?

 リサの話が続いている。


「魔精霊の力は人の支配できるものはなかったのよ。魔精霊たちは暴走し、自分たちを生み出した創造主に牙をむいた。そうして頂点を極めた魔法文明は滅びてしまったのよ」


 ぴしり、ぴしり。

 まただ。いや、またというレベルではない。部屋のあちこちからそんな音が聞こえる。

 まるで何かがひび割れる音が――

 そうして、ひときわ大きな音がした。まるでガラスの砕けるような音が部屋に響き渡る。

 上?

 見上げたわたしが見たものは、壁からはがれ落ちる青白い鉱石のかけらたち。その源にあるものは――

 まるで長年の眠りでなまった身体を動かすかのように伸縮を繰り返す魔精霊の足。

 ひゅん。

 その足がまるで鞭のようにしなり襲いかかった。

 リサ目がけて。


「リサさん! 危な――!」


 わたしの警告よりも早く、魔精霊の足が轟音とともに床を打った。それはリサのすぐ横、衝撃で床が揺れリサがバランスを崩す。

 さらに結晶の割れる音がして、魔精霊の足が次々と自由を取り戻し始める。

 魔精霊の頭を覆う結晶も半分ほどがはがれ落ちている。


 太古の文明を滅ぼした悪魔が――

 今まさに蘇ろうとしていた。


「まずったかな……」


 リサが皮肉げな笑みを浮かべている。

 わたしは部屋の入り口近くにいるが、リサはタコ頭のすぐ手前、部屋の奥にいる。

 解放された魔精霊の足がひゅんひゅんと風を切り、床や壁を叩き続けている。

 リサがこちらに戻るのはかなり難しいだろう。

 だが、わたしは叫んだ。


「リサさん! 魔精霊の動きがだんだんと速くなっています! 今のうちにこっちへ!」


 リサは首を振った。


「残念だけど、ま、無理ね。さっきの約束どおり、さっさと逃げなさい。わたしを置いて」


 確かにリサは憎い。

 わたしとノーマンをからかった罪はとても重い。

 だが、だからといって死ななてくもいいじゃないか。死んでしまえとは冗談で思っても、本当に死なれても困るじゃないか。

 だってわたしは聖女だから。

 聖女は目の前で死にゆく人間を見捨てないのだ。


「待っててください! わたしが! わたしが行きますから! 二人でならきっと!」


 わたしはリサのほうへと走った。

 リサがわたしの意図に気づき、声を上げた。


「あんた、バカか!? わたしを助けて意味なんてないだろ!?」


 我ながらバカである。

 だが、いいのだ。聖女は他人を見捨てない。勇者だって他人を見捨てない。もしもわたしがリサを見捨てたら、ノーマンにふさわしい相棒でいられなくなる。

 覚悟を決めたわたしだが、そう容易なことではない。

 魔精霊が触手を振り回す。

 まるで断頭台が下りてくるかのような圧力が空気を切り裂き、わたしの周辺を乱打する。

 そのうちの一撃が、横からわたしを狙って襲いかかってきた。

 これは当たる――!

 わたしは両手に力を込めて防御用のシールドを展開する。

 ぎぃん!

 耳障りな音。もちろん、わたしの展開したシールドは魔精霊の触手を完璧に防ぎきる。

 だが、わたしの手には鈍いしびれが残った。

 こいつ、強い!


「……はあ、あんたってばホントお節介焼きね」


 そう言ったリサの手がぼうっと紫色の光を放つ。


「だから一回だけ、あなたを助けてあげる」


 リサが輝く手をわたしに向けた。


「ほぅら。ちゃんと防ぎなさいよ?」


 そう言ってリサが光を打ち放つ――わたし向かって!


「くっ!」


 わたしは再び防御シールドを展開。

 どごん!

 シールドとリサのエネルギー波が衝突した。そのあまりの威力にわたしは驚いた。両手から伝わる振動、間違いなく魔精霊のそれ以上。

 こ、こんな魔力を、リサは――!?

 なんとか威力は防ぎきったが、わたしの身体はまるで蹴られたボールのように部屋の入り口までぽーんと弾かれた。


「あなたに死なれるとわたしも困るのよ」


 くくくと笑うリサ。


「さあ、わたしを捨てて逃げなさい!」


 そう叫んだリサ目がけて、魔精霊の触手が降り注ぐ。

 圧倒的な破壊力が床で爆発、轟音ともに部屋が揺れる。粉みじんになった床のかけらが粉じんとなって視界を遮る。

 リサの姿が見えない。

 薄くたなびく煙の向こう側で魔精霊の瞳が黄色く輝く。

 巨体な影がずるずると床をはって向かってくる。

 わたしのほうへと。


「くそ――!」


 わたしは叫ぶと部屋を飛び出した。

 わたしは自分の手のひらを見た。わたしの手は赤く焼け、肌がぼろぼろになっていた。

 だが、その負傷は急速に治っていく。

 聖女であるわたしには常時リジェネ――自動治癒の魔法がかかっており、時間さえあればケガは治るのだ。


 だが、それよりも気になることがあった。

 聖女であるわたしの防御を突き破るほどの魔法をリサはいともたやすく操ってみせたのだ。

 リサは何者だろうか?

 魔法騎士は魔法の専門家ではない。である以上、それほどの魔法が使えるとは思えないのだが。


 それをゆっくりと考えている暇はなかった。


 部屋の出入り口をぶち破って魔精霊の巨体が姿を見せた。触手が獲物を求めるかのように床や天井を這い回る。


 わたしは来た道を全速力で走った。

 ああ! もう! 体力不足のナメクジ聖女にはきつい!

 だが、足を止めることはできない。

 すでに手のひらは治っている。わたしはリサに手渡された玉を取り出し、スイッチを押した。

 ぴっという音がして、玉がピンク色に輝いた。


 早くきてよ、ノーマン!


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