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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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はいはい、恋したんですよねチョロ勇者さん?

闇よ失せよデュクセル・ヴァニッシア!」


 ぱっと闇が消えた部屋でわたしが見たものは――

 寝転んだままゼロ距離で密着したノーマンとリサだった。


 もう一度言おう。

 寝転んだままゼロ距離で密着したノーマンとリサだった。


 ああ、そのシーン、三文ロマンス小説でよう読んだわあ……。男と女があれでこれする感じやろ? もくもくと詰め込まれた文字だけの情報に今、映像がついた。


 やったねサーシャ、レベルアップだよ!


 そのレベルアップいらんねん!

 わたしの頭は一瞬にしてヒートアップ。あっという間に許容量をぶっちぎったわたしの脳は思考を停止する。


 わたしは奇声をあげてぶっ倒れた。


 ブラックアウト――

 それからどれくらいたったのだろう。


 わたしは身体に感じた小刻みな揺れのおかげで目を覚ました。回らない頭でぼうっと周りを見る。

 わたしは歩いていないのだが、風景がゆっくりと流れている。

 わたしのすぐ前には黒い髪の生えた見覚えのある頭があった。

 ノーマンの頭だ。


「うん? 目を覚ましたのか、サーシャ?」


 わたしの身じろぎに気づいたのだろう、ノーマンがそう言う。

 ……どうやらわたしはノーマンにおんぶされているようだ。

 わほお!

 最悪だったわたしのテンションはきゅーんと上がった。


「うん、おはよ」

「自分で歩くか?」

「もうちょっとこうしていたい」

「いいよ、いくらでも……迷惑かけちゃったしさ」

「ホントよホント」


 そう言って、わたしはノーマンの身体に回した両手両足にきゅっと力を入れて、ノーマンへの密着度を高めた。

 いやいや、ノーマンにひっつきたいわけじゃないですよ?

 ほら、こうしてないと危ないじゃないですか?

 それだけですよ?

 本当ですよ?


「なあ、サーシャ。さっきはごめんな」

「さっき――」


 その瞬間、わたしの脳裏に忌々しい映像が蘇った。

 三度言おう。

 寝転んだままゼロ距離で密着したノーマンとリサだった。

 ぐああああああああああ!

 いかん。心の中から闇の瘴気が漏れ出しそうだ……!


「ぴったりくっつていましたよね、ノーマンさん。ああ、とっても仲が良さそうで。おうらやましい限りですね」

「い、いや……あれはたまたまっていうか、何というか……」

「もうラブラブでしたよね。ぴったり抱き合って大人な二人でしたね。年齢=彼氏いない歴の非モテ聖女的に即気絶もんでしたよ」

「い、いや、そういうのは一切ない。ないから」

「ホントですかねぇ……」


 ちなみに他の二人、ヴィーガスさんとリサはわりと前を歩いているのでわたしたちのぼそぼそした声は聞こえていないだろう。


「正直に言いなさい。正直に言ったら許すから。キスくらいはしたんでしょ?」


 まあ、キスしたって言ったら首しめるけど。


「いや、してない。ホントだって」

「嘘でしょ」

「し、しそうになったけど、してない」

「しそうになったのかああああ!」

「こ、こら暴れるな! 仕方ないだろ、リサさんが迫ってきたから」


 やっぱりリサめ、襲いかかったのか。


「……どうしてしなかったのよ」

「お前が頭のなかに出てきた」

「わたしが?」

「俺の頭のなかに小さいサーシャが出てきて、むっちゃ説教された。お前はそれでいいのか、みたいな感じで」

「ぷっ、なによそれ」


 わたしは笑いをこらえきれなかった。

 ノーマンくん、頭になに飼ってるの?

 ツッコミどころしかない話だ。だけど、その話――わたしはとっても気分がよかった。

 そういう状況で、ノーマンはわたしを思い出したのだ。

 これって罪悪感とかそういうやつちゃうの? わたしへの無意識の愛情の発露とかそういうやつちゃうの?


 うっへー!

 わたしは頭がぽーんとなった。


「うへ、うへへへへ……」

「な、なんだ、気持ち悪いやつだな」


 いかんいかん。喜びの気持ちが口から漏れてしまった。


「ノーマン、それってもうあれだよね、そろそろ自分の気持ちを整理しないといけない頃だよ」


 うんうん。

 この流れ、俺はやっぱりサーシャが好きだ! ってなるしかないじゃないですか。


「そうだな……俺もそう思う」


 思っちゃう!?

 思っちゃいました!?

 そうですよね、さあ、言いなさい。俺は気づいたよ、俺が本当に好きなのはお前だサーシャ! って言いなさい!


「考えなきゃダメだよな……リサさんのこと」


 リサさんのこと。

 そっちかーーーーーーーーーーーーーーい!

 小サーシャの振りはなんやってえええええええええん! そんだけ振っといてなんでサーシャじゃなくてリサのことになるんじゃあああああああ!


「リ、リサさんなの?」

「うん。さっきさ……俺のこと好きだって言われてさ」


 げ。

 行動が速い!

 前方のリサを見ると、会話が聞こえていないせいか、わたしたちのことなど気にせずヴィーガスさんと一緒にすたすた歩いている。


「で、でも、ノーマンはなんとも思っていないんでしょ? だからキスも断ったんでしょ?」

「まあ、俺は正直なんとも思っていない」

「だったら断るだけでいいんじゃない?」

「いやあ、でもなあ……いきなりキスしようとかいうくらい俺のことが好きなんだぜ? そういう熱い感情を無碍むげにするってのはないんじゃないのかな?」


 このお人好しめ!


「それにさ、そういうキスしたいとか言われたの、その、はじめてだしさ……」


 照れ照れの声でノーマンが言った。

 くっはー!

 はいはい、ここにいまーす! あなたとむっちゃキスしたい人ここにいまーす! ていうか、宿屋に泊まったとき寝ているあなたにこっそりキスしようとしました! 未遂だったけど!

 わたしは万事いつでもオッケーでーす!

 なのに……なんで気づかないんじゃああああ!


「でも、ノーマンはなんとも思ってないんでしょ?」

「そうだけど……好きになるかもしれないし……いや、ぐっと押されてさ、俺の気持ちも変わってきてるんだよ」

「え?」

「リサさんのこと、ちょっと好きになってきたかも」


 ……神さま、聖女サーシャは前世で何をやらかしちゃいました?


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