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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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男女 ダンジョン 男女

 ……どうしたらいいの、これ?

 なーんてわたしがしおらしくなっていたのは一秒だけである。


 一秒後、わたしは立ち上がった。


 あのリサなんてけしからん万年発情女と優しくされるとコロッといくチョロ勇者のノーマンを二人にさせていいはずがない!

 わたしの恋が絶体絶命!

 恋の警戒警報がびんびんに鳴っている。

 即座に見つけ出し、二人を引きはがさなければならない。


 わたしはすくっと立ち上がり、後ろのヴィーガスさんを見た。


「ヴィーガスさん! 追いかけましょう!」

「え? 追いかけるって? もう壁は閉じてるだろ?」

「通路を戻ってこの壁の向こう側に行きます!」

「え、ええ……!? 道わからないだろ。案内役のリサはいないんだぞ?」


 ヴィーガスさんの心配はもっともだ。ここら辺は迷路みたい造りで複雑に入り組んでいる。


「通ってきたところなら頭に入っています。おそらく分かれ道まで戻って進めばこの裏に抜けられる気がするんですよ。そんなに遠くもないし試してみるべき価値はあるかと」


 ぬっふっふっふっふ……。

 これがわたしの特技である。わたしは一度歩いた道を絶対に忘れないのだ。というか、わりと詳細な地図が頭に残っている。

 すごくない?

 おかげで孤児院時代は『迷子知らずのサーシャちゃん』という異名を持っていたほどだ。


「ほお。すごいな。じゃあ、行ってみるか?」

「行きましょう!」


 歩き出しながらヴィーガスさんが訊いた。


「ところで、そんな特技どうやって身につけたんだ?」

「ほら、迷路の絵本ってあるじゃないですか。孤児院にあるそれ系の絵本を片っ端から攻略していったら自然に……」

「はい、救出作戦やめやめ! ここで待機!」

「どどどどどうしてですか!? チートスキルを身につけた誰もが納得の完璧な導入と根拠だと思うんですけど!?」

「迷路の絵本はないだろー……」

「ないですかー……」


 ヴィーガスさんはノーマンたちが消えた壁の前に戻り、そこに腰を落とした。


「下手に動かないほうがいいんじゃないか。あっちにはリサがいる。ノーマンならどんな敵も蹴散らせる。勝手に戻ってくるだろ」


 そんなことはわかっている。

 わかっているけど――!

「そ、それじゃダメなんです! 少しでも早くノーマンたちを見つけ出さないと!」

「ははーん」


 何かを察したようなヴィーガスさんの声だった。


「リサだろ」

「ぐっ」

「リサがノーマンを誘惑しないか心配なんだろ」

「ぐがっ」


 ヴィーガスさんの言葉が矢だとしたら、わたしの的の中心を正確に射抜いてきた。


「そ、そそそそんなこと! あ、ありませんことですわよ!?」

「なーんだ、俺の気のせいか。じゃあ頑張るのやーめた」


 そう言ってヴィーガスさんはごろりと地面に横になる。


「ここで待ってようぜ?」

「いいですよ! いいですよーだ! わたし一人で行きますから!」

「それはダメだ」


 ヴィーガスさんがマジな声で言った。


「俺はお前たちの護衛役だからな。ノーマンならともかく聖女のお前をひとりでふらふら歩かせるわけにはいかない」

「ぐぬぬぬぬぬ! じゃ、じゃあ逆に言えば! わたしが勝手にずんずん奥に進んだらヴィーガスさんはついてこないといけないってことですよね!?」

「口の回るやつだな……違うだろ、サーシャ。お前の私情につきあってやるんだから、お前は俺に言うことがあるはずだ」

「……あ、ありがとう?」

「まあ、それも外してはいないけどな……そうじゃないだろ。お前はノーマンのことが好きなのか?」

「う……」

「隠したまま手伝ってってのは人が悪いぜ? あーあ。俺としてはサーシャを応援したいんだけどなあ」


 ごろっと転がってヴィーガスさんがわたしに背を向ける。


「ぐぬぬぬぬぬ!」

「突っ張るのもいいけどさ。とられちゃうかもよ? 勇者さま」


 その言葉でわたしは陥落した。


「はいそうです! わたし聖女サーシャはノーマンが好きです! 孤児院の頃からずっとずっと! これからもずーっと一緒にいたいと思ってるんです!」


 言ってしまった。

 古代遺跡の中心でわたしは愛を叫んだ。


「なーんだよ、そういうのは早く言えよ」


 にやにやしながらヴィーガスさんが身を起こす。


「ま、ぽっと出のリサに奪われちゃ立つ瀬がないよな」


 こいつ絶対悪いやつや! お前わかってたやろ! わかっててわたしを追い詰めて言わせたやろ! 恥ずかしく言うわたしを見て絶対にやにやしとったやろ! ドエスや、こいつはドエス!

 ヴィーガスさんがすたすたと歩き始める。わたしは彼の後を慌てて追いかけた。


「そういう感じでさっさとノーマンに言ったら? ノーマンのやつ一生気づかないぞ、あのままだと」

「い、いや……そういうのはちょっと……」


 わたしが自分から告白しない理由はいくつかある。

 特に独創的でなくて恐縮なのだが、はっきり言って自信がない。

 ノーマンがわたしのことをどう思っているのかよくわからかないのだ。もしも告白して振られたら、今の関係すら壊れてしまう。それが怖いのだ。

 あとわたしは意外に乙女チックなところがあって、そういうのは男のほうから言って欲しい気持ちもある。


「い、いつか、気づいてくれると信じてるんで……」

「そうか? ま、そこまでは無理強いしないけどな」


 そんな話をしていると、がしゃんがしゃん! という音がして急にやかましくなる。

 向かっている先の道の暗がりから、鋼鉄製のゴーレムがのっそりと姿を現した。


「なんかヤバいのが出てきましたよ、ヴィーガスさん」

「そうだな」

「さっきも聞きましたけど、本当に大丈夫ですか?」

「お前、風の騎士なめすぎ」


 ヴィーガスさんが苦笑しながら剣を引き抜いた。

 臆病風などどこ吹く風、その足は止まることなくゴーレムとの距離を縮めていく。


「女の子の恋のために戦うんだ。騎士の誉れだ。ここでへたれちゃ騎士の名前が泣くってもんさ」 


 瞬間、ヴィーガスさんの姿が消えた。

 直後――ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎん!

 耳をつんざくような無数の金属音がダンジョンに響き渡る。


 すでにヴィーガスさんはゴーレムの後ろに立っていた。一瞬でゴーレムとすれ違い、その一瞬の間に無数の斬撃を叩き込んだのだ。

 ゴーレムは身体中を切り裂かれ、その動きは緩慢になっている。


「ノーマンみたいに一発とはいかないか。でも急いでいるんだ。あまり邪魔しないでくれないか」


 ヴィーガスさんの振り向きざまの連撃が、ゴーレムを細切れに切り刻んでいく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「う、うわあ!」


 ノーマンは踏ん張る間もなくリサとともに壁の向こう側へと呑み込まれた。

 穴の向こう側は真っ暗だった。

 夜どころではない、真っ暗なペンキをぶちまけたかのような闇が広がっていた。

 穴から投げ出され、ノーマンはその闇の部屋――部屋? それすらもわからない。ただ固い地面の上に自分が転がっていることだけがノーマンにわかっているすべてだった。

 投げ出されたときに腕が離れたのか、リサがどこにいるのかもわからない。


「リ、リサさん!」


 返事はない。

 闇の中、ノーマンは四つん這いになって手足を動かす。

 そのときだった。

 むにゅ。

 そんな感触が左手に当たった。


「やん」


 艶っぽい女の声がした。聞き覚えのある声だった。


「え、リサさん!?」


 ノーマンはこの感触の先にリサがいるのだろうと思い、頑張って左手を動かす。

 むにゅむにゅ。


「リサさん! 大丈夫ですか!?」

「ノーマァン……あのさァ……」


 リサが吐息まじりの上気した声でつぶやく。


「それ、わたしの胸なんだけど」

「え?」


 ノーマンの左手が固まった。

 というか、全身が固まった。

 リサの鎧は軽装で、胸元には特に何もつけていなかった。

 自分が何をしていたのか。そのことをはっきりと理解してノーマンは肌が発熱するかのような感情に襲われた。


「ごごごごごめんなさい! おお俺、暗くてよくわからなくて!」


 慌てて左手を離し、その場からのけぞろうとするノーマン。

 だが、それよりも早く――


「違うって」


 リサがノーマンの身体に手を回し、ぎゅっと抱き留めた。


「そうじゃないの、ノーマン。そうじゃなくてさ――」

「そ、そうじゃない?」


 ノーマンは頭の混乱のせいで身体が動かなくなっていた。背中に回されたリサの指先がノーマンの皮鎧の隙間か忍び込み、つっとノーマンの背中をなぞっている。


「優しくして欲しいって意味なの」

「え、ええ、え? や、優しく?」


 ノーマンはあいかわらずよくわかっていない。

 リサは片方の手をノーマンの背中からはずと、手探りでノーマンの左手をつかみ、その手を――

 自分の胸に置いた。


「好きなだけ触っていいよ……だけど、優しくね」

「は、い、いや……」


 不意にリサがくすくすと笑い出した。

 ノーマンはその笑い声で少しばかり緊張がほぐれた。これはリサのいたずらだと思った。自分をからかっているのだと。


「リ、リサさん……冗談なんですよね、これ?」

「なんで?」

「笑ってるじゃないですか」

「だって……ノーマンが緊張しすぎでかわいくてさ」


 闇の中からリサが答える。


「胸を触るくらいで緊張しないでよ。キスしちゃったらどうするの、ノーマン?」

「え、え……?」


 キスという単語にノーマンはどぎまぎした。


「ううん。キスどころか……せっかく暗いんだからさ……もっと二人で気持ちいいことしない? ねえ、勇者さま?」


 リサが暑苦しくなった空気を胸から押し出すように、熱のこもった吐息をこぼす。


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