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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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地下大図書館へ with 女魔法騎士

「年の離れた弟って何歳なんですかマリクは?」

「一〇歳」


 ……一〇歳!?

 想像以上に若くて驚いた。伝説の魔術師とか言っていたから、てっきりギルドマスター以上の爺さんとか魔法で永遠の命を手に入れた骨の化け物とか想像していたのだが。

 ていうか、え、待てよ……。


「ヴィーガスさん、言ってましたよね。五年で伝説を作ったとか何とか……」

「ああ、そうだな……」

「てことは、マリクって五歳から天才してたんですか?」


 それはもう――

 冗談を通り越してギャグってレベルなのだが。

 五歳のときってわたし鼻水たらしてアハハハハハハハ! って叫びながら野山を駆け巡っていた記憶しかない。


「ほっほっほっほっほ。ようやく理解したかね、マリクの天才を?」


 爺さんがどやあって顔しながら言う。


「魔術の習得はとても時間がかかるのじゃ。才能あるものでも初級魔法が使えるようになるだけで五年は当たり前。才能すらなければ――どれほど努力しても届かぬ。それが魔術。マリクが、たった一〇歳の子供がわずか五年で魔術の深淵に届いたこと。それがどれほど偉大なことか、君たちにも伝わったかね?」


 そりゃそれだけの天才だったら、王家によこせと言われても簡単には差し出せないよなあ……。

 クリスさんが口を開いた。


「そんなわけで私としては君たちが自慢の年若い弟を預けるに足るのか……その力を試すためにこういうことをさせてもらったのだよ」

「どうでしたか?」

「手も足も出なかった。勇者は強いね、はははは」


 わたしの質問にクリスさんがさわやかに笑う。


「じゃあ、マリクを連れていってもいいんですよね?」

「それとこれとは別だな」


 別なんかい!


「マリク本人がどう思っているかだ」

「……どう思っているんですか?」

「わからない」

「はあッ!?」

「仕方がないんだ。ここしばらくマリクはこのギルドを離れていてね、確認しようがなかったんだ。いる場所は」


 そう言ってクリスさんは下を指さした。


「地下大図書館」

「地下――大図書館……?」


 あまりにも聞き慣れない言葉だった。


「このグレイノールは古代遺跡の上に立っていてね。地下には様々な先史文明の遺物が眠っているんだよ。それは私たちの知力を大きく超えた宝の山なんだ。地下大図書館もそのひとつだよ」


 先史文明――そう言えば聞いたことがある。

 わたしたちの時代の前に超魔法文明が存在していたという話を。その技術は今をはるかに凌駕したという。だが、それほどの力を持っていても何かの理由で滅びてしまったらしいが。


「……ちょちょいと連絡できないんですか?」

「ほっほっほっほ。それができれば苦労せんわい」

「いつ戻ってくるんですか?」

「ほっほっほっほ。それがわからんのじゃ。ひょっとすると明日ひょっこり戻ってくるかもしれんしのお」

「最長だと?」

「ほっほっほっほ。半年くらいは後かもな」

「半年って――根拠は何ですか?」

「あの大図書館に用意しておいた保存食の残数からじゃな」

「ああ、もう……」


 わたしは額を手で押さえた。どうせいっちゅーねん。

 ヴィーガスさんが口を開いた。


「しかし老師。それでは困る。半年も待ってはおれんのだ」

「ふむ。そちらの事情はわかっておるよ。ならば方法はひとつしかあるまい。地下大図書館に行ってマリクを連れ戻す。それだけじゃ」


 ……やっぱそーなるかー。


「老師よ、その図書館までどれくらいかかるものだ?」

「直線距離は近いよ。片道一日半といったところじゃ。ただ、道中が危険でな……遺跡を守る罠やゴーレムのせいで生半可な連中では近づくことすらできぬ」

「そこでわたしたちの出番になるんですよねー……」


 わたしは嫌々言った。

 はいはい。そういう役回りなんですよね……。


「そういうことじゃな。だが、安心せい。迷わないようせめて案内役はつけるから」


 ひょいっと手を上げたのは――

 赤い髪の女リサだった。


「よろしく……うふふふ」


 う、こいつか……。

 前にも言ったけど、こいつは苦手な感じがするんだよな。

 さっきの戦闘も一応『死んでも文句なしルール』とはいえ、こいつだけ本気で剣を振り回して殺す気満々だったしなあ……。

 わたしの気のせいだったらいいんだけど。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 わたしの気のせいじゃなかった。


「勇者って強いのねぇ」

「いや、それほどでもないよ」

「強い男は嫌いじゃない――ううん、むしろ好きかもぉ」

「す、好き? い、いやー。照れるなあ……あはははは」


 リサの言葉にノーマンがまんざらでもない様子で謙遜する。

 さっきからずっとこんな感じである。

 リサが「好きだわぁ」だの「すてきぃ」みたいな言葉を連発しながら隣のノーマンを褒め称えている。


 ていうか、近い! 近い! もうちょっと離れろ! 

 ノーマン! あんたもにやにやしながら嬉しそうに応対してるんじゃない!


 くそ、そっちか! そっちなのか!

 ひょっとしてお前あれか!

 お前が今回のノーマンの恋のお相手役か!


 てっきり「実は敵でしたー!」みたいな展開を警戒していたが、わたし的には恋のお相手役のほうが困る。


 ぐぬぬぬぬぬぬ。

 ぬかったわ。ノーマンの隣をとられるとは……。


 今わたしたちは地下大図書館へ続く長い階段を下りている。階段の幅は細くて二人が並ぶのがやっと。前はノーマン&リサ組、後ろがわたし&ヴィーガスさん組である。

 で、わたしは延々と前を行くノーマン&リサ組のいちゃいちゃを見せつけられている。


「ノーマンって筋肉すごいよねぇ。勇者ってそうなるの?」

「いや……孤児院の仕事を手伝いまくっていたらこうなって……」

「へえ、すごいね。腕ふっとー。脱いだらすごいタイプ?」

「いやあ、どうだろう……」

「うふふ……じゃあさ、今度見せてよ。裸になって、さ」

「え、ええ!? い、いやあ……はは、ま、まあ、いつかね……」


 いつかじゃねえええええ!

 そこはビシっと断らんかいいいい!

 ああ、もうなんでこんな扱いばかりやねん……。

 神さま、サーシャをいじめて楽しいですか?


「ふぅ……ちょっと肌寒いなあ……」


 なんてリサが言い出す。リサは軽装の皮鎧を着ているため、太ももや二の腕がむきだしになっていた。


 そうして――

 ぎゅむ!

 いきなりノーマンの腕と自分の腕をからませた。


「え、お、え、リ、リサさん!?」


 さすがのノーマンも焦る焦る。わたしはたぶんノーマンの一〇〇倍くらい焦ってるけど。


「寒いからさ、ちょっと暖めてよ……」

「い、いや、あの、そ、そんなにくっつくと、その、む、胸があたって……」


 おろおろしているノーマン。

 しかし、わたしのポイントアップ。そういうのを申告する姿勢は紳士的でいいぞ、ノーマン!


「気にしないでいいの。だってさ」


 さらに一段とノーマンにくっついてリサが言う。


「当ててるんだから」


 ぶふぉっ!?

 わたしは見えない血を吐いた。

 

 ノーマンは混乱の魔法にでもかかったのか、人語には聞こえないわけのわからない言葉を口から吐いている。


 あ、当てている……。


 それ三文ロマンス小説でよく読んだわー。超定番の名言やー……だが、使い古された言葉だからこその伝統と重みがそこにある。

 一度くらいは言ってみたい名言だろう。

 く……ええい! ダメだ! リサのやりたい放題のままやらせていてはいけない!


「ちょ、ちょっとリサさん!」

「なぁに?」


 首だけ後ろに傾けてリサがわたしを見る。


「そ、その! 今は任務中なんですから! ふふふふざけた言動はつつしんでもらいたいんですけど!」

「ふぅん」


 リサは値踏みするようにわたしを見てから言った。


「妬いてるの?」

「は! え! いや!」


 はいその通り正しく完璧に嘘偽りなく妬いております!

 が、そんなもの認められるか!


「そそそそ、そういうのではなくて! わわわたしはマジメに仕事をするべきではないか、と言っているのです!」

「妬いてるんだあ」


 笑いながらリサが言う。


「ち、違います!」

「ふ~ん、そうなんだー」


 そう言うとリサがノーマンからぱっと腕を放した。


「後ろのおつぼねさまがうるさいからさ、また今度ね」


 そう言って、リサがわたしのほうを見る。


「ま、仕事はちゃんとするからそう目くじら立てないでよ」


 手をひらひらとするリサ。

 どう見ても反省している振りはない……ていうか、引き続きノーマンと雑談は続けている。むむむむ!

 ナメクジ聖女の次はお局聖女か……。

 もうちょっとマシな役回りはないものなんですかね……(泣)


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