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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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勇者の武――それすなわち最強

「では――はじめぃ!」


 ギルドマスターの爺さんが開始を告げる。

 だが結局のところ、この試合はたったひとつのわかりきった事実を証明しただけだった。


 つまり――

 普通の人間は決して勇者に勝てないという単純な事実を。


 マリクとリサが炎風雷の魔法を次々と打ち放ち試合場に多彩な輝きが炸裂する。

 ノーマンは常人離れした動きでことごとく回避。

 回避しつつも前へと詰める。マリクたちの生命線である三〇メートルの距離をごりごりと削っていく。


 だが、マリクもさすがは伝説と呼ばれる魔術師。

 ノーマンの動きを予期して回避不能の魔法弾を打ち込む。


 だが、それすらも――

 ノーマンが素手で魔法を殴り飛ばした。


 ……むちゃくちゃだな、あいつ。


「魔法を殴るとか、儂らはどうしたらいいんじゃろうなあ……」


 爺さんがあきれた声で言う。

 つーか、魔法を殴って無傷だったら、そもそも直撃しても無傷なんじゃないだろうか……?


 よくわからないやつだ。

 しかし、まあ、その人知を超えたもの。

 それこそが勇者なのだが。


 すでにマリクたちとノーマンの距離は一〇メートル。


石の壁ストン・ウォル!」


 リサの魔法が発動し分厚い石の壁が出現。ノーマンを拒絶するようにその進行ルートを遮る。


 横に避けるか――

 機をてらってよじ登るのか――

 だが、ノーマンの選択はそのどちらでもない。


 すがすがしいほどの、正面突破。


 どごおっ!


 轟音とともに石の壁にトンネルができた。魔法っぽいが魔法ではない。たぶん、ノーマンがぶん殴ったのだろう。あいつ魔法使えないし。たぶん、というのは見えなかったからだ。あらゆる動きが速すぎる。

 そのまま足を止めずにノーマンがトンネルを通る。


 マリクとの距離はもう五メートル。


 そこへ前に出たリサがノーマンに襲いかかる。

 真正面からではなく、トンネルの横から。


 うまい!


 いかに勇者が規格外といっても、人体の限界を超えるはずもない。あの角度からならトンネル内のノーマンからリサは見えない。


 ノーマンが飛び出そうとした刹那――

 リサがローブを一息で脱ぎ、ノーマンの視界を覆うように投げる。

 ローブを脱いだリサは軽装の鎧をまとっていた。その腰には一本の剣を差している。


 !?

 ただの魔術師ではないのか……?


「はっ!」


 剣を引き抜くリサ。目にもとまらぬ速度でローブ越しにノーマンを突き刺す。


 だがもう――

 そこにノーマンはいない。


 圧倒的な超反射。

 リサが行動を開始する直前、トンネルを出た瞬間にノーマンはすでに彼女の存在に気づいていたのだ。


「いっかさまァ……!」


 リサの顔がおかしそうに笑う。


 どん!

 ノーマンの一撃を受けて、リサが身体をくの字に曲げて後ろへと吹っ飛んだ。


 最後に残ったのは――伝説の魔術師マリクただひとり。

 マリクが放った最後の爆撃もノーマンはあっさり回避。


 やがて三〇メートルという距離は、ついにゼロとなる。

 ゼロの距離。

 もはや、魔術師に打つ手はない。


「『付与魔法・硬化エンチャルト・ハディス』!」


 マリクの声とともに、マリクの持つ杖が光を放つ。

 ノーマンの放ったこぶしをマリクの杖が迎撃する。


「へえ、やるね!」


 ノーマンが驚いた顔で笑う。

 マリクは善戦した。意外にも洗練された体術を駆使してノーマンの攻撃をさばき続ける。


 だがそれは――

 ただ単純にライオンを相手に猫が健闘しているだけということ。

 そんなものが長く続くはずもない。


 ごっと鈍い音がした。

 ついにノーマンの攻撃に耐えかねて、マリクの魔力付与された杖が真っ二つに折れたのだ。


「くっ――!」


 距離をとろうとするマリクだったが――

 それより早くノーマンが手刀をマリクの首元に突きつける。


「まだやるかい?」

「いや、降参だよ。やはり強いね、勇者は」


 ふっと空気が緩んだ瞬間――

 その瞬間を狙っていたものがいた。


 赤い髪の女がいつの間にかノーマンの背後に飛び込んでいた。その右手には剣。


 リサ!


 放たれた銀の軌跡がノーマンの首へと走る。


 誰もがリサの存在を忘れていた。

 そして、試合は終わったと思っていた。

 そんな時間の流れがはがれ落ちた瞬間をついた一撃。


 普通の人間ならば確実に首と胴が離れていただろう。

 普通の人間ならば。


 だが、そのすべてのものの不意をうった一撃すらも――

 勇者には届かない。


 ノーマンはリサの右腕をつかむと、そのまま床へと投げ落とした。


「ぐはっ!」


 背中から叩きつけられ、リサが空気と声を同時にはき出す。


「まだやるかい?」


 ノーマンの声にリサがふっと笑った。


「降参降参。あんた強すぎ」


 これにて勝者が決定した。


 神が言った。魔王を倒せと。神が言った。お前こそが最強だと。俺の右肩には神の使命が! 俺の左肩には死んでいった人類の祈りが宿っている! 不撓不屈ふとうふくつ! 不退転! 人類の希望、その名はァァァ!

 勝者! 人類最強の勇者! ノオオオオオマアアアアアン!!


 ごめんなさいごめんなさい。

 これがホントに最後ですぅ。


 というわけで、マリクとの戦いは終わった。

 わたしたちとマリクたちが部屋の中央に集まった。

 口火を切ったのはノーマンだった。


「で、俺が気になってるのはさ」


 ノーマンが言った。


「あんたマリクってやつじゃないだろ。誰?」


 ――!?

 わたしは驚いてノーマンとマリクを見た。マリクが、マリクじゃない? どういう意味なのだろうか?


「……どうしてそう思うんだ?」

「あんたが本当にただの魔術師なら、最初の俺の攻撃で終わりだよ。だけど、あんたは俺を体術で迎撃した。あれは相当な使い手だよ。魔術師のそれじゃない。あんたが魔術師とは思えない。何者だ?」

「……ま、いずれ正体は明かすつもりだったから、いいかな」


 マリクが肩をすくめた。


「私の本当の名前はグレイノール魔法騎士団に所属する部隊長のクリスだ。こちらは部下のリサ」

「ほっほっほっほっほ。バレてしもうたのう」


 爺さんお前もグルかよ。

 確かに二人ともそういう肩書きならあの動きも納得である。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 わたしは声をあげた。


「その人はクリスって人でマリクじゃないってことよね? 何でそんなまどろっこしいことしたわけ? 別人をマリクと偽って連れていかせようとしたとか?」

「はははは、さすがにそこまで悪辣ではないよ、私たちは」


 クリスが笑う。


「芝居が過ぎたのは認めるけどね。これはギルドマスターの趣味だ」

「ほっほっほっほ。ほら、そのほうが面白いじゃろう?」


 爺さんが悪びれもせずに言う。

 わたしの辞書の魔術師欄に『変人多し』と書いておこう。


「あと、もうひとつ訂正しておきたいんだが」


 クリスが言った。


「さっき別人と言ってたね。確かに私はマリクではないのだけど、まったく関係がないわけじゃないんだ」


 一言切ってから、クリスが続けた。


「マリクは年の離れた弟なんだ」


 え、弟?

 クリスさんは二〇前半くらいの感じだけど、年の離れたっていうと何歳くらいなんだろう……。


「年の離れた弟って何歳なんですかマリクは?」

「一〇歳」


 子供やんけ。



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