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俺さー、姫さまに恋しちゃったかも

「いや、そんな浅いもんじゃなくて――運命、かな」


 運命!?


「それに俺だけじゃなくて――姫さまのほうも俺に気があるんじゃないかと思うんだ。いや、あるな。絶対」


 アーアナタ、ジブンガナニヲイッテイルカ、ワカッテイマスカ?

 どういう論理的な帰結で、せいぜい一〇分程度しか会っていない女性が自分に気があると思い込めるのだろうか。


「ノーマンどの。あなたが姫さまを好きだというのは自由であるが、姫さまがあなたを好きというのは聞き捨てなりませんぞ。どういう理屈ですかな?」

「え? どう考えても俺のこと好きじゃん?」

「わたしのほうはどう考えてもその答えにたどり着けなくて無限ループ中なんだけど……ちょっと謁見の間でのあんたの心の動きをここで話してみなさいな」

「うーん、最初に姫さまを見た瞬間、俺はびびっときたんだよね。すごくきれいな人だ! って」


 お前メンクイだったのか。


「えーと、ひょっとしてノーマンが最初のほうでぼーっとしていたのは姫さまに一目惚れしちゃってたから?」

「一目惚れじゃなくて、運命な」

「はいはい、もーそれでいいから。どうなの?」

「そうだ。あのとき俺は運命を感じていたんだ」

「わかりました。で、それから?」

「でもやっぱさ、身分が違うじゃん。あっちは王家の生まれでさ。俺なんて礼儀のひとつも知らない平民でさ」

「そうだね」

「だけどそこで、にっこりほほ笑んで言ってくれたよね。俺たちにそういうのは求めていないって。自然体でいいよって。その優しさにさ、さらに胸がときめいちゃったわけ。なんて素敵な人なんだって!」


 あれか……美人に優しくされてころっといった系の話か……。

 ノーマンくんってば単純。

 

 とりあえず、ノーマンが姫さまに惚れたプロセスはわかった。

 だけど問題は――このバカがどうして姫さまが自分のことを好きだと思ったかだ。


「それで、姫さまが優しいから、てっきり気があると思ったわけ?」

「おいおいおいおい……サーシャ。俺ももう酸いも甘いもかみわけた大人の男だぜ? さすがにそんな浅い理由じゃないよ」

「ほうほう」

「いいか? 俺に剣を渡してくれたじゃん?」

「そうね」

「剣を渡すやりとり覚えてるか?」


 ノーマンが受け取りかけた剣を姫さまがひょいと取り上げて「あげません。貸すだけだから生きて戻ってちゃんと返しなさい」と小粋なことを言った流れだ。


「覚えてるけど?」

「あれってさ、完全に惚れてるよね。俺に」


 ……

 ……

 ……え?


『あれって』という言葉と『完全に惚れてるよね』に何の因果関係も見つけられなかった。びっくりするくらい何もない。虚無。


 なんだか勘違いしてませんか?


 そんな気持ちでノーマンの顔をまじまじと見るも――

 自信たっぷりあふれまくり。


 世界に重力が存在して空気が満ちているのを確信するがごとく、

『あれって』→『完全に惚れてるよね』

 その法則の絶対性を信じて疑わない力強い瞳がそこにあった。


 何だろう。

 わたしが間違えているのだろうか。


 あれって完全に惚れてるのだろうか。なんだかそんな気がして――いや、こないこない。ないから。ない。ないないない。


「ノーマン先生。彼氏いない歴一五年のあわれな非モテ女子に教えてほしいのですが」

「なんだ」

「どうしてそれが惚れていることになるのでしょうか?」

「え?」


 わかんないの? という感じでノーマンがわたしを見た。

 うわ、すっげーむかつく。


「だってさ、普通は剣だけ渡して終わりじゃないか。それが仕事ってやつだ。左から右に流してはい終わり。はいはい帰って帰ってみたいな」

「まあ、そうね」

「でもな、姫さまは違った。普通には渡さず、生きて帰るように言ってきた。つまり、俺の身を心配してくれているわけよ」

「それくらいは普通じゃない?」

「そう俺もそう思う。そこまでなら俺も何も思わない。だけど! おまけに剣を返してほしいって約束したわけ。つまりこれ、また会いたいってことだよな?」


 また会いたい。

 え、ええ……。

 そういうふうに拡大解釈しちゃうんですかあ……。


「あ、あのさ。社交辞令の可能性とかあるじゃない?」

「ない」


 ノーマンが断言した。


「あのときの、クラウディアさまの俺を見つめるうるんだ瞳。あれは心の底から大事な人の無事を祈る瞳だった。間違いない」


 ……うるんでたかなあ……。

 普通だったような気がするんだけど。

 ピンク色に染まったノーマンズアイにはそう見えたのだろうか。


「で、俺は決めたわけ。魔王を倒して――この人と結婚すると!」

「お、落ち着こう、ノーマンくん。結婚までの速度が速すぎる。このままだと光速になっちゃう。まだ一〇分しか話してない相手だよ?」

「いや、俺は光速を超える!」


 あれれれ……。光の速さって超えられたかなあ……。


「運命なんだよ。俺と姫さまは。『勇者サウスの伝説』だってそうだっただろう?」

「あー……」


『勇者サウスの伝説』はヴァリス王国で昔から伝わる絵本だ。ほぼ全員の国民がこの絵本の話を知っている。


 物語の筋は単純。童謡界の超王道。

 単に聖剣を持った勇者サウスが仲間とともに魔王を倒し、助け出したシーナ姫と結婚する話だ。


 勇者サウスとシーナ姫。

 勇者ノーマンとクラウディア姫。


 確かに『勇者サウスの伝説』の絵本は孤児院にもあって、小さい頃のノーマンは何度も何度もその本を読み返していた。そしてよく「俺は魔王を倒して姫さまと結婚するんだ!」と言っていた。

 この男の遺伝子レベルで刻まれている物語なのだ。


 そして本当にこの男は勇者として選ばれてしまい――

 驚くほど美人で優しい姫さまに出会ってしまった。


 絵本の通りに。


 よってノーマンは思い込んでしまったのだ。

 これって運命! と。


 ……。


 んなわけねーじゃん。


 絵本は絵本。

 現実は現実。


 そんな都合よくいかないし、思った通りのハッピーエンドになるわけもない。

 ノーマンにそれを教えてやらないとダメなのだが――


「勇者と姫……お似合いだよな」


 どうやらこの男、完全にのぼせ上がっているようだ。


 だが、わたしはあまり心配していなかった。というのも、そもそも姫さまは忙しい。わたしたちも忙しい。

 特に会うことがなければ、このノーマンの脳にかかった恋の病もすぐに沈静化するだろうと思っていたからだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 数日後。


 わたしたちは城内にある庭に来ていた。庭と言っても、そこは王さまの住む城である。半端なく広い。庭っていうか、草原? どこまでも広がる緑の景色がきれいだった。

 春の日差しは暖かく草のうえに寝っ転がりたくて仕方がない。


 今日はここで乗馬訓練を受けることになっていた。


 これからわたしとノーマンは魔王を倒すため、王国を旅しなければならない。徒歩の移動では時間がかかりすぎるので、馬による移動は必須だ。とはいえ、わたしもノーマンも馬など乗ったことがないお恥ずかしい状況だ。


 その話を知った王宮が、馬の贈与に加えて乗馬トレーニングまでしてくれる運びとなった。


 わたしの隣ではノーマンがほおっとした様子で突っ立っている。


 あの日以来、ノーマンはお姫さまに会っていない。姫さまはもちろん多忙だし、わたしたちも頻繁に催される歓迎パーティーで忙しかった。そのためかノーマンが姫さまの話をすることはなかった。


 時間こそが忘却の特効薬。

 ノーマンくんがそのまま恋心を忘れてくれますように……。


 なんて思っていたら。


「お待たせしました」


 背後から声がした。聞き覚えのある声だった。え、まさか? と思って振り向くと――


「ひ、姫さま!?」


 まさかの人がいた。


 いやー……ちょっと待ってほしい。もう最後の日まで会わずにすむんじゃないかなあ……とか期待してたんだけど甘すぎたか。


 ノーマンの顔がぴかぴか輝きだしてるんだけど……。

 ていうか、マジで運命だったり――しないよねえ?



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