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勇者が失恋した。~聖女のわたしが告白待ちなの気づいてくれよ~  作者: ぺもぺもさん
第3章 勇者が怪しげな女魔法騎士に失恋した。
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無貌のエレオノール

前回までのあらすじ:ノーマンとサーシャは野盗の脅威から街道の宿を守った。宿の娘メリッサと別れ、風の騎士ヴィーガスとともに魔法都市グレイノールにようやくたどり着く。

「追いかけっこはここまでよ」


 路地の入り口に立ったリサは、路地のどん詰まりに声をかけた。

 そこには三〇歳くらいの派手なみなりの女性が立っている。


「どこにも逃げられない。覚悟することね」


 ここは魔法都市グレイノール。

 王都ヴァリスに次ぐ第二の都市として有名で、二つ名の通り魔法の研究が盛んである。


 この都市に所属する騎士団は魔法を使えるものが多い。剣と魔法、双方を操る力は貴重な戦力であり、その実力を称えて『魔法騎士』と呼ばれている。


 リサはグレイノールの警備を担当する魔法騎士である。

 年齢は二〇歳で赤い髪の女性だ。髪の片側が長く右目を隠している。魔法騎士としての筋はよく、実力は随一と評されるクリス隊に所属していた。


 経験的にはようやくルーキーを脱しつつあり、それゆえに――

 大きな手柄を欲していた。


「無駄な抵抗はやめなさい」


 リサは腰の剣を抜きつつ女との距離を詰める。

 リサの所属するクリス隊は街に入り込んだ魔族を追っていた。能力は下位相当とみられている。


 下位――並みの騎士ならば数人がかりで倒すレベル。


 いい任務だとリサは思った。

 重大な任務にもかかわらず、危険性は少ない。もしもこの任務を解決できれば、きっと評価も上がるはず。


「いいか。下位とはいえ、あくまでも未確認情報だ。決して油断するな。コンビでの行動を徹底しろ」


 隊長のクリスはそう言っていた。

 クリスはまだ二〇代前半にも関わらず、魔法騎士隊の隊長を勤めるほどの才人だ。青色の髪の下にある顔はいつも優しげだが、任務のときはとても厳しくなる。


 若き天才。

 人々はクリスをそう褒め称える。


 リサはそんなクリスに早く自分の力を認めてもらいたかった。

 今、リサはひとりだった。彼女のパートナーはここにはいない。魔族の追跡中にはぐれてしまったのだ。


 本来であれば魔族には近づかないのが定石。

 だが、リサはむしろチャンスだと思った。


 自分の力だけで魔族を討ち果たせば――叱責は受けるかもしれないが、それ以上の評価が転がり込むのは間違いない。

 相手はたかだか下級魔族一匹。

 魔法騎士の力は普通の騎士のそれを凌駕する。


(……やってやれないことはない!)


 リサには自信があった。

 だからこそ、ひとりで虎口に飛び込むのだ。


「追い詰めた? 覚悟?」


 前に立つ女がくすくすくすと笑う。


「それってどういう意味かしら?」

「もちろん、そのままの意味よ!」


 リサは一気に間合いを詰め、剣を前に突き出した。

 刺突!

 ひゅっという音がして――女の姿がかき消えた。


「え!?」

「ここよ」


 女の姿はリサの頭上にあった。女は細い路地の壁に両手両足を突っ張ってリサを見下ろしていた。


(……わたしの刺突と同時に飛んだのか!)


 かわされたことは問題ではない。

 問題は、かわされた瞬間を気づけなかったことだ。


(なんてスピード……!)


 そうリサが思っているうちに女の姿がまたかき消えた。


「!?」

「後ろよ」


 リサが振り返ると、女が両手を広げて立っていた。


「おやおや。路地の壁を背負ったのはあなたみたいね。もう一度訊くわね? 誰が追い詰められて、誰が覚悟するのかしら?」

「お前だ!」


 リサは再び女に斬りかかった。

 だが、女の身のこなしは速い。リサがどれだけ剣を振るおうとかすりもしない。


(……そ、そんな!?)


 ぎん!

 金属音が響き渡った。女の手刀がリサの剣の腹を払う。あまりの圧力にリサは手から剣を落としてしまった。


「しまった!」


 剣を拾う暇は与えられなかった。

 女がリサの肩を両手でつかみ、壁に押しつけたのだ。


「あらあら、また訊かないとね? 誰が追い詰められて、誰が覚悟するのかしら?」


 女の声には嘲笑と勝利への確信が含まれていた。


「く……こ、このわたしが……下級魔族ごときに……!」


 悔しがるリサを見て、女が大笑いした。


「な、なにがおかしい!」

「あら、ごめんなさい。わたしの流した偽情報にだまされてくれたのがおかしてね。言っておくけど、わたし下級じゃなくて将軍級よ」


 女がさらっと言った言葉は、リサの心臓を突き刺した。


 将軍級――

 それは上級のさらに上。災厄級の力を持つ魔族だ。魔王直属のしもべであり、重要な作戦でなければ姿を見せない。

 そんな大物が、なぜこの都市に?


無貌むぼうのエレオノールっていうの。え? 顔はあるじゃないかって? そうね。でも、これは仮の顔なの。わたしの能力に由来していてね――発動条件が面倒なのよ。困っちゃうわよね。相手の身体に両手で触れたうえで、あることをするんだけど。さて、あることってなんでしょうか?」

「ふ、ふざけるな!」

「ぶっぶー。不正解。答えは――」


 瞬間。

 エレオノールがリサの唇に口づけをした。


「――ッ!?」


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