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そして、わたしたちの旅は始まった

 ノーマンが姫さまを救出した頃、中庭は中庭で大量発生していたレッサーデーモンが駆逐されていた。


 主にわたしのおかげで。

 ひたすらワンパンしていったから。


「くそ! 強いぞ、さすがは魔族だ!」


 そんな苦戦している騎士たちの中に割って入って――


「ふん!」


 ワンパン。ワンパンワンパンワンパンワンパンワンパン。


 おかげで騎士たちから「聖女マジ怖い」とか「ワンパン聖女」とか変な噂を立てられた。なんだか見る目も変わっていて、廊下ですれ違うと怯えた目つきで敬礼されるようになった。


 いやいや。

 聖気のおかげだから。聖気で殴ってるだけだから。

 なんか腕っ節が強いと思われてないか、これ?

 おーい、わたしはか弱い女子なんだが?


 そんな感じで騎士たちの心に『悪鬼のごとく強い聖女』という妙な心的後遺症を残しつつも、城内は平和を取り戻した。


 傷ついた騎士たちはわたしが治したものの――

 救えなかった騎士たちもいた。


「言い方は酷ですが……城内を攻められてこれだけの被害ですんだのです。お二人はよくやってくれました」


 姫さまはそう言ってくれた。

 だけど、わたしたちはそれでよしとしてはならない。わたしもノーマンも力を持っている。絶望を希望に変える力を。


 その力はひとりでも多くの人を助ける圧倒的な光。

 だから、わたしたちは安易に妥協してはならない。


 この程度の死者ですんだなんて言葉は――少なくともわたしたちは使ってはいけないのだ。

 次こそは、ひとりでも多くを救うために。


「城内に魔族が入り込んでくるのはよくあることなんですか?」


 わたしは訊いた。

 こんな状況ではおちおち旅に出られない。


「いえ、これが初めてです」


 姫さまの話によると、王都には複雑な防御魔法が仕掛けられていて、そう簡単には魔族が侵入できない造りになっているらしい。


 ではなぜ――?

 答えはすぐにわかった。


 魔族を呼び寄せた魔方陣が見つかったからだ。魔方陣の横には半分身体を食いちぎられたメイドの死体が転がっていた。彼女の身体を検分すると、魔族から魔力を与えられた際に刻み込まれる文様が見つかったからだ。


 おそらくはこのメイドが魔族にたぶらかされ、城内から魔族を召還したのだろう。


「まさか、城内の人間から内通者を出そうとは――」


 姫さまが沈痛な顔でつぶやく。


「あまり行いたくはないのですが、城内のものを定期的に調べるしかありませんね――」


 姫さまも戦っている。

 次こそは、ひとりでも多くを救うために。


 力あるものには――その義務があるのだ。


 こうして、戦いは終わった。

 まだまだ城内は混乱していて、やるべきことは山ほどあったけど――わたしたちは二日後に王都を出た。


 なぜなら城の復旧はわたしたちの仕事ではない。


 魔王を倒すこと。

 それがわたしたちの成すべきことなのだ。


「遠慮なさらずいってらっしゃいませ」


 そう言って姫さまは深々と頭を下げ――


「この世界をお頼み申します、勇者さま聖女さま」


 わたしたちを送り出してくれた。

 わたしたちは王都の門を抜けて外に出た。


 柔らかな草原が延々と広がっていた。草原の真ん中を貫いて整備された道が続いている。

 春の日差しは優しく、とても暖かだった。


「うーん」


 わたしは両腕を広げて伸びをした。

 これから長旅が始まる。


 さすがにスカートが長いシスター服で旅をするのは無理があるので、わたしは乗馬訓練と同じく布製の服とズボンをはいている。王国としては鎖帷子くさりかたびらくらいつけて欲しいらしいのだが、いかんせんわたしの体力がナメクジレベルなので辞退した。


 一方、ノーマンはごつい革製の鎧を着ている。こちらも王国からは重厚な金属の鎧を支給されたのだが、動きにくさをノーマンが嫌って革の鎧に落ち着いた。とはいえ、品質も設計も最高級品らしく、そこらへんの生半可な金属ものよりは防御力が高いらしい。


「いよいよ出発だね、ノーマン」

「そうだな……ところで、どこに行くんだ?」

「えーと、姫さまからは魔法都市グレイノールを目指すように言われていたけど」

「魔法都市……何のために行くんだっけ?」

「そこにすごく優秀な魔法使いがいて仲間になってもらうからでしょ。……って、あなたも聞いていたはずだけど?」

「え? そうだったっけ?」


 右耳から入って左耳からこぼれちゃったの?


「で、グレイノールにはどう行くんだ? この道を行くのか?」

「たぶん……」


 地図はもらったが――実はあまり自信がない。


 そりゃただの小娘ですからねえ……今までわかりきった狭い地域で育ってきましたからねえ。いきなり馬と地図渡されて大陸を移動しろって言われてもなー……。


 勇者と聖女、迷子になって行方不明。王国滅亡。


 うわー、その結末いやだ。もしもわたしたちの物語が小説だとして、人気が出なくて打ち切り判定を受けたらそんな感じで終わるかもしれないが。

 せめて、俺たちの戦いはこれからだ方式で終わりたいなあ……。


「よーし、いきますかあ……」


 自分でも引くくらいテンション低!

 うわーむっちゃ不安……。


 そんな微妙な気分でたたずんでいると――


「いいガイドがいるんだが、どうかな?」


 突然、背後から声がした。

 振り返ると見覚えのあるイケメンが立っていた。


「風の騎士――ヴィーガスさん?」


 乗馬訓練で教官を務めてくれたヴィーガスが立っていた。以前のような平服ではなく、ガチガチの金属鎧プレートアーマーに身を包み、腰に長剣を差している。


「やあ、久しぶり」

「お久しぶりです……え、ガイドって、同行してくれるんですか?」

「ああ。姫さまからの仰せでね。もともとあの乗馬訓練で俺が教官を務めたのも顔合わせも兼ねてたんだ」

「そうだったんですか」


 部下に押しつけられたとか言っていたが、あれは適当に言った冗談か何かなのだろう。


「どこに行っても面倒な手続きがあるんだよ……君たちだけ行かせるのもね。外の世界や仕組みにくわしい大人がいたほうがいいときもあるのさ。大人は頼れるんだぜ?」

「だけど、風の騎士と言えば王国最強の四騎士ですよね? わたしたちについてきていいんですか?」


 ガイドだけなら普通の平々凡々な騎士でいいような気もするが。


「君たちだからこそだよ」


 ヴィーガスさんが何を言うんだ、という感じで笑う。


「魔王に対抗できるふたりだ。護衛も最上級の人間をつけたい、そういうことだ」


 つまり姫さまからの期待の表れ――

 そういうことだ。


 それにわたしたちが魔王の打倒を考えるように、魔王もまたわたしたちを排除しようとするはず。当然、その旅は危険に違いない。王国最強の騎士でなければ同行者としては不足だろう。


「わかりました。では……よろしくお願いします」

「うん、よろしく。ノーマンもね」

「はい、こちらこそです」

「剣術も教えてやるから」

「え、ホントですか!?」


 ノーマンがぱっと顔を輝かせる。

 男の子ってそういうの好きねー。


「じゃ、そろそろ行こうか」


 ヴィーガスさんが馬にまたがる。

 わたしたちも彼にならい馬に乗った。


「よし、行くぞ! 魔法都市グレイノールへ!」


 そう言って、ヴィーガスさんが馬を走らせた。

 わたしとノーマンは顔を見合わせた。どちらともなく一緒にうなずき同時に馬の腹を蹴る。


 打倒するは魔王。

 成すべきは世界の平和。


 わたしたちの旅は――こうして始まったのだ。


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