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思いつき短編集

白いノートの考察

作者: 神達 万丞


 俺は本を手にいれた。

 入手した経緯については大したことではない。

 買ってはいない、貰ってもない、となれば第三の選択、進行方向に落ちていたというのが正解だ。なので、倫理的かつ道徳的に述べてパクってはいないし、ましては製作なんて面倒なことをする暇人でもない。


 拾った本には何も書かれていない。無論無字。どんなにめくっても白い原野を無限ループするだけだった。表紙は黒いが手帳にしては大きい。これは世に言うただのノートだろう。だからB5、横線が入っているスタンダードタイプでも別に不思議ではない。縦横の違いはあれど、俺のYシャツのラインとお揃いなのは好感が持てた。


 さて、このノートの処遇だが、俺は真面目ちゃんじゃないから交番に馬鹿正直に届ける義理もないし、かといって、人通りが激しくなってきたので、元の場所に戻す必要性もない。一番良いのはごみ箱にポイだ。だが、おばぁの英才教育の賜物か、勿体無いスペルが発動、頭を駆け巡って手が硬直状態に陥る。第一、伐採された木の霊に祟られるかもしれない。


「……」


 ノートといえば、もしこれが何でも望みが叶うとか、人がやたら死ぬとか、未来が鮮明に書かれているとかだったらどうなんだろうか。

 ……と、対処に困惑した俺は現実逃避を試みる。


 知っていれば迷わず取るか、取らないか……、は難しい質問だ。

 

 馬鹿らしいが何事もやってみなくては結果は分からないのが人生だ。失敗は成功の母、占いは新宿のマム、然らばあるがままに進むしかない。シュレディンガーの猫って奴だ。

 サンタクロースを信じなくなった封印済みの好奇心が胸元辺りをくすぶった。

 だったら試しに書いてみたらどうだろうか。……何を? 別に恨んでいる人間もいないし、未来知っても仕方がない。でも、願いが叶うとなれば少しは触手も動く。


 胸ポケットから取り出した仕事用のボールペン。無論油性だ。こだわりの0.5を愛用。俺の力加減だとここら辺が程よい文字を書きこめる。太くなるとホラー系になりかねないので、いちいち卒倒しないで済む。


 恐る恐る手先のスティックを使い、漆黒のインクで白紙に刻んだ。


 時間経過。


「……」


 いつの間にか辺りは一日二回、一、二時間限定で垣間見る事が可能なオレンジ色の異世界。つい童心に返ったせいで影法師に犬が投影される。

 予想通りだが、時間が経過しても何も起きなかった。


 そう、これではっきりしたことがある。回収したノートはただの何の変哲もないノート。考察の末に下した結果だ。それが解っただけでも良かったとも言える。行動しなかった事に対して後悔するよりましだ。

 なので、出会い頭の突風に持っていかれたノートが畑の焚き火に飛び込み自決した事も詮無いかな。


 ――後日、ふと気付くと、俺の純白Yシャツのお気に入り縦ラインに、ヒーローになりたいと書かれてあった。

 



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