第三糞
私は中村次郎と申す者で候。運動が少々苦手でござるが、勉学には自信があるで候。しかし、勉学に没頭するあまり座りっぱなしが響いたのか、肛門に大病を患っているでござる。
今、鰤便高校では一学期期末試験の真っ最中でござる。それでも国立東京鰤鰤大学を志望する私にとって、さしたる関門ではないのでござる。
しかしながら、私は危機的状況に瀕しているのでござる。なぜかと言えば、便意が押し寄せているからでござる。
便所を申告すれば良いのだろうが、戻っても再試験は受けられないので候。
そして、我慢をすればするほど肛門へのダメージが大きくなるで候。すでに、痛みが増しており、状況は刻一刻と悪くなっているのでござる。
私は得意の数学と物理で必死に考えるのでござる。行列を使った肛門にかかる応力計算と、微分積分を駆使したデッドラインの計算。
(だめでござる……これはあと十分ももたないでござる)
私は尻をもぞもぞと動かし延命措置を講じるが、焼け石に水でござる。若干、周囲からも不審の目で見られ始めたでござる。
このままでは、肛門が引き裂かれるか、第二のストゥール池谷になってしまうでござる。それは何としてでも阻止しなければならないのでござる。
残された道はただ一つ。やるしかないのでござる。
(あと数分でこの試験をクリアしてみせるでござる!)
私の思考は光速を超え、問題を捌く手指は神のごとき早さを見せる。
(やれるでござる!)
見えてきた光明に、ラストストスパートをかけた。
(これで……終わりでござる!)
私は最後の一問を解き終えると、そっとペンを置いたでござる。
「先生、トイレに行きたいです」
やり遂げた。
私は心の中で栄光と共に拳を天高く掲げたのでござる。
しかし、中村は気づいていなかった。教室から便所に向かって点々と滴る血痕に。ドン引きする女子たちの視線に。
だが、中村が真実を知ることはなかった。二名のテスト監督の内の一名が同じく痔持ちだったからだ。痔の苦しみを知る教師は中村を気遣って、すぐさま雑巾で血痕を拭いて回った。
のちにこの事件は「血の期末テスト」として密かに語り継がれていくことになるのであった。