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暗い森を抜けるには

ボロボロになった状態で人1人背負ってから移動するのは

ひ弱な俺には辛いな…あぁ、もう少し力があればなぁ。

いや、でも、同じくらいの身長の子を運べるんだし

それなりの力はあるのか…でも、なんか足がキツい。


「はぁ、移動…辛いな」


少し傷も痛み出してきたし、1人で来るのは無謀だったか。

だが、アルル達に助けを求めると考える余裕は無かった。

俺は焦っている状況では冷静な判断力を失う。

それは分かっているのだが、直すのは難しい。


「……」


ち、助けを求めた方が良いか、だが、どうやって?

こんなに距離があるのにどうやってあいつらを呼ぶ?


「…考えないと」


距離があってもあいつらを呼ぶ方法、そんな事を

少し考えただけで出てくるとも思えないが

考えなければ確実に出て来ないからな。

だったら、考えるしか無い。


「…お、お姉ちゃん」

「ん!?」


色々と考えていると、耳元から弱々しい小さな声が聞えた。

まさか、起きたのか!? 目が覚めたと!?


「ウィン! お、起きたのか!?」

「お姉ちゃん…私…頑張った、から」

「ウィン!」

「…私、を」


……どうやら、寝言みたいだな、だが、寝言でもこの事を言うのか

そんなに……なんか、キツく当たったのが申し訳ない。

しかしなぁ、今更なんだけど、こいつを妹だと認めると言う事は

こいつの母親である、あの女の事を自分の母親だと認めるような物だ。

…だが、まぁ、そんな事はどうでも良い、仮に認めたとしても

所詮俺を生んだだけの人、親じゃない、血の繋がりなんてどうでも良い。

子供に認められない生みの親なんて、子供からして見りゃただの他人だ。


「…ウィン、絶対に助けてやるからな…姉としてよ」


内面的には兄だけども、それでも、こいつからすりゃ、俺は姉

何だか、少し複雑な気持ちだけど、別に良いだろう、今更だ。


「しかし、この距離、どうやって…」


城が見える位の場所には来た、邪魔な木々はないし

綺麗に城が見える場所…だが、距離が開きすぎている。

この距離じゃ、どう考えても光りは届かないだろう。


「あ、そうだ!」


良いことを閃いた、考えてみりゃあ、俺の力に距離は関係ない。

だったら、この距離からも呼ぶことは出来るはずだ。

だが、ウィンを背負ったままじゃ、ちょっと難しい。

ウィンには少し悪いが、少しの間、地面で眠ってて貰おう。


「よし」


俺はウィンチェスターを取りだし、城の方を除いた。

いつも自分達が飯を食う部屋…残念ながらそこにあいつらはいない。

その代わり、美味そうな飯が手付かずで放置されていた。

なんで手付かずなのか、それはすぐに理解できた。

あいつらは全員が揃わないと飯を食わない、今までもそうだ。

で、今は俺がいない、で、あの部屋に誰も居ないとなると

ほぼ間違いなく全員で俺を探している。


「…あそこで待っててくれれば楽だったんだがな」


あの場所に全員が揃っていれば、すぐに助けは呼べた。

だが、運の悪いことにあの場所に誰も居ない。

いや、運が良い悪いじゃ無いか、分かってたことだ。

飯の事をアルルが言いだして、俺は部屋から飛び出す。

で、俺は2時間以上この場所をうろついてた。

出た時間は7時、で、2時間うろついたんだし、今は9時だ

もしかしたら、10時かもしれない。

…そりゃあ、全員総出で探す事だろう。


「……とにかく探そう」


狙いを城から街に移すが、城壁が邪魔で殆ど見えやしない。

見えるのは城壁外のスラム街か。


「見付かりゃあ良いけど」


その場所を必死に探してみたが、アルル達の姿は見えない。

まだ城壁内の捜索をしているという感じか。


「何処に居るんだよ」


やはり城壁内を見れなきゃ、どうしようもないという事が分かった。


「場所を移動するか」


急いでウィンを寝かせた場所に戻り、移動することにした。


「あ…お、お姉ちゃん…」

「ウィン、お前起きて」

「お、お姉ちゃん、ほ、ほら、こ、これ」


ウィンは少し震える手を伸ばし、俺の方にひまわりの花を向けた。


「私…が、頑張ったよ…」


ウィンが殆ど動かせないはずの体を無理矢理引きずって

笑顔のまま、ゆっくりとこちらに這いずってきた。


「こ…れで、み、とめて…くれるんだよね…

 これで…一緒に、お、お姉ちゃんと、わ、らえるん…だよね?

 う、れ、しいな…」


ウィンは少し涙を流している…あぁ、なんでかな。

こう言うときに、なんで体は動かない?

今すぐに駆け寄りたい、そんな衝動に駆られてはいる。

だが、どうしてもそれが出来ない…何故か分からない。

何だか悔しい気分だ。


「い…しょに…私は…」

「ウィン」

「あ」


俺はゆっくりとウィンに近寄り、手に持っているひまわりを受け取った。


「…ありがとうな、ウィン…あぁ、認めてやるよ

 一緒に笑ってもやる、これからずっとな」

「お、ねえ…ちゃん」


ウィンが俺の姿を見て、更に涙を流した。

なんだ? そんなに嬉しかったのか?


「なんで…そんなに、ぼ、ろぼろ…なの?」

「え? そ、そこ?」

「もしかして、わ、たしの…せいで…」

「……妹のために命を賭けるのは当然だろ?」


何て事は無い、当たり前の様に答える。

そりゃそうだ、俺にとっては当たり前なんだから。

妹のために命を賭けるのはな。

それに、こんな状況になったのは、完全に俺のせいだ。


「それよりも、お前」

「う、うわぁぁ!」

「な!」


ウィンの事を言おうとすると、不意に強く抱きしめられた。


「ご、めんな、さい、私が…こんな」

「い、いや、お前は」

「だから、き、らいに、ならないで!」

「…はん、そんな事で嫌いになるかよ」

「でも…お母さん、は」

「あんな女と一緒にすんなよ? 俺は今、自分の怪我なんかよりも

 お前がなんとか無事だった事が嬉しいんだから

 …悪かったな、お前にこんな無茶させて」

「お、ねえ…ちゃん」

「後は、俺に任せてくれ、ちゃんと連れ帰ってやるよ」

「…う、ん、ありがとう、ありが、とう…」


何回も何回もお礼を言った後、彼女はゆっくりと眠りに付いた。

……よし、さっさと妹のためにも帰る方法を見付けよう。


「とにかく高いところに向うしか無いだろうな」


城壁無いが見えるほどに高い場所を目指すしか無いよな。

そして、何とかしてアルルを見付ける、これしか無い。

あいつを見付けることが出来れば助かることだろう。

だが、もし見付からなかったら結構キツい気がする。

まぁ、なんにせよやるしか無いんだ。


「下山するために、むしろ逆に山を登る事になるとはね」


俺はそろそろ限界に近くなってきた自分の体に鞭を打ち。

ウィンを背負ったまま山を登った。

はぁ、結構しんどい…それでも、ここなら見えるはず。

だが、見える場所は限られるし、仕方ない、木の上に登ろう。

当然ながらウィンを背負ったままで登れるはずも無いし、降ろしてだが。


「ほ…っと、ち、力がいるな、後、りきむから傷が…」


でも、登ればより確実に救援要請が出せるはず。

大丈夫だ、木登りならフレイに振り回されたときに何度もやった。

まさかあの経験が役立つとは思わなかったがな。

やはや、人生何が役に立つか分からねぇもんだ。

現に英語の勉強とか役に立つからとか言われてたけど

俺にはなんの役にも立たなかったしな。

で、役立たないと言われてたゲームは今スゲー役立ってる。

ゲームの経験のお陰でこの世界で生きていけてるわけだしな。

後、社会とか、戦術やら作戦やらも社会のお陰だし。

やっぱ、何が役立つかなんて分かりゃしないもんだね。


「よしっと」


さて、なんとか木の上に登れたぞ、体重が軽いから

木の枝も折れないし、意外と良いところもある物だ。

木を登れたのも、多分体重が軽いからなんだろうな。


「さっさと見付けねぇと」


すぐにウィンチェスターを覗き、城壁内を探した。

城壁内では何人かの兵士が慌ただしく周りを探している。

多分、あいつらは俺を探しているのだろう。

これでも結構重宝されてるからな、俺は。

そんな奴が消えたとなりゃあ、大騒ぎだろう。


「い! 見付かったか!?」

「いえ! 見付かりません!」

「ひまわりは!? リオさんの育った孤児院だ!」

「捜索しましたが知らないと! 

 ただ火種を持った人物が居たので拘束しました!」


ひ、火種を持った人物? え? 何? もしかしてひまわり狙われてたの?


「誰だ? もしかしたらそいつが何か知ってるかもしれない、連れてこい」

「この女です」


兵士は拘束したという女を連れてきて、隊長と思われる人に見せた。

その女は…ウィンの母親、俺の自称母親だった。


「…なん」

「おい貴様! 何故火種を持ってひまわりに居たんだ!?」

「あのクソガキを後悔させる為よ! あの子、私を馬鹿にしやがって!

 子供の癖に! 子供の癖に! だから、大事な場所を奪おうと!」


……ま、マジか、逆上してひまわりを燃やそうとしてたのか!?

クソが…殺しておいた方が良かったんじゃ無いかと思ってしまった。

だが、不幸中の幸いという奴か、俺が消えたことにより阻止されたと。

運が良いのか悪いのか分かりゃしないな。


「…貴様、リオさんの場所を知っているのか!?」

「あぁ、あのクソガキ? 知りゃあしないわ、あんな子」

「監禁しているのでは無いのか!?」

「監禁していたら、こんな場所にいやしないわ!

 あの子の調教で忙しかったでしょうしね!」

「貴様、何をしようとしていたんだ?」

「女として育てて、従順な女の子にしてやろうとしてたのよ」

「…貴様は何故その様な事をしようとしているんだ?」

「あの子は私の娘よ! どうしようと勝手でしょう!?」

「何を馬鹿な」


もう救いようが無いな…まぁ、どうでも良い。

あんな奴、捕まって当然なんだから。

それよりも速くアルルを探さないと不味い。

そろそろ空腹も限界だし、喉も渇いてきた。

集中できないと魔法は使えない、ただでさえ痛みで集中力もあまり無いってのに

そこに空腹の喉の渇きなんてきたら最悪魔法を使えなくなっちまう。

そうなったら八方塞がりだ、だから、出来れば早く見付けたい。


「…絶対に見付けないと、この行動は俺の命だけじゃ無い

 あいつの命も掛かってるんだ、のんびり出来やしない」


すぐに城壁内を探した…すると、ようやくアルルと思われる影を見付けた。


「あれは!」


俺はすぐにその影に照準を合わせ、顔を確認することにした。


「んで何処にも!」

「アルルさん、そちらは居ましたか!?」

「いえ、やはり城壁の外では?」

「しかし、門番は見ていないと」


……そう言えば、こっちに来るときに門番居なかったな。

休憩中だったのか? もしくは便所にでも行ってたのか?

どちらにせよ、妙なタイミングに飛び出してしまったな。

そのせいでこんな状況になったのか。

門番が俺を見ていない、となると城壁から出ていない。

だから城外の捜索は無し、城内だけでの捜索と。


「ま、不運にもこんな事になったが、今は幸運だ」


2人の足下を狙い、引き金を引いた。


「な!」

「地面が抉れた? これは!」


どうやら分かってくれたようだ

俺はすぐにウィンチェスターを変え

M16に変化させ、タクティカルライトをカスタマイズした。


「多分何処かで私達を呼んでますわね」

「…銃声はしませんでした、あの大きな音、近場なら聞えるはず

 だから近くには居ない、少なくとも城壁内には

 で、城外から私達を見付けるには結構高い場所じゃ無いと無理

 つまり周囲の山の何処か…で、リオさんの事です

 多分明かりか何かで私達に自分の場所を教えてるはず…」


アルルが普段からは想像も出来ないほどの素早い推測で

俺の取ってる行動を見事に言い当てやがった。

場所だってすぐに目星を付けた感じで

周りの山を見渡している。


「……あ! あそこです! あそこ! 明かりが見えますよ!」

「ど、何処に…あ!」


良かった! 見付けてくれたぞ! こっちを指差してる!


「リオさん! リオさんだったらもう一度攻撃を!」


山で光りを発してるんだし、俺以外にあり得ないだろうに。

でもまぁ、言われたことはやろう、と言うか、呼びかけたって事は

あいつ、俺が自分達の会話を聞いてると察したらしい。


「何を言ってるのですか? この距離、聞えるはずが」


まぁ、やってやろう…とりあえず、もう一度地面だな。


「お!」

「な! さっきと同じ痕が!」

「やっぱりリオさんです! 行きましょう!」

「え? しかし、何故声が聞えたのですか!? なんで!?」

「リオさん、距離関係無しに狙った場所の会話が聞けるんですよ」

「べ、便利な魔法ですわね!」

「えぇ、さぁ、急ぎますよ!」


2人は周りに俺の場所を話した後、すぐにこちらに向かってきてくれた。

はぁ、よ、良かった…これでなんとか。


「ふぅ…おっと」


木から下りると同時に、すぐにクラッときて

俺もウィンと同じ様に木にもたれ掛かった。


「……あぁ、やっぱ、もう限界っぽいな」

「お、姉ちゃん…」

「なんだ? お前、起きてたのか?」

「大きな音が…して」

「あぁ、起しちまったのか…悪いな」

「…ねぇ、お、姉ちゃん」

「なんだ?」

「お姉ちゃん、も、動け、ない?」

「多分な、殆ど動けない」

「…じゃあ、私達…このまま死んじゃうかもね…

 でも、私は…それでも、良いの…お姉ちゃんと一緒なら

 私…死んだって良いから」


なんだってこんな縁起でも無いことを言うかねぇ。


「死にゃあしないって、俺に任せろっていっただろ?

 お前の姉は無謀ではあるが、無能じゃ無いんだから」

「でも…」

「大丈夫だ、俺には馬鹿な連中が付いてる、当然俺の妹になった

 お前にも、俺と同じ連中が付いてるんだ、だから、信じろ」

「……うん、信じる、私、お姉ちゃんを、信じるよ」

「ん?」


指先に少し暖かい物が触れた、どうやらウィンの手みたいだな。


「お、姉ちゃん…」

「…はいはい、分かったよ」


その手を俺はゆっくりと掴み、手を繋いでやった。

少し暖かい。


「お姉ちゃんの手…暖かい…」

「よく言われるよ」

「えへへ…嬉しい…な、ずっと、お姉ちゃんと

 おてて、繋いでみたかったの」

「…そうか、ま、これからは繋いでやるよ」

「凄く嬉しいよ…」


そんな何でも無い会話をしばらく続けていると急いで飛んできた

アルル達が俺達を見付けてくれた。


「リオさん! 見付けました!」

「あぁ、ようやく来たか…」

「リオさん…本当に、無茶は止めてくださいよ!

 何回言えば分かるんですか!? し、死んだら、ど、どうするんですか!?」

「悪いな…焦ってたから、お前に言うのを忘れて」

「こう言う時に呼んでくれないと、私達がなんの為にいるか分からなくなりますよ!」

「アルル…本当に、ごめん」

「でも、リオさんが無事で…良かった!」


アルルは珍しく俺をこっぴどく叱ってきたが

それでも最後は泣きながら抱きしめてきた。


「アルル…」


普段なら無理矢理引き剥がすのだが、今回はそんな事は出来ない。

反省してるからか、はたまたただ単に力が無いからか。

どっちかは正直自分でも分からないけど。

ただ妙に安心したのも分かった。

多分これが振り払わない理由…だと思う。

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