妹を探して
急いで花屋さんに聞いたあの場所以外に
ひまわりが咲いている場所に来たが。
どうも周りが暗くて森の中に入るのを躊躇う。
だが、入らねぇとあいつを見付けることが出来ない。
正直、何時間も出て来てないってなると結構ヤバい気がする。
ほぼ間違いなく迷ってるだろう…見付かってくれよ。
「…よし」
俺は狙撃銃にタクティカルライトを付けて周囲の捜索を始めた。
野生の動物が居て、襲ってこないとも限らないし、すぐに攻撃する為にも
狙撃銃は装備しておきたいからな。
「ウィン! いるか!?」
……まぁ、分かってたことだが返事は無い…やっぱ探しだしてすぐ発見は無いか。
それにここに来ているとも限らない…個人的には来てない方が良い。
それなら、俺が無駄足になるだけだ、それだけなら大した事は無い。
だが、もしもここに来て、迷っているとするなら最悪……
ち、そんな事は良いか! 探すしかねぇっての!
「ウィン!」
何度も大声で呼んでもウィンの返事は無い…やはり来てないのか?
しかし、何でかなぁ、呼んでも無いのに
「ぐるるるる…」
要らない客は来る…なんでこんな野生動物が居るんだよ!
狼か? それともただの野犬か? どっちにせよ
殆ど犬だろ! クソ! あぁもう最悪!
なんで犬とか大っ嫌いなのに何かと犬に襲われねぇとなんねぇんだよ!
「冗談じゃ無い! 何でまた犬っころなんだよ!
まだライオンとかトラの方がマシだ!」
「ぐらがぁ!」
冗談じゃ無いぞ! い、一斉に! だけど、こっちにはライトがあるんだ!
俺は急いで目の前の狼の目にライトを当てた。
「ぐぐぅ」
目の前の狼はそのライトで目眩ましされ、こちらを殆ど見られない。
そのすきに急いで正面突破でこの場を走り抜ける。
「ぐるるぅ!」
「なんで追いかけてくるんだよ!」
なんでこんな目にばかり…クソ、子供の足じゃ逃げ切れない。
なら、やるしか無いだろうよ…出来ればやりたくないけど。
俺は走りながらVSSの召喚を行なった、意外と走りながらって大変だ。
ただでさえ召喚しにくいフルオート型の狙撃銃だってのに
更に走りながらだからな、かなりしんどいが。
「ぐがぁ!」
だが、追いつかれる前に召喚することは出来た!
「この! 眠ってろ!」
俺はすぐに後ろに振り向くと同時に後方に飛び
飛びかかってきた狼達にフルオートで非殺傷の弾丸を浴びせた。
結構反動が大きいが、それでも狙えないことは無い!
「キャウン!」
俺の撃った弾丸は10発ほど、その10発の内、当たったのは8発。
後方に飛び退きながらのフルオート狙撃でここまで出来りゃあ、上出来。
「あだ!」
でも、後方に飛び退いて撃ったせいで、後頭部を強打した。
い、いたい…石とか無くて良かった。
「キャン!」
狼達はものすごく間抜けな鳴き声を開けながら、散り散りに逃げだした。
ふ、ふぅ、なんとかなって良かった…しかし、頭痛い。
いや、そんな事はどうだって良いか、自分の事だし。
だが、この狼達を見たせいで心配事が増えちまった!
あいつ、襲われてないだろうな!? 喰われたりしてないよな!?
あー、クソ! なんだってこんな! お、俺が…あんな事言わなきゃ!
「…クソ! ウィン! 聞えてるんなら答えろ!」
返事は無い…何処からも聞えない、ここじゃ無いのか?
ここじゃ無いならそれはそれで構わないがよ!
「ウィン!」
俺の大きな声が山の中を反響する…返事は帰ってこない。
……やはり、いないのかもしれない…だったら、別の場所を。
「あ!」
足下がいきなりズレ、一気に落ちそうになったが
なんとか近くの木に掴んで落下は免れた。
あ、危なかった…あと少し反応が遅れてたら崖から落ちて…が、崖?
もしかして、あいつ…俺は足下にあった木の方に滑り
その気を足場にして周りをタクティカルライトで照らしてみた。
「もしかして、落ちたんじゃ…」
可能性は十分ある、こんなに遅いんだ、動けない理由がある筈
その理由で1番考えられるのは崖での落下。
周囲は暗闇だし、それにここは山だ、早い内から日も沈むだろう。
ここの情報を知り、ひまわりを探している間に日が暮れ
足下が見えなくなり落下したという可能性は十分考えられる。
何せ、あいつは俺みたいに鍛えてないし、明かりも無いんだ
そんな奴が暗闇でこんな場所を歩けば、足を滑らせて落下するだろう。
…出来れば、この推測は当たって欲しくないが。
「見えないか」
これ以上は上に戻れなくなる可能性があるから下れないか。
ここはひとまず一旦上に戻って…ん?
「あれは…」
目をこらして暗闇をスコープでよく見てみると、人影のような物が見えた。
恐らくあれはウィンだ! ハッキリと見えてるわけじゃないが、ほぼ間違いなく!
やっぱり落ちていたのか! クソ、待ってろよ、今すぐいくぞ!
「っと、っと、いだ! くぅ…っと」
やっぱり崖を生身で降りるのはキツいか、結構怪我をする。
木の枝とか多いし…面倒くさいな。
だが、大した傷じゃあ無い、これでも修羅場は潜ってきたんだ。
腹に刃物刺されたり、骨折ったり、大量出血、頭強打したり
腹から大量出血したり…うぅ、お、思い出しただけでも痛い。
まぁ、そんな怪我と比べりゃ、大した事ねぇよ、所詮切り傷だ。
と言っても…じ、地味に痛い、デカい傷とは違ってじわじわくる。
ま、命に別状が無いんなら、なんてこたぁねぇよ。
「よし…ち、腕と足が傷だらけだ、腹も少し切ったし、地味に痛い」
あぁ、ちょっと熱いからって半袖半ズボンで来たのは失敗だったな。
結構怪我をした…色々と急いでいたから着替える暇は無かったしよ。
「まぁ良い、ウィン!」
ウィンが倒れていると思われる場所に走って行くと
そこには何匹かの野犬が周りを囲んでいた。
「……」
だが、ウィンはそれに反応していない、気絶しているのか!?
不味いぞ…このままじゃ、ウィンが…だぁ、もう! 面倒くさい!
今更野犬にビビってどうするよ!
「おらぁ! クソ犬共がぁ! そこから離れろ!」
「ばう! ぐるるぅ、がうあぁ!」
俺が威嚇したからか、野犬たちは一斉にこちらに走ってきた。
それで良い…これでウィンから離れさせることが出来る。
だが、問題はこの状況…野犬の数はかなり多い。
正直、狙撃魔法で殲滅しきれるか分からない
逃げることなら出来る、さっきだってそうしたし。
だが、逃げる事は出来ない、逃げたらウィンの方に
別の野犬が来るかもしれない、だから、殲滅しか無い。
しかし、距離が近く、俺では圧倒的に不利。
だが、やるしか無いだろう…
俺は回避しながら時間を稼ぎワルサーWA2000を召喚し
非殺傷に切り替えた。
この銃はセミオートでも結構な狙撃能力を持つし
個人的にはそれなりに持ちやすい印象もあるからな。
現に召喚した今、結構持ちやすいと感じている。
「この!」
俺が引き金を引くと、森に銃声が響き渡った。
さっきはVSSだったから、大した音は出なかったが
ワルサーWA2000に消音機能は無い。
だから、森にはデカい銃声が響き渡る。
これで周りの動物を刺激したりしなければ良いが。
「ぐるっぅあ!」
普通近くで馬鹿でかい音がすれば動物は逃げると思うが。
この野犬たちはむしろ興奮し、何匹も飛びかかってきた。
その数は5匹、5匹ならまだ…!
「大人しくしてろ!」
引き金を何度も引き、5匹の野犬の内3匹は倒せた。
しかし、残りの2匹を倒せる程の早撃ちは出来ない。
「いった!」
野犬の内、1匹は俺の足に、もう1匹は左手に噛み付いてくる。
クソ痛い…ち、血が出て来た、なんか変な病気持ってそうで怖い!
でも、今更ビビっても!
「うらぁぁ!」
まずは足下の1匹を右手で持った狙撃銃で眠らせる。
次は左手のこいつ、しかし、強く噛み付いてきているから
剥ぎ取るのは結構大変そうだ。
「は、離れろ!」
「ぐが!」
激しく手を振っていると、その野犬は腕を放したが
着地と同時くらいにこちらに向けて飛んでくる。
「うわぁ! こ、今度は肩!?」
狙いはどう考えても首筋だったのだろう。
だが、ギリギリでなんとかそれだけは回避出来た。
もし首筋に噛み付かれたら、死んでた。
しかしヤバいのは変わらない、こんな状態じゃ狙えない。
「ぐるる!」
「う…くぅ、た、ただのや、野犬に…こんな」
1人の時に接近されちまうと、ただの野犬にさえ苦戦しちまうか。
俺の狙撃魔法の弱点は間違いなくそこだ…接近されると弱い。
長距離なら無類の強さだが、接近されると弱体化する。
すぐに狙いを定められないわけでは無いが
数が多いと今みたいに押し切られる。
俺は力があるわけじゃないから、捕まると逃げ出せないし。
本当に……面倒だな、せめて拳銃があれば。
「は、離れろぉ!」
手で無理矢理引き剥がすと、野犬は離れてくれた。
だが、今度は間違いなく首を狙ってくる。
さっき見たいなまぐれ回避は出来ないなだろう、だったら!
「ぐがぁ!」
野犬が狙ってくるのは首根っ子、そこさえ分かってりゃあ
どうとでも出来る、あいつの体格と俺の体格で
首根っ子を狙うとすれば飛ぶ高さも分かる。
どのタイミングで俺の射線上に入るかだって、分かる!
「そこ!」
俺は狙撃銃を構え、丁度射線に入ったところで引き金を引いた。
俺が引き金を引くタイミングに射線からズレてないなら
この弾丸を避けることは不可能だ!
「きゃう!」
狙い通り弾丸は野犬の眉間に直撃、野犬はすぐにその場に倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、い、いたた…くぅ、肩と足と腕…結構噛まれたな
血も降りるときにかなり出たし、これはキツい」
なんにせよ撃破は出来たんだ、よし、急いであいつを運ぼう。
結構痛む体を引きずり、俺はウィンが寝ていた場所に移動した。
そこで寝ているウィンは体中がボロボロであり
服もかなり破れている、足も顔も腕も傷だらけ。
頭からは少し血も出てる…だが、呼吸はしてるし
当然心臓の音も聞える、生きてる。
「……はぁ、良かった」
何よりも驚いたのは手に大事そうに持っているひまわりだった。
体中はボロボロだというのに、ひまわりの花だけは
妙に綺麗なままだった。
崖から落ちたときには恐らくもうすでに持っていたはずだろう。
それなのにひまわりだけは無傷…その代わり、大事そうに抱えている腕は
傷だらけ…ひまわりの花を守る為に自分の体を犠牲にした、そう考えるしか無い。
そんな事を誰も見ていない状況で
金しか考えてないような詐欺師がするわけが無い。
……あぁ、そうか、そう、なんだろうな…信じれば良かった。
「……はぁ」
意識を失っているウィンをゆっくりと抱き上げ、背負った。
うわぁ、結構重たいぞ、じゃあ、俺はウィンを抱えたままこの崖を上がるのか?
結構俺もボロボロなんだけどな…でも、いくしか無いだろう。
「しょ、しょ、うっつぅ…」
なんとかこの崖を背負ったまま登りきることが出来た。
にしてもウィンの奴、崖を登っている間にもひまわりは離そうとしない。
意識を失ってもこの花だけは守ろうとしていると分かる。
本当に…馬鹿な奴だ。
「よしっと…い、痛ぇ」
な、なんとか登りきったが、どうも痛みが増してきたな。
さっさと帰らないと歩けなくなりそうだし、急ごう。
でも、痛くてもまだ安心出来るから大丈夫だ。
耳元で聞えてくる寝息、これはウィンがまだ生きてる証拠。
それが分かるだけで、一安心という奴だな。
はは、自分よりも他人の心配をするのはいつも通りだが
今日はいつも以上に嬉しいよ。




