最悪な再会
ひとまずあのやり取りの後、俺達は城に戻り
ウィングとフランの手当を頼んだ。
2人は結構大きな怪我だったが、命に別状は無いらしい。
それでも痛い物は痛いだろうが、でも、死にはしないなら良かった。
「大丈夫そうだって、安心したね」
「そうだな」
俺達はひとまずは一安心して、出されたお茶を飲み干し
各々、自由に時間を潰すことにした。
と言っても、俺はやることはあまり無いんだよな。
とりあえず書き物でもするか? でも、仕事あったっけ。
俺は最高幹部クラスの立ち位置ではあるにせよ
子供だからと戦争以外の仕事はあまり来ない。
一応はあるんだけど、他の幹部と比べれば少ない方だ。
まぁ、統括している兵士の数が違いすぎるから当然ではある。
別に兵士達の訓練を決める必要は無いし、給与の管理も要らない
兵士達の不満を集めようとしても、あいつらにそれはない
だって、一緒に遊べたらそれで良いよ? とか言うし
アルルはリオさんラブラブなので、一緒に過ごせるだけで最高ですよ
あ、わがままを言えば、結婚してください、だったし
当然その後軽くお灸を据えた、こんな感じだから誰も不満は無いらしい。
嬉しくはあるんだけど、やることなさ過ぎて毎日がお休みって感じだ。
それは良いことなんだろうけど、何だか何か足りない気がするんだよなぁ。
「うーん」
他には…兵士の増員か、でも、それはしばらくは無いから問題なし
予算の管理は一応してるけど、予算多すぎて溢れてる現状。
だって、必要経費とか殆どねぇし、武器の手入れも必要ない。
武器も人数少ないから殆ど要らないし、そもそもウィングが武器を出せる。
消費する金額は精々毎日の食事代位だろう
各メンバーの給与は国が直接渡してくれるから経費から使うことは無い。
強いて出せば、ベットとかの睡眠器具や家具、長期遠征用の道具くらいか。
だが、睡眠器具はボロボロでも平気な俺達、長期遠征用の道具は欲しいけどな。
後は気温を管理する装置だ、これがあれば普段生活もかなり楽なんだけど
こう言う道具って、気が付いたら部屋に付いてたりして、買う必要ないんだよな。
あ、そろそろ小さな戦士達用の馬車を買った方が良いかも
移動手段だ、今までは貸し出しだったけど
経費も溢れてるし買っとこ、十分買える値段だしな。
だとすると、人も雇わないと行けないのか? あまり使わない気がするのに。
「どうしようか」
こう言う簡単な管理でこんなに苦戦してたら、大部隊の管理になると
混乱して大変な事になってしまいそうだな、小規模な部隊で良かった。
「とりあえず馬車は買っておこう」
ひとまず馬車を注文し、溢れている経費を少しだけ使うことにした。
こう言う大きなお金は使わないと経済が回らないんだよな。
立ち直ってきているとは言え、まだまだ経済は微妙だし
こう言う思い切った金の使い方も大事だろう
しかしまぁ、経費は予想以上の金額で、馬車を買っても全然減らん。
「…まだまだあるじゃん、500分の1減った程度か?
確か馬車は一台を円に直すと100万程の価値
馬と合わせると300万だっけ、それで500分の1か
え? じゃあ、まだまだ10億以上はある!?」
高位の部隊である小さな戦士達に支給される経費は凄いことになってる。
人数も少ないが、重要視されている部隊だからだろうけど。
流石に経費が多すぎても使い道がまるで無く、ただただ貯まるだけだし。
もう寮とか何処かに作らせようかな、小さな戦士達専用の寮って感じで。
でも、人数が少ないから城の部屋でどうとでもなってる現状。
仮に寮を建てるとしても、人数が増えないと意味が無いよな。
「さ、10億、10億か、何だか桁がおかしすぎて想像つかないな
やっぱり部隊の管理費とかって、結構高いんだな
てか、10億もあったら何できるんだ? まず間違いなく家は買えるな」
なんか本当に桁がおかしすぎて、庶民だった俺には想像できないな。
でもまぁ、間違いなく宿は買えるだろうし、人数が増えても大丈夫か。
てか、こんなに金があるんなら訓練場とか買って、整備して貰ったりして
訓練する方が良いよな、その方が各々にピッタリな訓練が出来るはず。
結構高く付くだろうが、毎月の経費は確か…7000万程だった気がするし
管理費とかも簡単に出せるだろうな。
「よし、まぁ、その内頼んでみよう」
まぁ、かなり先になりそうだけどな、なんか今は忙しいし。
とりあえずメモを軽く取っておいて、忘れないようにしよう。
「ふぃ」
「リオさん、お仕事ですか?」
「アルル、仕事じゃないな、暇だったから経費をどうしようか考えてたんだ
めちゃくちゃ余ってるし、そろそろ訓練場とか作っても良い気がしてな」
「そうですね、国の訓練場も良いんですけど、適切な道具が少ないですし
やっぱり部隊の訓練場も欲しいですよね、他の部隊もありますし」
「あぁ、だからその計画を練ってたんだ、ま、しばらく先だろうけど」
「あっと、確か15億ほど余ってましたね、ちょっとあまりすぎですよ」
「え? 知ってんの?」
「まぁ、その管理の方も少し任されてますからね
と言っても、独断で使えませんけど、私達が独断で使えるお金は
リオさん達に関する物だけで、部隊全体の物は使えません
そう言うのは、部隊長であるリオさんの判断が必要です」
こいつらも一応、管理とかしてたんだな、やっぱり俺達より仕事量多いな
そりゃあ、俺達よりも長い間生きてるから、管理とか得意そうだし。
当然と言えば当然なんだけども。
「あ、一応私達にはリオさんがこう使うと言う判断が間違ってると判断した場合
その使用を否定する権限があったりしますよ、暴走したら困るでしょうし」
「お前らって、結構権限持ってるんだな」
「私達は皆さんを守り、教育したり、子供特有の暴走を止めたりする仕事です
リオさんは大丈夫でしょうけど、小さな子が大金を管理となると
自分の為に使うようになってしまう可能性だってありますから
その暴走を止める為の権限が私達にはないといけないんです」
確かにその通りだよな、暴走した子供を止める権限が無けりゃ
こいつらがいる必要は無いし。
「ま、そうだな」
「えぇ、後、アドバイスも出来ますよ? これでもお金の事も習ってます
まぁ、金銭面の事では私よりもシルバーさんの方が優秀ですけど」
「やっぱりお前らも得意なところ違うんだな」
「えぇ、そりゃあ、得手不得手はありますとも」
当然か、同じ事が得意な奴なんてそうそういやしないだろう。
やっぱり得意な事と不得意な事は必ずあるんだから。
「あ、リオさん、1つ良いですか?」
「なんだ?」
「今日の晩ご飯何が食べたいですか?」
「晩ご飯の時間か?」
「えぇ、そろそろ」
「じゃあ……あ!」
晩ご飯の時間だと!? 嘘だろ! さっきまで明るかったのに!?
ヤバい! 集中しすぎて忘れてた! い、急いで城の兵士に話を聞かないと!
「あ! リオさん! 何処に行くんですか!」
「急ぎの用事だ! 晩飯は適当で良いから!」
「え!? ちょ、ちょっと!」
俺は急いで門番にウィンの事を聞いた。
流石にそろそろ来てるはずだろう、ひまわりくらい取ってくるのは簡単だろうし!
「あの毎日来ていた子ですか? 来てませんね」
「はぁ!? じょ、冗談だろ!? もうこんな時間なのになんで来ないんだよ!」
「いえ、そう言われましても」
馬鹿な、もうそろそろ7時だ、ひまわりの事を言ったのは10時くらいだったのに!
ただひまわりの事を聞いて、ひまわりの花を取りに行くだけでこんなに時間が!?
…クソ! あぁ、もう! 探すしか無いか!
俺は町中を走り周り、ウィンに会ったという人を探した。
しかし、そんな人は中々見つからない。
「はぁ、はぁ、ち、なら、花屋さんだ!」
花のことを聞くなら花屋さんに行くはず、俺は急いでその場所に移動し
ウィンが来たかを聞いた。
しかし、花屋さんもウィンの事は知らないと言う。
「…じゃぁ、ひまわりが咲いている場所を教えてください!」
見付からないというなら、あいつが行ったと思う場所を探すしか無い。
それなら丁度花屋に来てるんだ、ここで場所を聞けば良い。
「そうだね、この時期にひまわりが咲いているのは近くにある森」
先生と一緒にひまわりを取りに行った場所か。
だが、そこなら別に問題は無いはず、こんなに時間が掛かる筈は。
「後は国の近くにある、山かな、ひまわりの花を取りに行くなら
森の方にしておいた方が良いと思うよ、山の方は危ないからね」
山? 確か結構危ないって言われてた場所じゃ…
クソ! まさかそっちに行ったんじゃ無いだろうな!
「くぅ、あ、ありがとう!」
俺は急いで山の方に走っていったが、道中で面倒なのに出くわした。
「あら、リオちゃん」
「く、あ、あんたは」
自称俺の母親…こんなクソ面倒なときに厄介なのに出くわしたな。
「何処に行くの? あ、私を探してるのね」
「あんたはお呼びじゃないんだ、さっさと消えてくれ」
「…なんでそんなに冷たく振る舞うの? お母さん悲しいわ」
「あぁ!? 仮にあんたが俺の母親だったとすりゃあ!
こう振る舞われるのは当然だろうが! それだけの事をしたんだから!」
「す、捨てたのは、お、お金が無かったからで」
「それが免罪符になると? なんにせよ、あんたは少なくとも子を捨ててる
それが本当に俺か、別人かは知らねぇ、だが、捨ててるという事実は変わらん
そんなクソみたいな奴が俺の母親だと抜かすな」
「…子供のくせに生意気な」
「子供のくせに? は! その子供に救われてる大人がよく言うぜ!
テメェらがのうのうと暮らせるのは子供のお陰でもあるだろうが」
この国が今まで無事だったのは、国の為に戦った何人もの兵士。
そして、無理矢理兵士にされて、扱き使われたり、殺されたりしてる子供のお陰だ
それなのに何もしてねぇこいつは子供を見下す、ふざけきってるよな。
「この!」
「後、あんたの相手をしてる暇は無いんだ、今はお前さんの娘を探してるんだから」
「ウィン? へぇ、何処にもいないと思ったら、ふーん」
「心配じゃ無いのか? お前の娘だろ?」
「……心配よ、心配」
全く気持ちがこもってないな、絶対に心配してないだろ。
「…だったら失せろよ、時間もねぇんだ、心配なんだろ?」
「駄目よ、あなたが私の所に帰ると言うまではどかないわ」
「失せろよ、言ったろうが、時間も無いし、そもそも
俺はあんたの娘じゃ無いし、あんたに付いていくつもりも無い」
「…なら、無理矢理連れていくだけよ、子供の躾は得意なのよ
正直、あの子の躾よりは面倒よね、無駄な思い出が多すぎる物」
「はぁ? 無理矢理連れていく? 馬鹿にすんなよ」
「でも、躾けるのは簡単よ、子供の女の子、余裕よ、余裕」
マジでかったるいな、あんまり時間が無いって言うのに!
親なら普通、自分の娘の心配をするだろ?
なんで俺なんて言う正直自分の子供かも分からない奴に
チャチャを入れてるんだよ、ったく。
「ふふ、安心なさい、ゆっくりと体に教え込んであげる
それが1番簡単で、1番楽で、面白いしね」
「……うるさい、時間が無いって言ってるだろうが!
テメェはテメェの娘の心配しろよ!」
「要らないわよ、あんな役立たず、それよりもあなたよ、あなた
あなたを私達の物にすることが重要、楽できるわ」
「……言ったな、お前、絶対に言ったらいけねぇ言葉を言ったな
もう許さねぇ、お前には分からないだろう!
捨てられる奴の気持ちも! 役立たずなのはお前の方だ!
何も出来ない! 自分の事しか考えないような奴が!
他人に必要とされるわけが無い! ただの邪魔者!
お前は所詮子供の付属品! 要らないんだよ!」
「あ、あなた!」
「実際そうだろうが! 金の為に子供を売ろうとする親なんてな!」
自分の事しか考えない奴は他人に必要とされない。
仕事で自分の事だけを考える奴はまだ必要とされることはあるかもな
だが、仕事もしてない自分の事しか考えない奴が
他人に必要とされることは無いだろう。
こいつの場合はそれだ、子供を生むことが仕事だというなら
こいつは金の為に命を作るただの家畜だろうよ。
「もう許さないわ! ぐちゃぐちゃにして、精神的に壊してやる!
性格は最悪でも、体だけは可愛らしいからね!
良い相手が買ってくれるわ! それに偉い大将さんならより高値よね!
でも、性格がそんなんじゃ、売れないから
しっかり調教して従順で可愛い可愛い性格にしてあげるわ!」
「はん! 家畜が! 子供を馬鹿にするなよ! クソ親!」
「黙りなさい! 大人しく捕まってりゃあ良いのよ!
子供なんて親の物なんだから!」
「言っただろう、俺はお前の子供じゃねぇんだよ!」
俺は飛びかかってきたこの女にウィンチェスターの召喚での打撃を与えた。
ただの一般人がこんなの食らえば相当痛いだろうよ。
「うぐ! お、親に手を出すなんて!」
「命を取らねぇだけでも感謝して欲しいな、クソ女
お前はそこで悶えてろ、時間がねぇんだよ」
「こ、この! ま、待ちなさい!」
俺はそんな声を無視して、ウィンが向ったと思われる山に走った。
最初からこうすれば良かった、こうすれば良かったんだよ。
ちょっと位マシな所があるかも、とか、説得すれば直るかも
なんて言うクソくだらない感情なんて要らなかったんだ。
あんな奴にそんな可能性は無い。
……なんで、そんな事を思ったのか、それは分からなかった。
もしかしたら、あいつが本当に俺の母親で
俺は何処かでそれを理解していたのかもしれない。
だから、説得しようとした、良いところを見付けようとした。
もしかしたら…そうなのかもしれない。
でも、現実はこれだ、屑は何処まで行っても屑。
純粋な屑だったら、手の付けようもない、もはやあいつはただの家畜。
そんな家畜の娘なんて、考えたくも無くなった。
やっぱり、俺の親はカナン先生だろう、あの人が俺の、俺達の母親だ。
血の繋がりなんてどうでも良い、そんな物必要ない。
……はぁ、こんな事を考えてる暇は無いか、急いであいつを探さないと。




