久々に
爆弾処理の後、ミストラル王国へ小さな戦士達全員で帰還し
自分達がこっちで休んでいる部屋に向った。
それなりに開けていたはずだが、部屋は綺麗に掃除され
全く荒れてはいなかった。
「綺麗になってますね、結構開けてたのに」
「毎日メイド達が掃除をしていました、いつ帰ってきても良い様にと」
「そうなのか、感謝しないとな」
本当にありがたいな、綺麗な部屋で過ごせるのは…
まぁ、部屋に不満は無いんだけどさ。
「…所でメルト」
「ん?」
「なんでその犬を連れてきたぁ!」
「あん!」
何故かメルトが犬を連れてきていた、勘弁してくれよ。
「いや、ナナが可哀想だったし」
「いや! まぁ、そうかも知れないが! 正直俺犬は嫌いで」
「あ」
「あん!」
「うわぁ! 離すなよぉ!」
不意にメルトの腕から逃げだしたナナが俺に飛びかかってくる!
いや! マジ勘弁して! まだ大丈夫かも知れないけど
やっぱり犬は苦手何だよぉ!
「馬鹿! 舐めるな!」
「あはは、リオちゃん、そんな小さなワンちゃんに押し倒されるって」
「ばっか! バランス崩して、あ、あー! また舐められたぁ!」
「本当に犬が苦手なんですね、殺される訳じゃありませんって」
「それでも苦手なもんは苦手なんだよ! ちょ! な、舐めるなぁ!」
しばらくペロペロとなめられた後、アルルがナナを引き剥がしてくれた。
「はぁ、はぁ、はぁ…う、うぅ」
「リオさん、何も死んだ魚のような目をしなくても」
「あ、あほ、し、しんどい…マジ疲れた」
「あれですね、今のリオさんは言うなれば、れい」
「所でリオさん、授与式はいつでしたっけ」
ん? 真面目そうなシルバーがそんな事忘れたのか?
「あー、今から1週間後だよ、ちょっと早めに来すぎたな」
「そうですわね」
「あの、シルバーさん、そんな力強く私の肩握らないでくれます?
あの、肩が砕けそうなんですけど…」
「あら、そんな事ありませんわよ」
「えっと、不適切な発言をしそうになったことは謝りますから
肩、は、離してくれませんかね? いや、本当に砕けそうなん、で!」
「そうですの、ひ弱ですわね、全く力を入れてないというのに」
…いや、血管浮き出てるんだけど、あれ、かなりガチだろう。
てか、不適切な発言って何だ?
そう言えば、アルルが何か言おうとしてた様な。
「な、なぁ、不適切な発言って」
「リオさんは気にしないで良いことですわ
それでは、1週間お互いちゃんと休みましょうね」
「あ、あの! 肩握ったまま引きずらないでくださいよ!」
「おほほほほ」
「ちょ! ま! あ、あ、あー!」
……アルル、ありゃ、多分かなり痛い目見る事になるんだろうな。
「ひぃー! 謝ります! 謝りますからぁ!」
「問答無用ですわ!」
「痛た! 痛い! ちょっと勘弁してくださいよ!
比喩です! あれは比喩です!」
「その比喩でトラさん達が変な言葉を覚えたらどうするつもりですの!?
私たちは教育係ですわ! 皆様には健全に育って貰わねば!」
「い、いやぁ、そんな事言っても、多分その内皆様も聞く事に」
「なりませんわぁ!」
「いや! 折れる! 折れます! 私の華奢な腕が折れますから!」
「だまらっしゃい!」
「ひぃー! 勘弁してくださいよー!」
ドアの向こう側から2人の会話が聞えてくる。
これ、いちいちドアの向こう側でする必要あるのか? 無いよな?
「えーっと、ま、まぁ、2人は置いといて、えっと、えっと」
「み、皆様はおやすみになってください…つ、疲れてるでしょうし」
「そ、そうそれ! あ、ご、ご飯にする?」
「う、うん、お腹空いてるし」
「今日は何作るの!? お魚? 小魚でも何でもこーい!
あ、何ならもやしでも大丈夫だよ、美味しいからね」
「え、えーっと、お肉です」
「お肉!? 超豪華!」
フレイの奴はここに来てもう結構時間が経つのに
まだたまに今まで孤児院で食べてた料理の事を言う。
もしかしたら、あの頃の料理をまた食べたいと思ってるのかもな。
「……うーん、明日かな」
「ん? 何が?」
「明日か明後日かにひまわり行くか」
「うん! 行く!」
「えへへ…楽しみ」
「迷惑じゃ無かったら良いけど」
「大丈夫だろ、待ってるって言ってたし」
折角全員でここに帰ってきてるんだ、となると当然ひまわりに行くしか無い。
楽しみだな、ひまわり…カナン先生、元気だと良いけど。
…へへ、何か楽しみだな。
「うん! 速く明日にならないかなぁ!」
「1回寝たら明日だろ」
「じゃあ、今から寝る!」
「今から寝ても、目が覚めるのは夜だろうがな」
「1回寝たらじゃないじゃん!」
「時間を考えろ」
やれやれ、本当にこいつはもう…ま、フレイらしいけどな。
それにしても夜まで暇だな、飯食ったら散歩に行くか。
「あん!」
「…な、何だよ」
「あん!」
ナナは窓の外を見て吠えている…え? さ、散歩に連れてけって事か?
まぁ、俺も散歩に行くつもりだったけども、え?
「散歩に行きたいみたい…です、外を見て、リオさんを見てるって事は
きっと、り、リオさんと行きたいって事だと」
「え? えぇ!? ま、マジで!?」
「あん!」
「ば、馬鹿、ち、近寄るなよ、まだ苦手なんだから」
く、くぅ、し、仕方ない、一緒に行ってやるか、どうせ暇だし。
「あたた、あ、リオさん、ナナちゃんのお散歩ですか?」
「そうだよ、クソ、なんで犬の散歩なんて」
「あん! あん!」
ナナは嬉しかったのか俺の周りをクルクルと回り始めた。
いや、本当に勘弁して欲しい、鳥肌が、鳥肌が…う、うぅ。
やっぱ苦手だ…まだマシとは言え、キツいなぁ。
「へ、へ、へ、へ」
「う、うぐぅ、と、とりあえず首輪付けるぞ…動くなよ!」
「あん!」
「バカバカ! 動くなって言ったろ!
何舐めてきてんだよ! 止めろよぉ!」
「うへへ、ワンちゃんにもてあそばれてるリオさん、可愛いです」
「て、テメェ! 変な目で見てる暇があったら、助け、うわぁ!」
く、くそう、また押し倒された…本当に勘弁してくれよぉ…
ううぅ、また頬が…き、気持ち悪い。
「く、くぅ、と、とにかく、大人しくしろよ、首輪付けられ、うわ!
あっぶな! 口を舐めようとするな! ばっちぃ!」
「うへへ、うへへ」
「アルル! テメェ! 助けろって言ったろうがぁ!」
「うへへぇ、ワンちゃんにヒーヒー言ってる姿も可愛いですよ~」
「ざっけんな! 速く助けろ! 重いんだよ! 子犬だからって
犬の体重舐めんなよ!」
「舐められてるのはリオさんです」
「そう言う意味じゃねーだろうがぁ! あ! だから舐めるなぁ!
止めろ! マジで止めてくれぇ!」
「えへへ~、まぁ、このまま見ていても良いんですけど
このままじゃ、リオさんのファーストキスがナナちゃんに奪われそうですし」
「何言ってんだよ! 犬とのファーストキスって何だよ!」
「やはりファーストのキッスは私と!」
「黙れやぁ! 何が悲しくてテメェなんぞとキスするよ!」
「そんな事言うと、助けてあげませんよ~」
「じゃあ、シルバーに頼む!」
「助けさせていただきます」
切り返し速いな、あの馬鹿!
「はい、ナナちゃん、離れましょうね」
「へ、へ、へ、あん!」
「うぅ、また顔がベトベトだ、なんでナナは俺ばかり舐めてくるんだよ」
「1番懐いてるからじゃ無いんですか?」
「は! もしかして、喰うつもりなんじゃ! 舐めるのは味見的な意味で!」
「発想が幼稚園児のそれですよ、見た目的には問題ありませんけど」
「う、うっさいな、冗談だよ、喰うつもりならとっくに喰われてる」
とりあえずハンカチで拭いて…はぁ、ヤダヤダ、やっぱり犬は苦手だ。
本当に勘弁して欲しい、どうして俺ばかりここまで舐めるんだよ。
「クソ、ばっちいなぁ」
「微笑ましいじゃ無いですか」
「犬を人に置き換えてみろ、気色悪いだろうが」
「…リオさんに置き換えて見たら天国でした!」
「もう良い、お前に言っても何も意味無さそうだ」
本当にあいつは手が着けられない、はぁ、嫌だなぁ。
「まぁ良い、ほら、速くナナに首輪してやれ」
「リオさんがするんじゃ無いんですか?」
「嫌だよ、あんな目に遭いたくない」
「ナナちゃんはきっと、リオさんにして欲しいと思いますよ、ほら」
アルルの奴がナナを掴んでいる手を離しやがった!
「おま! 何離して!」
「あん!」
「待て待て! ストップ! 舐めるな! 舐めるの禁止だっての!」
「あん!」
「うわぁ! 足舐めてきた! 止めろ! こそばゆい!」
「へ、へ」
「や、やめ、く、ちょま、ストップ! あふ、あ、止めろって!
ちょ、くふ、ま、ま、ヤベ、む、無理!」
もう我慢できねぇ! 逃げる! 俺は逃げる!
と言うか、足舐められたの初めてだったけど
もしかして俺って足とかくすぐられるの弱かったりするのか?
横腹とかは大して問題無いのに? 何でだよ!
「あん!」
「リオさん、ナナちゃんの足から逃げられるとは思えませんけど」
「逃げるしか無いだろ! これ!」
「あん!」
「あぁ!」
結局追いつかれてまた押し倒された、勘弁して欲しい。
しかも今度は背中に乗られてるし。
「へ、へ」
「首元を舐めるな…クソ! 首輪付ける所じゃねぇだろこれ!」
「本当にリオさんはナナちゃんに翻弄されてますね、可愛いです!」
「良いから手伝えよ! 首輪付けられないし! 散歩にも行けねぇだろうがぁ!」
「はいはーい、お手伝いお任せください」
「最初から手伝えよ」
何とかアルルにナナを抱きかかえて貰い、首輪を付けることが出来た。
はぁ、なんで首輪付けるだけでこんなに疲れないといけないんだよ。
「それではリオさん、行ってらっしゃい」
「…アルル、お前は来ないのか?」
「え? リオさんからお誘い!?」
「い、いや、そういう訳じゃ」
「良いですよ! 愛の告白ですね!」
「やっぱ良い、行ってくる」
「あ! 待ってリオさん! 告白ならここでも良いのですよ!」
「誰がお前に告白なんぞするか! 気色悪い!」
「えー、大丈夫ですよ、愛は性別も年齢も超えますから」
「だから! 誰もテメェなんぞに告るか!
ナナがまた飛びかかってきたら困るからと思っただけだ!」
「えー、そんな夢も希望も無い」
「お前は絶望だけしてろ! この変態女! 色欲の魔神が!」
「イエイ! 最高の褒め言葉ですよ!」
マジで殴りてぇ、クソ、はぁ、暴走ばかりする。
ああいうのを残念美人って言うんだろうな、その最たる例だよ、あいつは。
見た目は美人のくせに、中身が酷すぎるし。
「はぁ」
「あん!」
「ちょっ! 走るな! これは散歩であってマラソンじゃ無いんだよ!」
「くぅん?」
「不思議そうな表情でこっちを見るな」
うぅ、この犬っころと散歩か…何か怖いなぁ。
変な事してこないよな? 噛んでこないよね?
だ、大丈夫だ、噛まれたことは無いし…舐められることはよくあるけど。
「あん!」
「はぁ、やれやれ」
…しかし、犬と散歩なんて今までやったことが無いな。
後、犬の散歩をして居る人を見たことがない、このミストラル王国では。
トロピカル地方ではチラホラ見るんだけど、ここじゃ殆ど無いんだよな。
犬猫を飼う習慣が無いのか?
「ん?」
そんな事を考えて歩いていると、ナナが動かなくなった。
何だと思ってみていると、どことなく力んでるような。
「…あ、そうか」
そう言えば散歩に行くって言ったときに渡された袋があったな。
「あん!」
やはり大便だったか、やれやれ、犬の散歩ってのも大変だねぇ。
「うぅ、面倒くさい」
と言っても、糞を放置なんて出来ないからな、面倒でもやるしか無い。
「やれやれ、なんで外でなりふり構わずしれるのかねぇ」
あ、ヤベぇ、俺も小便行きたくなった…クソ、男なら立ちション出来るのに
…あ、そうか男が立ちションするのと同じ感じか。
別に恥ずかしくないから簡単に出来るんだろう
そもそも犬猫に恥ずかしいという感情は無いんじゃないかな。
まぁ、それは良い…分かっても別に何にもならない。
問題は…俺が今この状況で小便に行きたくなっていると言うことだ。
近くに便所は無いし…まぁ、仕方ない、あの小道でっと。
「よし、誰も居ないな」
「うん、まぁ、別に問題は」
「リオさん!」
いきなり目の前の草むらからアルルが姿を現した!
「おわぁ! アルル! お前何処から!」
「それは良いのです、それよりリオさん!」
「な、何だよ」
「駄目ですよ! 女の子がはしたない!」
「な、何がだよ!」
「トイレはこっちです! 付いてきてください!」
「え? えぇ!?」
「ほら! 速く!」
「いや、別に外でも…あ、そうか、そう言えば拭かなきゃいけないっけ
ここじゃ拭く紙も無いし、そう言う」
「違います! 女の子がお外でおしっこは許されないのです!」
「えぇ!? もう漏れそうなんだけど!?」
「我慢してください! 本当にもう!」
うぅ、そう言えば前もこうやって怒られた気がするなぁ
確か遠足してた時にトイレ行きたくなって、いつものノリで
小便しようとしてたら先生にバレて…うぅ、やっぱ不便だなぁ。
と言うか、男はセーフで女はアウトってどういうことだよ。
その差ってなんだよ、紙か? 紙で拭く手間が有るか無いかか?
そこかな? 確かに重要だよな…うぅ、男の姿に戻りたい。
「なんで泣いてるんですか? ほら、おトイレですよ」
「は、はぁ、よ、良かった、堪えられた」
はぁ、今日もまた、女の体の不便さを感じてしまった。
むしろ良いところを体感した記憶が無い…
良いところはあるんだろうけど、やっぱ男は男のままが良いんだろうなぁ。
「ふぃ、スッキリした」
「リオさんには乙女に大事な事をみっちりと教えないといけませんね!」
「お前に教わりたくない、どうせ教わるならシルバーが良い」
「何でですか!?」
「お前、恥じらいからほど遠いだろ」
「ぐふ! ひ、否定できない…」
「それにシルバーってお淑やかじゃん」
「ああ見えてシルバーさん、かなり攻撃的ですけどね
特に私に対して…」
「それは全てお前が悪い」
「ですよねー」
自覚があるなら直せと思うが、ま、こいつには無理だろう。
とりあえずさっさと帰ろう…ん?
「あ、み、見付けた」
「ん?」
「おや? 知り合いですか?」
俺達が話をしているときに話しかけてきた少女
俺には全く記憶に無いが、向こうは俺を知っている。
見た目はかなり明確な茶色の髪の毛、目の色は紅い色
……しかし、何だろう、何処かで見たような…
「と言うか、リオさん」
「何だよ」
アルルは少し動揺を見せているな、何だ? どうしたんだ?
「もしかして、リオさんの」
「ん?」
「は、初めまして! お姉ちゃん!」
「…え?」
お、お姉ちゃん? え? 俺が? え? 何で? え?
知らないぞ? 俺、こんな子、見たことないんだけど。
「やっぱり! リオさん! この子リオさんに似てますもん!」
「はぁ!? 何で!?」
「この妙な気分はウィングさんとフランさんをみた時に感じた気分です」
「いや、俺に妹は居ない」
「え? わ、私はお姉ちゃんの妹なの!」
「いきなり出て来た訳が分からない女の子を
自分の妹だって認められるか、帰れ」
「なんで! 私は本当に!」
「帰れ、俺に妹は居ない」
こんな訳が分からない事、信じられるかよ。
「リオさん…」
「帰るぞ、アルル」
「待って! お姉ちゃん!」
「黙れ、俺に妹は居ない、親すら居ねぇんだから」
「それは!」
「ほら、帰るぞ」
「リオさん、でも」
「良いから帰るぞ、誰が信じるか、妹なんぞ」
妹なんて居ない、親に捨てられたガキに肉親なんて居るわけがない。
きっとこの子は嘘を吐いてるんだ、ま、どうせ似たような容姿だし
妹だって言って信じさせて、つけいろうって奴だろ。
それなりに知名度も出て来たし、そう言う奴が居てもおかしくないだろうよ。
「お姉ちゃん!」
「ふん、詐欺師に用は無いんだよ」
「……何で、どうして」
「さっさと帰れ」
「……私、諦めないよ、お姉ちゃん」
は、しつこい、ま、すぐに諦めるだろう、所詮詐欺師の子供なんざそんなもんだ。




