爆弾の無力化
俺達が犠牲無しに1つの地方を制圧したという話は
すぐにミストラル王国にも伝わり、噂は広がった。
その結果、過去の実績も見て、指揮官である俺に勲章を授ける
と言う話が出て来たらしく、ミストラル王国に戻れという
通達が俺達の所にやって来た、日時は3週間後。
正直、俺としてはこんな召集は突っぱねたいところだが
そんな事をすると色々と反感を食らいそうだしな。
一応、行くことにはした、久し振りに皆にも会いたいしな。
だが、そんな事をする前に、俺にはやることがあった。
「リオさん、今日はどうしてここに?」
俺は制圧後から1週間経ち、再びサンズ地方にきていた。
やりたいことは簡単だ、あの爆弾を何とかすること。
それが出来てようやく、俺達はこの場所を手にしたと言える。
それが出来ないままで勲章を貰うわけにはいかない。
まだ理想の結果を手にしてないからだ。
「爆弾を何とかしようと思ってな、分かるだろ?」
「許しませんよ?」
「馬鹿、あんなに言われたんだ、無茶はしない
今回はちゃんと安全に爆弾を無力化する方法があるんだ」
「…本当ですか?」
「本当だ、またケイさんに叩かれたりしたくないしな」
しかし、アルルはあまり俺の事を信頼していないらしく
今回もついていくと言って聞いてくれなかった。
まぁ、うん、今まで危ない事ばかりしてたし仕方ないか。
「しかし、何か街の雰囲気、ちと変わった感じがするな」
「そうですね、降伏前よりも活気があります」
ミストラル王国に降ったことにより、結構な自由が保障されている。
軍事力も強化され、保安だって強くなった。
だから、前よりも治安が良く、安全で自由な場所になったという感じか。
「だが、まだ地下には危険が残ってる、これを排除しない限り
本当の意味で安全で安心な場所では無い、あくまで今は延命処理だ
根本的な解決をしない限り、この平和が一瞬で壊れると言う危険が残る」
「そう…ですね、でも、危険な事はして欲しくない」
「だから危険じゃねーっての、流石に信じろよ」
アルルの不安はやっぱり残っているようだが、足は止めない。
俺達はそのままサンズ地方総司令部に移動した。
「どうも、ケイさん」
「どうしたの? あ、もしかして爆弾? 駄目よ、駄目、許さないわ!」
「まぁ、そうなんですけど、今回は安全な方法ですよ」
「……本当? 危なくないの?」
「はい」
「…何か信頼できないわね、当たり前の様に無茶する子は」
「いてて!」
うぅ、ほっぺを抓られてしまった、くぅ、こんな事された事…あ、あるか。
たまに先生にも軽く抓られてた、地味に痛いんだよな、こう言うの。
「まぁまぁ、ケイさん、大丈夫だって、俺がやる」
俺達のやり取りを見ていたグラードさんが近寄ってきて
自分の親指で自分を指さし、少し得意げにしている。
何かいちいち面白いな、この人。
「グラード、場所見たでしょ? あなたじゃ入れないわ」
「壊せば行けるだろ?」
「壊す道具が無いのよ」
あの壁、そんなに固く出来てたのか
じゃあ、完全に子供しか出入りできない様になっていたのか。
何が狙いか知らないが、本当に厄介な感じだな。
まぁ、偶然俺が居たから良かったけどな、解体方法も分かるし。
今回、安全に無力化する方法も分かっている。
「でもなぁ、リオちゃんに危ない真似はして欲しくないし
やっぱ俺が行くしか無いんだけどなぁ」
「敵だって分かってるのに、随分と優しいんですね、2人とも」
「はは! そりゃな! 敵とか味方の以前に
俺はリオちゃんのお父さんだしな!」
「冗談じゃ無い、あんたがリオちゃんのお父さんだったら
お母さんの私はあなたの妻って事になるわ、冗談じゃ無い」
「俺は別にそれで構わないがな、ケイさんみたいな
べっぴんさんで娘想いの優しい妻なら、文句は言えねぇっての」
「私が文句しか無いのよ、完全にネタキャラのあんたが夫なのは」
「じゃあ、あれだ、また飲み比べでどっちがリオちゃんの親か
決めてみるか?」
「上等」
何か楽しそうにしてるな、やっぱり常連客同士仲が良いんだろう。
まぁ、それは後で勝手にやって貰うとして、今は爆弾だ。
「あのケイさん、楽しそうにしてるところ悪いんですけど
爆弾の無力化の許可って頂けますかね?」
「危険な真似はさせられないわ、爆弾の解除なんて」
「…誰が解除するなんて言いました?」
「は?」
「俺がするのはあくまで爆弾の無力化、解除なんて危ない事はしない」
法則性が変わってる可能性がある中での無力化は危険だ
そんな真似をしたら周りを巻込んでしまう可能性だってある。
だから、解除なんてしない、あくまで無力化だ。
「……どうするの?」
「簡単ですよ、ただ爆弾を移動させるだけ」
「でも、あの時しなかったって事は移動は難しいんでしょ?」
「えぇ、地面から一切動かなかったんで爆弾の移動は難しいですね」
爆弾は一切地面から動こうとしなかった、ビクともしない。
普通C4はあそこまで強く引っ付かないんだけどな。
「じゃあ」
「でも、爆弾を移動させられないなら、地面を移動させれば良い」
「…え?」
だが、幸運なことにあの地下は土だった、あの爆弾がある場所も土だ
土なら簡単に掘って移動させることが出来る。
C4は衝撃などで爆発する危険性が無い安全面も良い遠隔爆弾。
そんな無理をしたって爆発することは無い。
後はそのC4を人畜無害な場所に移動させる
それだけだ、それだけで爆弾は無力化できる。
「あの爆弾は衝撃では爆発しませんからね」
「…確信があるの?」
「確信が無いと言いませんよ」
「……」
ケイさんは俺の言葉を聞いて、しばらくの間沈黙。
その後、小さく頷いてこちらの方を向いた。
「…良いわ、許可してあげる」
「ありがとうございます」
「じゃあ、何か協力することは無いかしら?」
「スコップでも何でも良いんで、地面を掘れる道具をください」
「分かったわ、マーズ」
「はい、掘る道具ですね、ちょっと待っててください」
マーズさんが部屋から出てしばらくして、スコップを持ってきた。
その道具を受け取り、地下の爆弾がある場所に移動した。
「…よし」
俺はM16のタクティカルライトを使い、爆弾の位置を特定。
そのまま明かりで照らした状態で、慎重にC4が付いてる地面を掘った。
地面は簡単に掘り進む事ができ、C4の下には大きく土が付いている。
その状態でC4を持って移動をし、入り口前で待ってる
アルル達の元に帰った。
「今戻りましたよ、はい、これがその爆弾です」
掘ってきたC4爆弾をアルル達の前に置き、爆弾だと言う事を伝える。
だが、アルル達はこれが爆弾だと言う事にピンとこないようだ
当然ではある、こんな道具、この世界で今まで見たことがなかったからな。
だが、ケイさんが見ていないというのは不自然だ。
この道具を作っているのがリ・アース国だというなら
その国の住民であり、軍人だったケイさんが知らないわけが無い。
国が作った道具なら普通に支給されていてもおかしくないのに。
「これが爆弾?」
「そうですけど、なんでケイさんが知らないんですか?
リ・アース国が作った道具なら、支給とかされてるんじゃ?」
「知らないわよ、こんな道具、てか、良くこれが爆弾だって分かったわね
私にはチカチカしてる変わった箱にしか見えないわ」
確かにこのC4は箱のような形状をしているな。
「まぁ、そう見えますけど、これは爆弾なんですよ、遠隔で起爆できる」
「そんな事まで知ってるの? どうして?」
「転生者って奴だからですかね?」
「何それ」
「何でも無いですよ、ただ見覚えがあるだけです」
やっぱりそう言っても簡単には信じては貰えないか。
そりゃそうだ、異世界から来ました、なんて言っても
子供の戯れ言だろうと思われたり、夢の話じゃ無いかって言われるだけだろう。
そんな事を信じてくれる人はそういない、信じるのは子供か
よっぽどの馬鹿くらいだ。
「なる程、転生者、だから見た目の割に頭良いんですね!」
「…え? お前は信じるの?」
「え? そりゃあ、普段のリオさん見てたら、あ、安心してくださいよ
どんな過去があっても、私はリオさん一筋ですからね!」
「な、何か、お前に信じて貰えたとしてもあまり嬉しくないな…」
「何でですか!?」
まぁ、普段の俺の姿や行動を見ていれば、信じるかな
子供の割に頭はキレるし、女の子なのに言葉遣いも荒い。
文字に対する理解力も結構あるし、習ってないことも何故か知ってる。
そんな普段の俺を知ってるなら、転生者だと言う事も納得するか。
「因みに転生者って何ですかね?」
「え!? 知らないくせに納得してたの!?」
「まぁ、何か響き的に死んだ後に蘇った、的な感じかと思いましたけど」
「それだよそれ、それで異世界って奴から来たんだ」
「へぇ、異世界って」
「もう良い! 何か説明してると訳分からなくなってくる!」
「は、はぁ、とりあえず異世界って所から蘇って来たんですね」
「そうだよ、記憶とかそのままで」
「便利ですねぇ」
「死なないと駄目だから便利じゃ無い…」
「何か、大変って感じですね」
「そうだよ、俺の場合、犬に殺された…くぅ」
「あ、だから犬が嫌いなんですか」
「そうだよ…」
「何? え? 何の話? 私には全く付いていけないんだけど」
「つまりリオちゃんは1回死んでこっち来たって事だろ?
うんうん、便利な体だよなぁ」
「え? え!? 何? 私だけ? 私だけ理解できてないの!?」
俺の言葉を信じてないのはこの中ではケイさんだけみたいだ。
まぁ、アルルは信じてくれるのはまだ分かる、普段の俺を見てるし。
だが、グラードさんが理解してるのはちょっとおかしくないか?
普段の俺見てないよね? この人、多分騙されやすいタイプの人だ。
「ま、まぁ、それが普通ですので、安心してください」
「安心出来るわけ無いでしょ!? つまり…どういうことよ!」
「深く知ると混乱すると思うので、今のままで、大丈夫です
何があっても、俺は俺なんで、変わりゃしませんよ
ちょっと変な事を知ってるって位ですから」
「ぐぬぬ、理解できないなんて、何かグラードに負けた気分になるわ」
「はっはっは! 俺の方が親に向いてるって事だな!」
「だまらっしゃい!」
そのやり取りの後、俺はこのC4を海まで運び、海に投げ捨てた。
これで爆発しても街に被害は無いだろう。
「…これで、ようやく本当の意味で制圧できましたね」
「そうですね、でも、しつこいのは居ますよ?」
「ん?」
「死にやがれ! クソガキ!」
海を見ていると、背後から男の声が聞えてきた。
すぐにその声に反応し、背後を見てみると
俺達を襲ってきた男が刃物を持って突進してくる
3回目だと!? しかも今度は完全に殺意がある!
ヤバいっての! しつこすぎるだろ!
「ヤバ!」
男の持つ刃物は俺を完全に捉えていた、これはヤバい!
死ぬって! マジで死ぬ!
「ぐぅ!」
だが、あと少しで刃が俺に突き刺さりそうになった時に
男の手が別の手に捕まれたのが見えた。
「しつこい男は嫌われますよ?」
「この、アマ!」
男は何とか刃物でアルルを刺そうとするが、軽く捻られる。
「んなぁ!」
「少しは技術を習った方が良かったですね
残念ながら力任せでは私は倒せない、当然リオさんも殺せない」
「うがぁ!」
「もう2度と来ないでくださいよ? 4度目はありませんから!」
アルルはそのまま男の腕を捻り、男の刃物を地面に落とさせ
すぐに一本背負いで地面に男を叩き付ける。
強く地面に叩き付けられた男はそのまま意識を失った。
「ふぅ、やれやれ、変な人に好かれますね、リオさんは」
「それをお前が言うな」
「ほら、私は健全ですから」
「黙れ…まぁ、今回は感謝するよ、ありがとうな、お陰で命拾いした」
「わ、私は、ほら、リオさんを、守るのがし、仕事ですし!」
「変に恥ずかしがるなよ、気持ち悪い」
「あはは、慣れないんですよね、やっぱりリオさんにお礼言われるの
罵詈雑言なら慣れてるんですけどね」
「そうかい、じゃあ、お前に礼は言わなくて良いって事だな」
「言ってくださいお願いします!」
「やっぱお前面倒くせぇな!」
「あはは…」
はぁ、ま、いいや、お陰で助かったしな。
「…じゃ、帰るか」
「はい、あ、この男の人はどうします?」
「放置で良いだろう、面倒くさいし、自業自得だ」
「そうですね、そろそろ夏ですし凍死の心配は無いでしょう」
「脱水でくたばる可能性はあるがな」
ま、とりあえず水筒でも持たせておこうか、死なれても困るし。
さーて、さっさと帰って、ミストラル王国まで戻るか。
しかし、これで勲章2つ目か、随分とまぁ、沢山貰えるもんだ。
正直胸ポケット辺りがごちゃごちゃするから邪魔なんだけどな。
ま、得意げに出来るし、邪魔でも良いか。




