選択
潜入から帰った俺達は今回の状況を軍団長に報告した。
敵軍の最強部隊の情報は集められなかったが
あの爆発の原因も突き止めた訳だし、十分だろう。
ついでに敵兵の配置も報告出来た訳だしな。
だが、何故か俺の気持ちは晴れなかった。
「…リオさん、何だか暗い雰囲気ですね」
「そ、そんな訳無いだろう」
…何でこんな気分になっちまうのかね。
爆弾を解除できなかったから…それとも
これから戦わないと行けない相手がとてもいい人達だったからか?
戦闘に私情を持ち込む、正直駄目な行動だろう。
…あの人達が普通に屑なら、それが良かったのに。
俺達を拾ってくれた人達はいい人過ぎた。
「なぁ、アルル…お前、戦えるか? あの人達と」
「……どうでしょうか、多分、無理ですね」
「じゃあ…説得、してみるか?」
「危ないと思いますよ? かなりね」
裏切り者、俺達はそう言う立場だ、そんな奴が今更説得は出来ないか。
だけど、戦いたくは無い、あんないい人達と。
「リオちゃん…」
帰ってきても暗い表情のままである俺を心配してか
フレイが俺に話しかけてくる。
「フレイ…な、何だ?」
俺はフレイに心配を掛けないために笑顔で答えた。
「リオちゃん、そんな下手くそな笑顔じゃすぐ嘘だってバレるよ」
フレイは俺の笑顔が無理をした作り笑顔だったと言う事に気が付く。
何でかな、こう言うときのフレイは良く気が付くんだ。
「無理しないでね?」
「…分かってるよ」
だが、俺の心は晴れないまま時間が経過する。
説得したいって言う事を何度かアルルに話した、しかしアルルは
上が許可しないですよ、とか、危ない危険という
俺は大丈夫だと言うが、それでもあいつは許さなかった。
当然、俺にも不安はある、会いたい気持ちもあるが
会いたくない気持ちもある、出会ったときに刃を向けられる
それは…何だか嫌だったから。
でも、このままじゃ、向こうの人達は全員…それは、嫌だ。
だけど、やはり怖い…
だが、決めることが出来ない俺達の気持ちをよそに
時間は刻一刻と過ぎていき、結局作戦行動の日が来た。
このままじゃ、あの場所が滅ぶ、戦力的にも圧倒的だからな。
「……」
だけど、俺はまだ答えを見付けられていなかった。
どっちが良いか、なんて分からない。
国が勝つ方が良いなら、この方が良い。
死にたくないなら、このままが良い。
だけど……どうしても、捨てきれない感情が残っている。
そんな俺に気が付いてか、フレイ、トラ、ウィングが心配そうにやって来た。
「お前ら、どうして?」
「リオちゃんに言いたいことがあって」
「な、何だよ」
「…リオちゃん、いつも通りで良いよ、いつも通りわがまま言えば良いじゃん
子供の特権だよ」
「うん、誰も責めたりしないと思う、いつも通り大きな声で言えば良い」
「…自分の好きなようにさせてくれって、いつも言ってるように」
「……」
「多分アルルも同じ事を思ってる、きっとわがまま言って欲しいんだと思う
だって、アルルもすごく苦しそうだから」
……何でかな、どうしてこいつらにこんな事を言われるんだか。
はは、そうだよな、いつも通りだ、いつもわがままは言ってた。
無理して作戦決行したり、無理して死にかけたこともあったっけ。
それが嫌で、最近は少し落ち着いてたのかもな、だけど、考えてみろ
俺はわがままに動いて、それが基本的に良い結果になって来た
今回だってそうだろう…ここで迷ったまま進んだら
きっと後悔する未来しか残せない、今まで通りわがままに
自分の考えるままに進む、それで良い、それで良いんだ。
「……ありがとうな、まさかお前らに言われるとは思わなかった
そうだよな、俺は子供だ、わがままに動く、それで良いか」
「「「うん!」」」
「……よし!」
俺はすぐにアルルを説得に向った。
「アルル」
「何ですか?…リオさん、何だか表情が」
「俺はやっぱり、あの人達を説得に向う!」
「だから、それは危険で」
「危険なのは分かってる! だが! そうしたいんだよ!
危険な橋を渡るのはいつもの事だ! それで1番良い結果が出るなら!
俺は命くらい賭けてやる! 最小の犠牲で最大の結果を残す!
それが、俺のやりたい事! 俺達、小さな戦士達のやり方だろうが!」
「リオさん……そうですね、出来るだけ死者は出したくない、やりましょう
リオさんのことは私が守れば良い、たったそれだけ」
「当然、私達も守るよ、アルルだけに任せられないし」
「うん、小さな戦士達全員でやる、アルルとリオだけじゃ力不足だし」
はは、こいつらも来るのか…まぁ、良いだろう。
全員で行動して、全員で最大の結果を残す!
あの時は戦果なんて言ったが、実際は結果が大事だからな。
戦果が無かろうと、後悔しない結果を目指す!
「ハルさん!」
今度は小さな戦士達全員でこの作戦の総司令を任されている
ハルさんの説得をすることにした。
「何? 真剣な表情だけど」
「お願いがあります、俺達はこれから敵の説得に向います」
「武力を盾にして?」
「俺達だけで向いますから、そういう訳ではありませんよ」
「……何で説得なんて?」
「犠牲を出さないためです、説得に成功すれば敵兵の犠牲は無いし
こちらの兵力にも犠牲は無い」
「……可能性が低い勝負に賭けるほど、あなた達の命は安いのかしら?」
「可能性は所詮不確定な物です、確定された可能性はありません
だから、俺達は結果に賭ける」
ハルさんはしばらくの沈黙し、俺達の表情を見て回った。
そして、小さくため息をつき、諦めたような表情になる。
「分かった、あなた達の能力、私が知らないわけじゃ無い
良いでしょう、なら私はあなた達の能力に賭けてあげるわ」
「ありがとうございます」
「……ねぇ、マル、あなたは一緒に行くの?」
「…うん、私は皆と一緒に戦うって、決めたから、それに不安は無いよ
皆なら…いや、私達なら、絶対に成し遂げられるから!」
「……そう、じゃあ、行ってきなさい! 良い? 死なないでよ?」
「分かってる!」
説得の結果、兵士達は進行を止め、その間に俺達はサンズ地方に移動した。
門の兵士達は臨戦態勢だったが、俺達がきて、俺とアルル、フランを見た後
少し固まった後、道を空けてくれた。
そして、そのまま俺達はケイさんがいる場所に移動。
「…ケイさん、どうも」
「リオちゃん! アルルちゃん! フランちゃん!
こんな時に見付かるなんてね! それに、友達も引き連れて」
「…ケイさん、それ、やめてくれます…分かってるんですよね?
その表情…うれし泣きには見えませんよ」
「……何で…何でよ、何であなた達みたいな子が、敵なのよ」
ケイさんは複雑そうな表情をしたまま、地面を向いていた。
「…リオちゃん、アルルちゃん、フランちゃん、ごめんなさいね」
ケイさんは自分の腰から刃物を取り出し、俺の首に当ててくる。
「あなた達は私達の敵、なら、殺すしか無い…でも、疑問しか無いのよ
あの時見たあなた達が演技には見えない、そして何より
何で、私達の所に戻ってきたの!? ミストラル王国の戦力なら
私達を制圧することなんて造作ないはず! あなた達が来る必要は無い!
勝つつもりなら、武力制圧で良かったでしょう!? なのにどうしてきたの!?
こうなる事くらい分かってたはず! こんな事になることは!
私に辛い思いをさせるため!? 何でよ! 何で!」
「俺も最初はただの敵だと思ってましたよ、でも、3ヶ月だけでしたが
その3ヶ月間、一緒に暮らして、あなた達がただの敵だと思えなくなった
俺達はあなた達を救いたい! だから、説得しにきたんですよ
お願いします、降伏してください…」
「そんな事、出来ると?」
首に当たっているケイさんのナイフが、少しだけ俺の首に食い込み
ちょっとだけ血が出て来た、少し痛い…でも、分かっている。
この痛みよりも、この刃物を突き付けているケイさんの方が辛い。
「……駄目なのよ、国民の為にも、私は非常にならないと行けない
国が制圧されてしまえば、全員殺されるのよ」
「…ッ」
うぐ…さっきよりも…食い込んできた、そろそろかなり痛い…
あと少しだけだ、あと少しだけ力を込めれば、ケイさんは俺を殺せる。
だけど、ケイさんの手は震えている。
「……総司令、そんな立場じゃ無ければ良かったのに
ただの女として生きていれば、こんな思いはしないですんだ
あなたを殺すって言う判断、普通の女だったらしなくて良かった
ごめんなさい、私は……私は!」
ケイさんが刃物を振り上げる、その時見えたケイさんの顔は
涙に濡れていて…その表情を見るだけでも辛く感じる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
振り上げられたナイフが俺の方に振り下ろされる。
しかし、あと少しで刃物が俺の首を斬り裂きそうになった時だった。
「ケイさん!」
何処かで聞き慣れた男の声が聞え、その刃物が止まった。
「グラード! 何の用よ! あなたも裏切るの!?」
「ケイさん、そのナイフを降ろしてやってくれ!」
「駄目よ! 出来ない!」
「何でだよ! リオちゃんを殺すなんて事! 嫌に決まってるんだろ!?」
「黙りなさい! 私は総司令! 非常な…判断くらい…で、でき…」
「そんな泣きっ面で言っても説得力の欠片も無い!
誰だって分かってる! リオちゃんを殺して1番辛いのはあんただろ!?」
「黙りなさい! 黙りなさいよ!」
「それに! そんな事したら、俺達は今まで通り酒を飲めねぇだろうが!」
「……」
「それが、あんたの1番の幸せだろ!? 今まで通りが!
それを自分で捨てようってのか!?
冗談じゃねーよ! 俺が飲む酒も不味くなる!」
「私個人の幸せはどうでも良い! 私はこの街の人達の幸せを!」
「自分さえ幸せに出来ない奴がそんな真似出来るかよ!」
「-!」
グラードさん……
「…でも、ここでこの子を殺す選択をしなければ、住民達は」
「ケイさん、実はどうすれば爆破を止められるか、俺達には分かってます」
「…え?」
「定時連絡をいつも通りにして居れば良い
爆発だって止める方法はある」
「ど、どうするのよ」
「前に地下行ったでしょ? あそこの爆弾、あれを止める術を俺は知ってる」
「……危険よ、他国のためにあなたが命を捨てる真似をする必要は」
「言ったでしょ? 俺はあなた達を救いたい」
「駄目よ、許さないわ…前にも言ったでしょ? 命を粗末にするなって」
「ケイさん、リオちゃんを殺そうとしたのにそれを言うのか?」
「……殺すつもりは無かった、私は殺されるつもりだった
でも、誰も動かない、アルルちゃんも…まるで私の心を見透かすように」
「そんな事、するとも思ってませんから」
殺すつもりなら、わざわざあんな動作をする必要は無かったはずだ。
あのまま俺の首に付けていたナイフを動かせば終わってた。
だが、わざわざそれを止めて振り上げる、殺すつもりが無かったのは明白だ。
「……そう」
「じゃ、より粗末にするなって言えなくなったわけだな」
「…そうね」
「で、リオちゃん、爆弾とやらを解除するにはどうすれば良いんだ?
教えてくれよ」
「何でですか?」
「俺がするからだ、そうすりゃ文句はねぇだろう?」
「ちょっとグラード! あんた何を!」
「へへ、子供に危険な役はさせられないが、降伏するには止めなきゃ駄目
だったら、誰かやるしか無いよな、で、それが俺って訳だ」
この人も大分無茶をする人だな。
「何でよ! 危ないわ!」
「ケイさん、俺はよ、幸せにのうのうと生きてぇから必死になって動いたんだ
だが、このままじゃ俺は幸せにもなれねぇし、のんびり生きていけない
だったら、いっそ死んだ方がマシ、そんな生き地獄を味わうくらいだったら
俺は命くらい賭けるさ」
「わ、分かった、分かったわ…そんな危険な事をさせるくらいだったわ
良いわよ、降伏する…で、止める方法って定時連絡する事よね?
そうすれば爆発しないのよね!?
そうなのよね!? 嘘だったら許さないわ!」
「嘘じゃありませんよ」
「…じゃあ、良いわ、降伏する…このまま戦ったら私達は負ける
そうなると、兵士達は無駄な犠牲になるから」
「ありがとうございます」
ケイさんは何とか俺達の説得を受入れてくれて、降伏してくれた。
その降伏に反感を抱いていた兵士は少々居たようだが
殆どの兵士達はその判断を賞讃していた。
これで戦いは避けられた、後の問題は爆弾の処理だな。
何とか剥ぎ取ることが出来ればどうとでもなるんだがなぁ。




