妹
異常な程に明るい朝日で目が覚めた、こんなにも朝日が眩しいと感じたのは久し振りだ。
まだ眠ってたいが、変に生活習慣を変えると面倒くさい。
はは、前までは長ーこと寝るのは当たり前だったんだがな。
とりあえず、朝起きたら外着に着替える、寝間着のままじゃ部屋の外出れないし。
「むにゃぁ、リオさーん…」
俺が服を着替えたことにアルルがなにやら寝言を話し出した。
なんだ? 夢でも見てるのか?
「リオ、起きたんだ」
「あぁ、起きたぞ」
フランは俺よりも早起きだな、まぁ、フランも毎日早起きだし当然かも知れないが。
俺はその後、寝間着から外着に着替えた、アルルが眠ってくれていると着替えるのが楽で良い。
あいつが起きてるときに着替えると変な視線を感じて怖い。
「リオさん、可愛いですぅ…」
寝言? 意外とそういう所あるんだな、アルルの奴。
と言うか、相変わらずどんな夢見てるんだか、やれやれ。
「アルル、涎垂らしてる」
「相変わらずの間抜け面だな」
はん、大の大人が涎垂らして寝るとかな、本当にだらしねぇ。
「仕方ない、布団が汚れても面倒だ」
俺は布団を敷いて眠っているアルルの口元を拭き取り、涎が垂れないようにしてやった。
これで涎で床が汚れることが無くなったな。
「む、むぅ、えへへ」
今度はにやけた、はぁ、眠ってても感情表現豊かな奴だなったく。
でもまぁ、起きてるときよりはマシだろう、起きてるときは色々と酷いし。
「本当にアルルは変な人」
「確かにそうだな、間違いない」
「……あ、あの、リオさん、フランさん…何も耳元で言わなくても、目が覚めてしまいました」
「なんだ、大して深く眠ってなかったんだな、なんだ? 30分くらいは寝たか?」
「ま、まぁ…その、あともうひとつ良いですか?」
「なんだ?」
「ここ、天国ですか? 天国ですよね? だってほら、リオさんがこんなにも近くに!」
「…どうやらまだ寝不足気味らしいな、寝かせてやるよ」
とりあえず眠らせる為にウィンチェスターを構えて非殺傷にした。
「い、いえ! それでは眠るどころか永眠します! 私を寝かせたいなら
耳元で優しー声で子守歌を歌って」
「おやすみ」
なんか何を言っても無駄そうだから引き金を引いた。
「あ、あー、し、視界が、暗く…眠たくなんてありません…わ、私は
り、リオさんの子守歌を聴くまで…眠らないのですか…ら」
必死に目を開けようとしているが、残念ながら無駄な抵抗だったらしくアルルはそのまま眠りこけた。
「やれやれ、無駄に抵抗しやがって」
「うん、今はリオと2人っきり、良い雰囲気を壊さないで欲しい」
「良い雰囲気には一瞬たりともなってないと思うが?」
「…なら、今から襲う、リオなら私の力で押し倒せる」
あ、ヤバいかもしれない、確かに俺の力じゃフランに抵抗できない。
一応色々とやってるが、まだひ弱なんだから俺の体!
と、とにかく逃げよう、掴まれたら終わりだ。
「あ、リオ、待って!」
「誰が待つかよ!」
俺は急いで部屋から出て走り出したが、前を見ていなかったため曲がり角で誰かにぶつかる。
「わぶぁ!」
「あっと、あ、リオちゃん、どうしたの?」
「あ、せ、セレスさん」
「……」
な、なんでこの人がここに? アルルと同じ様に寝てるのかと思ったが。
と言うか、なんかスゲー見てる、スゲー俺の事を見てる。
な、なんだ? 怪我でもしたか? さっきぶつかったときに?
うーん、よく分からないけど謝った方が良いよな。
「あ、あの」
「……よっと」
「うわぁ! な、何を!」
謝ろうとしたら不意にセレスさんに抱き上げられ、俺の足は宙に浮いた。
こ、この感覚は本当に慣れない、足が地面に付かないというのは若干怖い物がある。
「…あ、その…ごめん、実は僕…兄妹とか姉妹に憧れてて…だ、だから、えっと」
「え? そ、そうなんですか?」
「うん、だから、昨日一緒に働いたときにリオちゃんみたいな妹が欲しいなって」
お、俺みたいな妹? やっぱり妹なんだな、まぁ、見た目女だし当然ではあるのだが
どちらかと言えば弟だ。
「……」
「え、えっと、あの…」
な、何だか俺を見ているセレスさんの頬が少しずつ赤くなってきているのが分かる。
え? え? 何これ、どうしよう、これ、どうすれば良い!? これぇ!?
「ね、ねぇ、リオちゃん」
「な、なんですか?」
「ぼ、僕が髪の毛をといてあげるよ」
「え!?」
「ほ、ほら、髪の毛ボサボサだし」
「い、いや、その…わ、私…髪の毛の事とか気にしてないので、このままでも別に」
「駄目だよ、髪の毛は女の子の命、大事にしないとそれに憧れてたんだ誰かの髪の毛をとくのを
だから、お願い! 1度で良いから!」
う、うーむ、折角の夢を叶えるチャンスだし別に良いかな、髪の毛位。
結構先生やアルル達にもといて貰ってるから感覚にも慣れてる
それに、ここまで必死にお願いされたら断れない。
「わ、分かりました、それじゃあ、その…お、お願いします」
「本当!? ありがとう!」
セレスさんは俺を嬉しそうに自分の部屋まで連れていき、鏡の前に座らせた。
セレスさんの部屋は小さなぬいぐるみや沢山の女物の服が周りに掛けてあり
ベットと思われる場所には男物の服がいくつか畳んでおいてあった。
しかし、こんなデカい鏡あったんだな、見た目男っぽかったし
そう言うの気にしてないのかと思ったが、年相応のお洒落はしているんだな。
だが、部屋に掛けてある沢山の女物の服は1度でも着られたような跡はなく
ベットに畳んである男物の服の方がかなり年季が入っている。
「あ、あはは、あ、あまり部屋の中を見渡されると、は、恥ずかしいね」
「セレスさん、あの壁に掛けてある服は? 着てるようには見えませんけど」
「えっと、お洒落したくて買ったのは良いんだけど…僕には似合わなかったんだ
だから、使わないでおいてある、勿体ないよね」
「え? セレスさんならあの服を着ても絶対に似合うと思うんですけど」
「え、そ、そうかな?」
絶対に似合うだろうな、あの服を着た姿の想像も容易に出来るし。
なんというか、ボーイッシュな女の子って大体の服が似合うよなぁ
男物の服を着ても着こなせるし、可愛い服を着てもあまり違和感が無い。
と言うか、考えてみれば男物の服を女の子が着るのは結構似合ったり問題無いのに
なんでその逆は……う、うん、想像しただけで何だか…なぁ。
「じゃあ、き、着て…み、見ようかな」
「そうしてみてくださいよ、間違いなく似合います」
「じゃ、じゃあ」
そう言って、彼女は俺の目の前で自分の服を脱ごうとした。
「ちょ! ちょっと待った! さ、流石に私が居る前でそれは」
「どうして? リオちゃんも女の子だし、別に問題無いんじゃ無いかな?」
「い、いやぁ、そうかも知れませんけど、やっぱり人前で着替えるのは…」
「本当にしっかりしてるね、でも、大丈夫だよ」
止めても無駄みたいだ、し、仕方ない、ここは目を瞑って…
「……」
うぅ、で、でも、ちょ、ちょっと位なら…いや、駄目駄目、落ち着くんだ俺
向こうは俺が子供だという事もあり、当たり前の様に受入れているようだが
俺とセレスさんは昨日顔を合わせるまでは殆ど会話もしたことが無い他人のような物だ
それに実際の性別は違う、それなのに相手の裸を見ようなどと、紳士として…あるまじき行動!
で、でも、やっぱり気になってしまう。
「う、うーん」
ど、どうしよう、精神的動揺が…お、落ち着くんだ俺…ここは我慢だ我慢。
「…う、うん、こんな感じかな、ね、ねぇ、リオちゃんはどう思う?」
どうやら俺が葛藤している間に着替えが終わったらしい、少し残念な気持ちもあるが
耐え抜いたという気持ちもある。
「あ、はい」
俺はゆっくりと目を開け、今の彼女の姿を見てみた。
彼女の服は白と黒のボーダー柄で胸元がそこそこ開いている服だが
どうも服が大きすぎるのか、左方向の服が垂れ、黒色いノースリーブのシャツ見える。
下はスカートでは無く、黄緑色のハーフパンツだ。
うん、活発な女の子という雰囲気だな。
「どうかな? この部屋にある服を組み合わせてリオちゃんの服装に似せたつもりなんだけど」
「はい、可愛いですよ、活発な女の子って感じです」
「ほ、本当? よ、良かった、あ、そうだ、鏡の前に立って見て」
「え? 何でですか?」
「ちょっとやってみたいことがあって」
俺は言われるままに大きな鏡の前に正面を向いて立ってみた。
すると、セレスさんは俺の後ろの方に立ち、少し嬉しそうにしている。
「…う、うん、似てるね」
「そうですね、服の色は違いますけど」
俺の服はここに来てエナさんが買ってくれた動きやすい服で
殆どセレスさんの服と同じだ、ただ服の色が俺の場合は青と緑のチェックの上に
紺色のジャケットを羽織り、ズボンはベージュ色のハーフパンツだ。
本当は紺色のジーンズが良かったんだけど、エナさんはこの方が良いと言ってたからこのズボンだ。
「こうして見ると、本当に姉妹みたいでちょっと嬉しいな」
「そうですね、本当に兄妹みたいです」
うん、服装はよく似てる、顔は流石に似てないが、そもそも兄妹という物がいないから
普通の兄妹が何処まで似ているのか、なんて分からない。
…今更だが、俺とアルルとフランが姉妹だという話は少し無理がある気がするな。
だが、向こうはあまり違和感を感じていないらしいし、こんなもんなのかな。
「そ、それじゃあ、あの、リオちゃん、髪の毛をといてあげるよ」
「あ、はい、お願いします」
「それじゃあ、鏡の前に座って、痛かったら言ってね、止めるから」
「はい、分かりました」
彼女は鏡の下にある引き出しから、小さなクシを取りだした。
「そ、それじゃあ、行くよ」
鏡に映るセレスさんは少し緊張した面持ちではあるが、非常にウズウズしている様で
凄く楽しそうな表情をしている。
「…よいしょ」
少しの沈黙の後、セレスさんは俺の髪の毛にクシを入れて、動かし始めた。
この姿になるまでは誰かにクシを使ってといて貰うと言う経験は無かったが
この姿になってからは、結構こう言う経験をすることが多くなった。
小さな頃は先生に何度かといて貰い、兵士になって以降はアルル達が交代交代で
やってくれることがある、だが、アルルには出来れば髪の毛をといて欲しくは無い
なんか、あいつに無防備な状態で髪の毛をといて貰うってのはちょっとなぁ。
「ど、どうかな?」
「はい、上手です」
「あ、よ、良かったよ、私はあまり髪の毛をといたりしないから不安だったんだよ」
「何でやらないんですか?」
「僕、天然パーマでね、この状態で髪の毛をクシでとくと、凄く痛くてさ
だから、あまり出来ないんだよ、痛いのは嫌だし」
「へぇ、天然パーマってそう言う苦労があるんですね」
と言っても、俺も少し天パ気味だけど、まぁ、そこまで酷くないし、あまりその苦労は感じないな。
「うん、まぁ、そこまで苦労は感じないけどね」
「そうですか、じゃあ、もし良かったらこの後、私が髪の毛をときましょうか?」
「本当? 嬉しいな、それじゃあ、お願いするよ」
「はい」
そんな姉妹の様な会話をしながら鏡を見ると、後ろの扉が少し開き
かなり羨ましそうな表情を浮かべているフランの姿が見えた。
もしかしたら、あいつもこう言うやり取りをして見たいのかも知れない。
後でやってやろうか…とも思いもいもしたが、あいつはウィングの事を妹だと思ってるし
どうせこんなやり取りをするなら、ウィングとやった方が良いかもな。
その方がお互いに距離が縮まるだろう、この潜入の後に覚えていたら手伝ってやるか。




