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居酒屋の仕事

あまり話し声が聞えないから、大した人数はいないと思っていたのだが

どうやらそれは勘違いだったようで、1階の居酒屋はかなりの人が集まっていた。


「っしゃぁ! 今日は飲むぞ! お前ら-!」

「やっふー!」

「あんたら! 前も言ったけど、2階には子供が寝てるんだ! 静かにしな!」

「そんな事言ってもよ? その子供がここにいるじゃないかよ」


周りの馬鹿でかい大人達の目が一気にこっちに向いた。

いや、まぁ、背の低い視界はもう大分慣れたつもりではあったが

どうも、こう言う空気での大人達はより一層大きく見えてしまう。


「よぉ、お嬢さん、名前、なんて言うの?」

「えっと、り、リオって言います」

「おぉ、リオちゃんか! へへ、短い名前だなぁ! お、そうだ、お兄ちゃんはグラードってんだ

 別に覚えないでも良いぜ、へへ」

「何がお兄ちゃんだ、テメェはもうおじさんだろうが、髭親父」

「んだとー! 俺はまだまだ30歳だぜ! まだお兄ちゃんの年齢だろうがぁ!」

「へ、子供からして見りゃ、20越えた奴は全員おじさんだよ」

「くぅ! この野郎!」


俺に話しかけてきた髭のおじさんはチャチャを入れてきた男に近寄り

笑いながら首に肘を乗せてより笑顔になった。


「なんだ? お前ら何も飲んでねぇのによってんのか?」

「へ、明日が休みってなりゃ誰だってテンション上がるだろうが、っしゃぁ! なんか気分良い!

 よし! 生ビール3杯持ってこい! 俺が平らげてやるぜ!」


かなりテンションが高いな、やっぱり休み前ってなるとこんな風になるのか。

こう言う付き合いとか経験無いから新鮮だな…と、友達、いなかったし。

それに今の周りは毎日がこんなテンションだからな。


「3杯も飲んだらすぐに酔っちまだろ? あんた酒弱いんだから」

「問題ねーぜ! 今日の俺は3杯くらいならすぐだ! すぐ!」

「はぁ、酔っ払ってぶっ倒れても知らないよ、セレス、生3つだ」

「分かりました、生3つですね」

「セレスちゃん、そんな敬語は良いって言ってるじゃん、本当に固いなぁ」

「はは、安心してよ、おじさん達には敬語は使わないから」


あの人がセレスって人か、結構中性的な声をしているな

見た目は緑髪で短くパーマが掛かった髪の毛多分天パに何故か1回転してるアホ毛で青色の瞳。

服装は露出は少なく、緑色のスカーフ、紺色のカーディガンに赤と緑のネクタイをしている

下は緑と紺色のチェック柄のミニスカートか。

とりあえず、あのアホ毛が1番特徴的だな、1回転してるし。

で、ミニスカートと言うところを除けば全体的に男っぽいボーイッシュな子だ。


「それなら、私に対しても使って欲しくないんだけどね」

「い、いや、流石にそれは…恩人であるエナさんに対してタメ口はちょっと」

「ふふ、出会ったときはおばちゃん呼ばわりしてたのにねぇ」

「ご、ごめんなさい」


見た感じセレスはエナさんに対して頭が上がらないようだな。

まぁ、あの人にとってエナさんは命の恩人だし、当然と言えば当然だが。


「まぁ、もう気にしてないわ」

「嘘言えよ、ぜってぇ気にしてるだろ? 今でも言ってるくらいだし」

「おい馬鹿! 変な事を言うと!」


あの男の失言を聞いたエナさんから、圧倒的な威圧感が発生した。

ただの威圧感だけなのにここまで圧倒されるとは。


「……良い度胸じゃないか」

「あ、やっべ!」

「…本来なら痛い目を見せてやる感じだけど、まぁ、今日はリオちゃんに免じて許してやるよ」

「お、おぉ! リオちゃんありがとよ! 愛してるぜぇ!」


こ、この人の怒りを買うと、一体何されるんだよ、大の男共がビビるほどだし

かなりキツいお仕置きが待ってるんだろうな…威圧感も凄まじいし気を付けよう。


「一応言っておくけど、この子はまだ7歳だから、手を出したら」

「だしゃしねーよ、まぁ、後10年くらい経ったら分からないけどな」

「ごめんなさい」

「あら、振られたわね」

「こ、告白もしてねぇけど、なんかちょっとショックだな」


まぁ、冗談なんだろうけど、その冗談に対して冗談で返すのは礼儀だろう。

いや、冗談であって、冗談じゃ無いけどさ、誰が野郎なんかとくっつくかよ。


「くく、あはは! まぁ、お前みたいなおっさんと付き合おうなんて酔狂なガキはいねぇよ!」

「ま、まぁな、むしろこれでよろしくお願いしますとか言われたら困るっての」

「そうなったら全力で止めてあげるから安心なさいよ」

「まぁ、あり得ないでしょうけどね-」


アルルがさっき俺にあんな事を言った人の方を見て、小馬鹿にするように笑った。


「そもそも、保護者が強すぎて誰も手を出せないな」

「そうだね、アルルさん、結構強いから、はい、生3つ」

「お、サンキューセレスちゃん、で、さっきの、え? あの子って強いの?

 見た感じ、ただの女の子だけどよ」

「この前、酔った勢いでこの子に触ろうとした兵士があっさりと投げられてね」

「え!? そ、そんな事があったの!?」

「うん、確かリオが誤って睡眠薬を飲んだ時にあったの」


あの時にそんな騒動が、通りで俺が知らないわけだ。

普段でそんな騒動があったら大きな物音で起きるだろう、眠っていても結構感覚は鋭いし。


「ん? 誤飲したのか? 駄目じゃねーかよ、子供の手が届く場所に薬なんておいてちゃ」

「掃除したつもりだったんだけど、部屋に残ってたみたいでね

 本当にあの時はゾッとしたよ、まぁ、今は大丈夫さ、ちゃんと整理したからね」

「あはは、あの時はお騒がせして本当にごめんなさい」

「いや、あれは私が謝る方だよ、本当にごめんね」


どう考えても訳も分からねぇ薬を飲んじまったこっちが悪いんだけどな

いや、あれは飲んだって言うか事故だったけど。


「おぉ! 謝るとは珍しいじゃないかよ」

「流石に謝るさ、危うく私のミスで命を奪うとことだったんだよ? 

 そりゃあ反省もしてるし、悪いって気持ちで一杯さ」

「そうかい、お、そうだ、リオちゃんおじさんから1つ忠告だが

 訳の分からねぇ薬は飲んじゃ駄目だぜ? 最悪死ぬからよ」

「それ位の事、この子はよく知ってますよ、ただあの時は事故で飲んじゃっただけですから」


アルルが俺の事を庇うように話してくれた。

別にフォローはいらなかったんだけど、一応感謝しよう。

あのまま誤解されてたら、今以上に子供扱いされそうだし。


「事故って奴は怖いね」


まぁ、本当にあの薬がただの睡眠薬で助かったよ、あれがもし別の薬だったら

最悪俺はここにいない、死んでいただろうなぁ。


「そうですね」

「まぁ、結局無事だったし良いじゃないか、にしてもよ、今更聞くんだが

 なんでリオちゃんは姉の仕事を手伝おうと思ったんだ?」

「お姉ちゃんが私達の為に頑張ってお仕事をしてるんだから

 私もお姉ちゃんやフランの為にお仕事をしたいって思ったからです」

「あ、フランって言うのは私のもう1人の妹で、リオの妹でもあります」

「うぅ、良い子だね、おじさん感動したよ」

「へへ、そんな事知らされちまったら、俺達も売り上げに貢献しないとな! 生5つだ!」

「何を! じゃあ、俺は生10だ!」


色んな席で一気にご注文が…うわぁ、聞き取るの大変そうだぞ。

集中して聞かないと聞き漏らしそうだ。


「えっと、生10に、生5つに…うぅ、注文の量が多すぎて!」

「えっと、生10、生5つ、生7つ、生8つ、生2つ、チューハイ3つ、オレンジサワー3つ

 赤ワイン6つ、白ワイン4つです」

「…お、おぉ、リオちゃん、凄まじく耳が良いじゃないか、同時に聞き取るなんて、合ってる?」

「あぁ、合ってる」


どうやら全員分正解らしい、ふぅ、耳が良くて助かった。

でもまぁ、良くこんなに同時に聞き取れたな、正直自分でもビックリだ。

もしかして魔法の力か? 集中すると耳が良くなる、見たいな…あり得そうだな。

狙撃銃を構えて狙った相手の会話を聞ける力があるし、これ位の能力があっても不思議じゃないか。


「いやぁ、かなり耳が良いわね、9人同時くらいだったのに

 もしかしてあんた、姉よりも優秀なんじゃ無いのかい?」

「まさか、私なんてお姉ちゃんの足下にも及びませんよ、ねぇ、お姉ちゃん?」

「いや、リオは十分凄いよ、流石私のリオ」

「もう、お姉ちゃんったら!」

「あ、あはは」


とりあえず、照れ隠しの振りをしてアルルの足を軽く蹴った。

あまり力は入れてないが、少し痛かったらしくアルルの笑顔は少し引きつっている。


「痛そうだね、結構強烈な照れ隠しの様だね」

「ま、まぁ、そうですね、リオは結構力ありますから」


俺はあまり力が無いけど、人の弱い場所は大体把握してる。

だから、あいつを制止するときは大体弱い所を性格に狙っている。

実際効果は十分あるようで、攻撃の後にしばらく痛がることがよくある。


「あまりお姉さんをいじめない方が良いよ? はい、生10」

「大丈夫ですよ、慣れてますからね」


アルルは10ものジョッキを持ち上げ、絶妙なバランスを取って生10を頼んだテーブルに運んだ。


「バランス感覚良いね、アルルちゃん」

「妹たちを抱き上げたときに落としたら大変ですから、バランス感覚は鍛えているんですよ」

「本当に妹たちが大好きなんだな、アルルちゃんは」

「勿論ですよ、私の大切な妹達ですから」


その後も、アルルは何度も行ったり来たりを繰り返し、沢山のジョッキを運んだ。

俺も運ぶのを手伝ってはいるが、俺の力ではジョッキを3つ同時に持つのは無理だ

精々持ててジョッキ2杯だけ、ちょっとジョッキでかすぎるだろう。

大ジョッキって奴だよな、これ…何リットル入ってんだよ。


「お、重い…」

「まぁ、子供にはキツい重さだろうからね、無理しなくて良いよ」

「な…なんの!」

「いやぁ、大変だってのに、大した根性だよリオちゃん、子供とは思えない」

「わ、私だってお、お姉ちゃんだし…これ位でめげる訳には…!」

「おぉ! 良く運んできてくれたな! こりゃ、ぜってぇ美味い酒になってるぜ!」

「間違いねぇな、っし、飲むぞ!」


はぁ、はぁ、な、なんか居酒屋のバイトって、予想以上にキツいぞ…

くぅ、この大変な作業が後5時間も続くのか…


「う、ん…」


あ、くぅ、なんか凄く眠たくなってきた、午前の1時は眠い…

畜生、午前1時なんて、前は当たり前の様に起きていられたのに…


「リオ、眠たい?」

「そんな事…あ、な、ない…ょ…」

「無茶しないで、眠いなら言いなさい」

「そうだね、無理はしないことだよ、アルル、リオを部屋に運んでやりな」

「あ、はい、分かりました」


うぅ、うとうとしていると、不意に近づいてきたアルルが俺を抱き上げた。

…なんでお姫様だっこなんだろう、何か嫌だな。


「まさか4時間も頑張って働くとはね、本当に子供なのに真面目な子だな、リオちゃん」

「そうだね、あんたらにも見習って欲しいもんだよ、サボり魔共」

「相変わらずトゲがあるねぇ、ま、悪かねぇけど」

「ちぇ、リオちゃんに酌して欲しかったな」


酌してくれとは言われる事もあるのか…


「リオちゃんはもうおねむだよ、ま、僕で良かったら酌してあげるけど?」

「お、良いねぇ、酌してくれよ」

「じゃあ、別料金ね」

「うへぇ、マジかよ、ま、美味い酒のためだし別に良いけどな」

「はは、冗談だよ、はい」

「っとと」


しかし、本当に…楽しそうだな、ここに来てる人達。

…こんな所を見たら敵だと考えるのは難しいかも知れない。

だからもう、敵とは思わないようにしよう、この兵士達も守るべき対象だ。

…もう、あんな爆発は起させない、あんな悲劇は絶対に起させない

こんな幸せを一瞬で奪った爆発の原因…必ず見付けて阻止してやる…必ず。

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