警戒して
居酒屋コスモス、毎日夜の9時から、朝の6時の間だけ開いている居酒屋
ここの居酒屋は1人のバイトと、店主の2人だけで切り盛りしているが
今回アルルがこの居酒屋で働くことになり、アルバイト2人に店主1人となった。
アルルが仕入れてきた客の話では、この居酒屋は本当に居心地がよいらしく
文句を垂れたり、周りに迷惑を掛ける客は少ないらしい。
仮にそんな客が出て来た場合は店主がすぐに制圧し、追い出すそうだ。
その為、怨みはそれなりに浴びているが、それ以上に客達がこの店を好いているため
復讐などと言う真似をしようとするチンピラなどはそういないらしい。
ここに喧嘩を売れば、かなりの人数が敵になるから。
「どうですか? お客さんに聞いた情報ですけど
この感じでは、この店の店主は悪い人では無いと思われます
私もあの人はあまり裏がある人には見えませんね、まだ1日働いただけの感想ですけど」
「そうだな、酔った勢いで話してる連中が嘘を言うとも思えないし」
この報告を見た限りでは、この店の店主には一切の悪意がないというのは分かるな。
「因みにもう1人のバイトの人、セレスさんって言うんですけど、年齢は14歳ほど
彼女にも話を聞いたところ、彼女が働く理由になったのは私達と似ているんですよ
子供の頃に戦争で両親が死に、家が取り壊され路頭に迷っていたら
タチの悪い男の人達に誘われ、路地で酷い目に遭いそうになった時に
エナさんが助けてくれ、すむとことが無いならとこの家に連れてきて貰い
私達と同じ様に2階の部屋に住まわせて貰っているそうで、もう2年お世話になっているとか」
その話が本当だとするなら、エナさんは悪い人ではないという事かな。
ただ、1つ気になる事はあるんだよな…昨日は特に気にもならなかったが
今考えてみればかなり…不自然な物があるし。
「だがよ、アルル…この部屋のベット見たか? ダブルベッドなんだぞ?」
「普通じゃないですか?」
「いやなぁ、エナさんは夫が居ない、それなのに2階にダブルベッドがあるんだぞ?
それに、部屋も何故か2階に2つある、増設したような跡はないし
少し…その、不自然というか、違和感が…なぁ」
「言われてみれば確かに…増設の跡もないのに部屋が2つ
更にはベッドもダブルベッド……違和感、ありますね」
普通の居酒屋なら2階にこんな部屋はない筈だろう、仮にあったとしても1部屋で十分だ。
それにアルルが上がってきた後に足音は無かったから、多分エナさんは2階に上がってきてない。
つまり、あの人が眠っている部屋は1階にある、それなのに2階には2つの部屋。
あげく違和感バリバリのダブルベッドだ。
「……少し、街の人達に話を聞いてみましょう」
「そうだな、俺の方でもちょっと聞いてみよう」
俺達はその日、街に出て色んな人達にコスモスの事を聞いてみることにした。
その聞き込みを2時間ほど続けた結果、少し分かったことがあった。
あのコスモスは前までは居酒屋では無かったと言う事だ。
前は変わった姿の道具屋さんだったそうだが、その道具屋さんに行った人は見付からず
結局居酒屋の前にあった施設の全容は分からなかった。
「うーむ、分からんな」
とりあえずこの情報をアルルと共有するためにコスモスに戻った。
「あぁ、リオちゃんかい、どうしたんだい?」
……そうだな、今は子供の姿、この姿なら直接聞いてもあまり違和感がない筈。
「あ、あの、エナさん、実は聞きたいことが」
「へぇ、リオちゃんは偉いねぇ、私の事をさん付けで呼ぶとは、しっかりしてるね
昔、セレスを拾ったとき、あの子私の事をエナおばちゃんなんて言うから怒ったことがあるんだ
おっと、セレスなんて言われてもリオちゃんは知らないか
その子はね、あんたのお姉さんと一緒に働いてる女の子でね、良い子だよ
今度合ったときに話しかけてみると良いよ」
「あ、う、うん」
「それで? 聞きたい事ってのはなんだい?」
「あ、えっと、実はこのお店、昔は道具屋さんって聞いて」
俺がこの質問をエナさんにすると、彼女の陽気な表情が一瞬だけ曇った。
悪い事を聞いたのか、もしくは…ど、どうするかな。
「その話、何処で聞いたんだい?」
「えっと、こ、公園で遊んでたら」
「ふーん、そうかい、ま、良いさ、道具屋だったかい? まぁ、その通りだよ」
少し戻ったように見えるが、まだ表情は少し曇っている、何か嫌なあれでもあったのか?
「昔はね、ここのお店は…大人が遊ぶおもちゃを売ってたんだよ」
「お、大人が遊ぶおもちゃ? お、大人なのにおもちゃで遊ぶの?」
「まぁ、そうだね、で、その道具屋をやってたのが私の旦那、もう居ないけどね」
旦那さん居たんだ、まぁ、美人さんだし旦那さんは居ただろうな。
でも、子供は居ないようだし、それにもう居ないってどういうことだろう。
「どうして居ないの?」
「私が追い出したんだ、ちょっとやり過ぎだったからね」
な、何をやり過ぎたんだ? 凄く気になる。
「やり過ぎたって…な、何を?」
「まぁ、それはあんたにはまだまだ速いことさ、知らなくて良いよ
そうだね、あんたが後…8年位生きたら分かることだと思うよ」
嫌な予感しかしねぇ、もしかして、ここって昔…そ、そう言う店だったのか?
「まぁ、そんな旦那を見かねて、私が追い出したのさ、で、居酒屋を開いたと、こんな所だね」
「へ、へぇ」
もう、何かこれ以上は怖いし聞かないでおこう、何か怒られても嫌だし。
俺はそのまま教えてくれたことに対し礼を言い、部屋に戻った。
そこには少し動揺しているアルルが居た。
「アルル、どうしたんだ?」
「い、いや、その、リオさん…えっと、私この部屋を少し探ってみたんですよ」
「いつの間に?」
「ちょっと速く帰ってきて、暇だったんで、で、そしたら…その」
アルルは懐から小さな小瓶を取り出して俺に見せてきた。
何の小瓶だ? 明らかにヤバそうなんだけど。
「…なんだそれ」
「いえ、ただこの薬を取らないでくださいって言いたかっただけです」
「はぁ?」
「とにかく! 駄目です!」
よく分からないけど、アルルはその小瓶を俺の手が届かない高いところに置いた。
……何でわざわざ伝えたんだろうか、どうせ触らせたくないなら見せなけりゃ良いのに。
「うぐ、うぐぐぅ!」
「アルル? 一体何と葛藤してるんだ?」
「いえ! 何も!?」
何か様子が変だな…あの薬、マジでなんなんだよ…どう考えても怪しい。
「まぁ、良いか、とりあえずアルル」
「にゃ! にゃんでしょうか!?」
「…えっと、この居酒屋前までは居酒屋じゃ無くて道具屋らしいんだ」
「ど、道具屋ですか!?」
「そうそう、どうもいやらし」
「ストップ! いや、何でも無いです! ですけど、これ以上は言わないでいただきたい!」
「なんで?」
「リオさんからそんな単語を聞きたくないのです!
あ、そろそろ仕事の時間ですね! 行ってきます!」
……何だ? まだ仕事の時間じゃ無いだろうに、本当にあの瓶何なんだ?
明らかにヤバい物が入ってるのは間違いないが、見たくないな。
まぁ、別に良いか、触らぬ神にたたり無しって言うし。
「リオ」
「ん?」
俺がのんびりしていると、部屋を探っていたフランが俺に小瓶を渡してきた。
多分、アルルが上に置いた小瓶と同じ物だろう。
「なんだこれ」
「部屋の隅にあった」
あー、何だ? 瓶のラベルがビリビリになってて読めないな。
ただ期限は読める、えっと、あ、まだ大丈夫だな。
……しかし、なんだこれ? 風邪薬か?
「んー」
瓶の蓋を開けて中身を少し見てみたが、未開封の様で一切薬が減ってなかった。
どれもこれも錠剤で、見た感じはただの風邪薬にしか見えない。
「風邪薬?」
「そんな気がするな」
「飲んでみる?」
「こんな何か分からない薬を飲むわけがないだろうが」
とりあえず一粒取ってみたけど、やっぱり何処からどう見ても普通の錠剤。
もしかしたら、あの人が風邪薬に置いておいてくれたのか?
いやいや、それは無いか、何てったってこんなにボロボロのラベルだし。
「リオ、私にも見せて」
「見るも何も、ただの薬だけど?」
「えっと、忘れ物…あぁ!」
「あ!」
「んぐぅ!!」
アルルが帰ってきた時に驚いたフランが錠剤を投げ、運悪く俺の口に入り
勢いのまま飲んでしまった。
「ケホ! ケホ!」
「り、リオさん! そ、その薬!」
「あ、あぁ!?」
さ、最悪だ、とにかくさっさと吐かないと。
「リオさん!」
「ばっか! いきなり抱き上げるな! 吐けないだろうが!」
「リオさん! えい! えい!」
「あだ! あだ! 馬鹿! 背中叩くな! 痛ぇだろうがぁ!」
「駄目です! は、速くあの薬を出してください! あれ、ば、バイアグラと言って
とにかく飲んだらヤバい薬なんです!」
「わ、分かったから、吐く! 吐くから背中を叩くなぁ!」
「えい! えい!」
「いでぇぇ!」
アルルは必死になっているのか、俺の言葉に聞く耳を持たず、必死に背中を叩いた。
この方法は駄目だろ! これは確か餅とかが喉に詰ったときに対処法じゃ無かったっけ!?
これじゃあ、どんだけ叩いても吐けないっての! 動揺しすぎだろうが!
吐かせたいなら、口に指突っ込むとか、色々あるだろうがぁ!
「な、なんで吐かないんですかぁ!?」
「その方法で吐くわけ無いだろうが! 背中叩くのは詰ったときとかだよ!」
「え、えぇ!? と、とにかく急がないと! り、リオさんの体が
あ、あの薬を吸収したら! 吸収したらぁ! ぶふぁぁ!」
な、何だよ! 今度は鼻血吹き出しやがったぁ! 何だ!? 何を想像したぁ!
「ゴラァ! 何で鼻血吹き出してんだよ!」
「えへへ、リオさん、一緒にヘブンへ…っは!」
「この馬鹿、速く…けほ、けほ…う、うぐぅ」
あ、何か嫌な感覚だ…最悪だ、どうしよう。
「り、リオさん!? 顔が赤くなってます!」
「…あ、アルル…」
「トロンとした目! 確定ですね! わぁ、襲われちゃいますぅ!」
「黙って…」
俺はそのままぶっ倒れて、意識を失った。
「あ、あれ? り、リオさん!? リオさん!?」
「…寝てる」
「え? あ、あれ? 寝てるんですか? 何で?」
「……ん」
「あ、どうも…えっと、えっと…あ、これ、睡眠薬ですね」
「危ない薬?」
「眠たくなる薬です、でも、眠っちゃったらしばらく起きれませんから
かなり無防備になるので場所によっては危ない薬です…」
「起きない、起きないんだ…」
「だ、駄目ですよ? フランさん、変な事を考えては!」
「大丈夫、寝顔を見るだけ」
「なら私も」
「……アルル、仕事の時間だよ、何やってるんだい?」
「り、エナさん!?」
「ま、可愛い妹の寝顔を見るのも良いけど、と言うか、なんでその子はそんな所で寝てるんだい?
さっき騒がしかったのも理由があるのかい?」
「り、リオが睡眠薬を間違えて飲んでしまって、それで」
「…はぁ、しっかりしてても子供は子供だね、とにかくベットに寝かせてやんな、風邪引くよ」
「あ、はい、分かりました」
……う、うぐぅ…眠い…まだ6時…位なのに…う、うぅ…




